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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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87/144

風の気配

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

翌日。

ジジはルナを抱え、ガイアと並んでエルフ居住区を歩いていた。


「ガイア」


「ん?」


「風の子、今日もいる?」


「診療所着いたら呼んでやるよ」


「うん!」


満足したのか、ルナはジジの肩に腕を回した。

しばらく歩き、見慣れた診療所の前で足を止める。


ジジが扉を開けた。


「こんにちは」


「あ、来たね」


奥からアグラディアが顔を出した。

いつもの穏やかな笑みを浮かべ、ジジに抱かれたルナを見る。


「ルナリス、脚はどう?」


「痛くないよ」


「そっか。よかった」


それから、視線がジジの隣へ移った。


「そちらが、この前話してた――」


言葉が止まる。


長い銀髪に、褐色の肌。

アグラディアは何度か瞬きをして、僅かに身を乗り出した。


「……あれ」


「なんだよ」


「いや、ごめん。もしかして……ヴァレイアの民?」


ガイアの方も少し意外そうな顔をした。


「え? ……なんで?」


「ヴァレイアのエルフのこと、とても古い文献でしか読んだことなかったんだんだけど...」


「独特の香りがするって書いてあったんだ」


ガイアは怪訝な顔をした。


「へぇ...そうなんだ」


アグラディアが再び口を開きかける。


「君は―――」


「俺はいいから」


ガイアが遮った。


「ルナの話だろ?」


「あ」


アグラディアが我に返る。


「そうだった。ごめん」


少し恥ずかしそうに笑い、改めてガイアへ向き直った。


「僕はアグラディア。児童所の所長をしてる」


「知ってるよ。レグラスの息子だろ」


「僕のこと知ってるの?」


「名前くらいはな」


「そっか」


そこへ奥からシャイアが顔を出した。


「来たの?」


「うん。この前話してたエルフの方も一緒」


シャイアの視線がガイアへ向く。

一瞬、目を丸くした。


「……へぇ」


頭の先から足元まで、珍しそうに眺める。


「何?」


ガイアが眉を寄せた。


「いや。褐色のエルフって初めて見たから」


「見世物じゃねぇぞ」


「ごめんなさい。バインスじゃ滅多に見ないから、つい」


悪びれる様子もなく笑ってから、シャイアは軽く手を上げた。


「初めまして。シャイアよ」


「ガイア。あんたがここの医者だろ」


「あら、知ってるの?」


「話は聞いてる」


「なら話が早いわね。入って」


促され、四人は診察室へ入った。


ジジがルナを診察台へ座らせる。

アグラディアはまず、再生途中の脚を確認した。


「変わったことはない?」


「ないよ」


「痛くなったり、熱くなったりも?」


「ない」


「うん。順調そうだね」


再生部分を慎重に確認し、シャイアにも見せる。

二人が頷き合った。


「脚はこのまま様子を見よう」


アグラディアが立ち上がる。


「今日は精霊の方を確かめたいんだ」


「何すりゃいい?」


ガイアが聞く。


「精霊を呼んでもらってもいい?」


「いいよ」


ガイアは診察台のそばへ寄った。


「ルナ」


「なに?」


「呼ぶぞ」


「うん」


ガイアが片手を上げる。


何かを唱えるわけでもない。


閉じた室内に、ふわりと風が流れた。

カーテンが揺れる。

机に置かれた紙の端が僅かに浮き、ガイアの長い銀髪がさらりと動く。


「あ」


ルナが声を上げた。

アグラディアが顔を向ける。


「分かった?」


「うん。来た」


「どこにいるかも分かる?」


「うん」


ルナは迷わず手を上げた。

指先が向いたのは、ガイアの肩より少し高い場所だった。


「そこ」


アグラディアの目が僅かに見開かれる。


「……見えてるわけじゃないんだよね?」


「見えないよ」


「じゃあ、どんな感じ?」


ルナは少し考えた。


「いるって分かる」


「そっか……」


アグラディアは手元の紙へ何かを書き込んだ。


「ガイア、悪いんだけど、一度離してもらっていい?」


「精霊を?」


「うん」


ガイアが軽く手を振る。

室内を巡っていた風が止んだ。

ほとんど同時に、ルナが顔を動かす。


「いなくなった」


アグラディアの手が止まった。

シャイアもルナを見る。


「今、ガイアが何かしたの分かった?」


「分かんない」


「音は?」


「聞こえなかった」


「……そっか」


アグラディアは少し考え込み、もう一度ガイアを見る。


「もう一回呼ぶことって出来る?」


「いいよ」


再び精霊が呼ばれる。

風が生まれる、その瞬間。


「来た」


今度は誰かが尋ねるより早く、ルナが言った。


「そこにいる」


先ほどと同じ場所を指す。

アグラディアはしばらく何も言わなかった。


「……どうなの?」


ジジが聞く。


「うん……診る前まで、風そのものを感じてる可能性もあると思ってたんだ」


アグラディアはルナを見ながら答えた。


「でも、それだけじゃなさそうだね」


「エルフなら分かるもんじゃねぇの?」


「精霊の気配を感じ取れるエルフはいるよ。

 親和性が高い者なら、それ自体は珍しいことじゃない」


「じゃあ何?」


「まだ分からないんだ」


困ったように笑う。


「僕もこういう例を実際に見るのは初めてだから」


ジジの眉が寄った。


「危ねぇの?」


「今のところは大丈夫だと思う。

 ルナリス自身に変化はないし、苦しそうな様子もないから」


「ならいい」


短く答えたジジの隣で、ガイアがルナを見ていた。


「この前言ってた共鳴ってやつか?」


「その可能性はあると思う」


アグラディアは頷く。


「でも、まだそうだとは言い切れない。

 今分かってるのは、ルナリスが精霊の存在をかなり明確に

 感じ取ってるってことだけ」


「きょうめい…」


ルナが聞いた。


「んー……」


アグラディアは少し考える。

難しい言葉を使わずに伝えようとしているのが見て取れた。


「今は、風の子がいるのが分かるんだよね?」


「うん」


「じゃあ、それだけ覚えてればいいよ。まだ僕にも分からないから」


「アグラディアも分かんないの?」


「分かんない」


「そっか」


ルナはあっさり納得した。

ガイアが小さく笑う。


「素直だな」


「ガイア」


「あ?」


「風の子、ガイアのお友達?」


「まあ、そんなもん」


「名前は?」


「ねぇよ」


「ないの?」


「いちいちつけねぇよ」


ルナは少し考え込んだ。


「名前あった方がいいよ」


「本人に言え」


「聞こえる?」


「聞こえてんじゃねぇの?」


ルナは精霊がいるらしい場所へ顔を向けた。


「名前ほしい?」


返事はない。


しばらく待ってから、ルナが首を傾げる。


「何も言わない」


「だろうな」


ガイアの声には僅かに笑いが混じっていた。

その様子を見ていたアグラディアが、ふと尋ねる。


「ガイアは、その精霊と契約してるの?」


「なんで?」


アグラディアの目がまた少し輝いた。


「本当に――」


ガイアが横目を向ける。


「あ」


アグラディアが止まった。


「ごめん。つい」


一通り確認を終えると、アグラディアは記録を閉じた。


「今日はこれで大丈夫。脚も精霊のことも、何か変わったらまた来て」


「ああ」


ジジがルナを抱き上げる。


「帰るぞ」


「うん」


「ガイアも?」


「一緒に帰るよ」


「じゃあ帰ろ」


ルナは満足そうにジジの首へ腕を回した。


「またね、アグラディア」


「うん。またね」


「シャイアも」


「ええ。またね、ルナリス」


ガイアも軽く片手を上げる。


「じゃあな」


——————————————————————


三人が診療所を出ていった。

扉が閉まり、足音が遠ざかっていく。


「……珍しいもの見たわね」


シャイアがぽつりと言った。


「ガイア?」


「ええ。とってもいい匂いなのね、ガイア」


「でもガイアがヴァレイアのエルフかは分かんなかったけど......」


「気になって仕方なさそうだったわね」


「……ごめん」


「私に謝ってどうするの」


シャイアが笑い、使った器具を片付け始める。

アグラディアも机へ戻り、診察の記録を開いた。


―脚の再生に大きな変化はなし。

―精霊の出現と消失を、視覚に頼らず認識。

―その位置も把握している。

―共鳴については――まだ判断できない。


そこまで書いて、少し考える。


そして最後に一行を書き加えた。


―精霊を呼び出したエルフ――ヴァレイアの民...?


アグラディアはペンを置き、記録を閉じた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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