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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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85/139

感応

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

「ジジ」


「ん?」


「シャイアのところ、行かなくていいの?」


朝。

着替えの途中だったジジは、ルナの服を手にしたまま顔を上げた。


「なんで?」


「何かあったら来てって言ってたよ」


「何かあった?」


「ない」


「じゃあいいだろ」


「そっか」


ルナはあっさり納得した。

ジジも気に留めず、いつものように着替えを手伝う。


湯あみも、着替えも、再生途中の脚の手入れも。

毎日見ている身体だった。


服を通し、裾を整えようとして――ジジの手が止まる。


「…………ん?」


「なに?」


返事をせず、ルナの脚を見る。

もう一度見る。


「……ルナ」


「なに?」


「なんか、脚長くなってね?」


ルナも自分の脚先を触った。


「そう?」


「いや……」


ジジがしゃがみ込む。


昨日も見た。一昨日も、その前も。

毎日見ていたせいで、いつからこうだったのか分からない。

以前は膝を少し越えたところまでだったはずだ。

それが今は、ふくらはぎの途中ほどまで形を取り戻している。


「……伸びてる」


「ほんと?」


「ああ。結構伸びてる」


「いつ?」


「分かんねぇ。毎日見てっから逆に気づかなかった」


「痛くないよ」


「それはいいけど」


「じゃあ、シャイアのところ行く?」


「……行く」


「ルナ、さっき言ったよ」


「分かったって」


「ジジ、行かなくていいって言った」


「そうでしたね」


「ルナが合ってた」


「はいはい、ルナが正しかった」


満足そうに笑うルナへ服を着せる。


「ほら。行くぞ」


「うん」


——————————————————————


午前中のうちに、二人はエルフ居住区へ向かった。

診療所へ入ると、シャイアが二人に気づいた。


「あら、いらっしゃい。何かあった?」


「脚が伸びた」


ルナが答える。


「伸びた?」


「俺も今朝気づいた」


「アグラディアも呼んでくるから、見せてもらいましょうか」


奥の診察室へ入ると、ほどなくしてアグラディアも顔を出した。


「こんにちは。どうしたの?」


「脚が伸びたよ」


「本当?」


アグラディアはルナの前にしゃがみ込んだ。


「じゃあ、ちょっと見せてもらっていい?」


「うん」


布を上げる。


アグラディアが目を丸くした。


「……本当だ。かなり伸びたね」


シャイアも隣から覗き込む。


「前は膝の少し下までだったわよね」


「うん。この辺だったと思う」


アグラディアが以前の位置を示した。

そこからさらに、新しい脚が続いている。


「ちょっと触るよ。痛かったらすぐ言ってね」


「うん」


「ここは分かる?」


「分かる」


「じゃあ、こっちは?」


「そこも」


「痛くない?」


「痛くないよ」


膝を支え、ゆっくりと曲げ伸ばしする。


「これは?」


「平気」


「そっか」


アグラディアはほっとしたように笑った。


「ちゃんと感覚もあるね。皮膚も綺麗だし、今のところ変なところはなさそう」


「じゃあ大丈夫?」


ルナが聞く。


「うん。今のところはね」


そう答えてから、記録へ目を落とす。


「……ただ、やっぱり速いなあ」


「悪いの?」


不安そうにしたルナへ、アグラディアはすぐ首を振った。


「ううん。悪いところがあるって意味じゃないよ。僕がびっくりしてるだけ」


「そっか」


「このまま全部戻る?」


ジジが聞く。


「その可能性は高いと思う。でも、まだ断言はできないかな」


ルナが自分の脚を撫でる。


「全部戻ったら歩ける?」


「すぐには駄目よ」


シャイアが答えた。


「中の骨や筋肉までちゃんと出来上がってるか確認して、それから立つ練習」


「歩く練習もする?」


「もちろん」


「ジジ」


「ん?」


「歩けるって」


「まだ先だぞ」


「でも歩ける」


ジジが少し笑った。


「ああ。そのうちな」


アグラディアが記録を書き込んでいる横で、ジジがふと思い出した。


「そういや、もう一個聞きたいことあった」


「何?」


「精霊」


アグラディアが顔を上げる。


「精霊?」


「この前、ガイアが風の精霊呼んだ時、ルナが気づいたんだよ」


「気づいた?」


「ガイアの周りにいるやつが楽しそうだって」


アグラディアの手が止まった。


「……詳しく聞いていい?」


「ああ」


ジジは鍛錬所で起きたことを話した。


ガイアが風の精霊を呼んだこと。

ルナには姿も見えていなければ、声も聞こえていなかったこと。

それなのに、ガイアの周囲にいる何かを感じ取り、「楽しそう」と言ったこと。


アグラディアは最後まで口を挟まず聞いていた。

それからルナを見る。


「ルナリス。その時、精霊は見えた?」


「見えてないよ」


「声は?」


「聞こえない」


「じゃあ、どうしてそこにいるって分かったの?」


「分かるから」


「うーん……」


アグラディアは少し考えた。


「ガイアの周りにいるって思った感じ?」


「思ったんじゃないよ」


「うん?」


「いたの」


「……そっか」


アグラディアの表情が少し変わる。


「どうして楽しそうだって分かった?」


ルナはしばらく考えた。


「一緒だから」


「一緒?」


「ガイアと一緒で楽しそうだった」


アグラディアは黙り込んだ。


「なんか分かった?」


ジジが聞く。


「まだ分からない。でも……」


ルナリスを見ながら、慎重に言葉を選ぶ。


「もしかしたら、精霊に感応してるのかもしれない」


「かんのう?」


ルナリスが首を傾げた。


「精霊がそこにいることや、感じていることを、ルナリスも何となく受け取ってる……そんな感じかな」


「ガイアと一緒の子、楽しそうだったよ」


「うん」


アグラディアは少し考える。


「姿も見えない。声も聞こえない。それでも、そこにいることと、楽しそうにしていることは分かった」


「うん」


「それが気になるんだ」


アグラディアが柔らかく笑った。


「ただ、今の話だけじゃ何とも言えない。今度、そのガイアって方も一緒に来てもらっていい?」


「ガイアも?」


「うん。実際に精霊がいる時に、ルナリスが何を感じるのか確かめてみたい」


「分かった。言っとく」


「ありがとう」


——————————————————————


アグラディアは記録を閉じかけて、ふと手を止めた。


「それと……この件は父にも報告しておくね」


「親父?」


ジジが聞き返す。


「そう。精霊については父の方が過去の記録にも詳しいんだ」


「アグラディアのお父様なら、聞いておいた方がいいわね」


シャイアが何気なく言う。

ジジがそちらを見る。


「そんな詳しい人なの?」


「詳しいなんてもんじゃないわよ」


シャイアは笑った。


「レグラス・ルシーダ。ここのエルフ居住区の長よ」


「……長?」


「ええ。それだけじゃないわ。

 周辺六同盟国のエルフ居住区を束ねる議長でもあるの」


シャイアが追い打ちをかける。


「ルシーダ家自体、ハイエルフの中でも古くから続く名家だからね」


「名家……」


「シャイア、余計なこと言わなくていいよ」


「本当のことでしょ?」


「そうだけど」


ジジは改めてアグラディアを見る。


どう見ても、これまで普通に診察していた腰の低い若いエルフだ。


「全然そんな感じしねぇな」


「どんな感じを期待してるの?」


「もっとこう……偉そうな」


「父の立場と僕は関係ないでしょう」


「いや、六ヶ国の議長の息子は普通じゃねぇだろ」


「僕が議長なわけじゃないからね」


「そういう問題か?」


「そういう問題」


アグラディアが苦笑する。

ルナが二人を交互に見た。


「アグラディア、すごいの?」


「僕は別にすごくないよ」


「親父がすげぇんだって」


「父は……まあ、そうだね」


そこだけは否定しなかった。

シャイアが笑う。


「素直ね」


「事実だから」


アグラディアは記録をまとめながら、いつもの穏やかな調子で続けた。


「じゃあ、脚は今まで通りで大丈夫。

 痛くなったり、急に熱を持ったり、何か変だと思ったらすぐ来てね」


「うん」


「精霊のことも、また何か感じたら教えて」


「分かった」


ルナが元気よく頷く。

ジジは立ち上がった。


「じゃ、午後からギルドだから行くわ」


「またね、ルナリス」


「またね」


二人が診療所を出ていく。


——————————————————————


扉が閉じたあと、アグラディアは手元の記録へ視線を落とした。


異常なほど速い再生。

千里眼の可能性。

そして、精霊との共鳴。


「……父上には、早めに報告した方がよさそうだな」


シャイアが隣から記録を覗き込む。


「そうね」


アグラディアは小さく頷き、記録を閉じた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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