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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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83/139

オリハルコンとミスリル

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

昼を過ぎた頃、

ジジはルナリスを連れてギルドへ向かった。


昨日バルトから持ちかけられた、鍛錬所の教官の話。

引き受けるとは言ってないものの、

やることもないので行くことにした。


ギルドに入ると、受付嬢がジジに気づいた。


「バルトさんなら上にいますよ」


「ああ。マーサは?」


「事務所です」


ジジは受付の裏へ回り、小さな事務所の扉を叩いた。


「どうぞ」


扉を開ける。

書類を整理していたマーサが顔を上げた。


「あら、ジジ。ルナリスも」


「マーサ!」


「こんにちは、ルナリス」


マーサが笑う。


「教官の話?」


「ああ」


「バルトならもう鍛錬所に行く準備してると思うわ」


「そう」


「ルナリスはどうする?」


「頼んでいい?」


「もちろん」


ルナリスも頷いた。


「マーサのとこいる」


「何かあったらすぐ呼べよ」


「わかった」


事務所を出ようとしたところで、

正面の方が騒がしくなった。


「……何?」


マーサが顔を上げる。

ギルドの入口付近から、

いくつもの声が聞こえてきた。


「嘘、ガイアさん?」


「いつ戻った?」


「昨日らしいぞ」


「久しぶりに見た……」


「相変わらず美形だな」


「甘い匂いがする…」


銀色の長い髪を揺らしながらガイアが歩いてきた。

片手には、見慣れない大きな実を持っていた。


「甘い匂い!ガイア!」


ルナリスが声を上げる。

ガイアがこちらを見る。


「よっ」


「どうしたの?」


ガイア右手の大きな実を持ち上げた。


「昨日の約束」


「……?」


「ココナッツ」


「ここなっつ!」


ルナリスの顔が明るくなる。


「食べれる?」


「食えるけど、まず中の水飲んでみろ」


「お水入ってるの?」


「ああ」


ガイアは市場で穴を開けてもらった実を

ルナリスへ渡した。


「こぼすなよ」


「うん」


ジジが横から支える。

ルナリスは恐る恐る口をつけた。


一口。

少し考える。

もう一口。


「……ちょっと甘い」


「そうだな」


「おいしい!」


「ならよかった」


ガイアはそれだけ言って、

ココナッツをジジへ預けた。

マーサがガイアとルナリスを見比べる。


「……随分仲良くなるの早くない?」


「そうか?」


「ガイアが昨日

 ココナッツ食べさせてくれるって言った」


「言ったな」


「それで本当に買ってきたの?」


「約束したからな」


何でもないことのように答える。


その後ろでは、まだ冒険者たちがガイアを見ていた。

その視線がジジへ移る。


「……待てよ」


誰かが呟いた。


「オリハルコンとミスリル、揃ってる?」


「すげぇ二人いる……」


「同じとこ立ってんの初めて見た」


六国唯一のオリハルコン。

そして、ミスリルランクの褐色のエルフ。


並んでいるだけで、妙な圧がある。

当の二人は気にも留めていなかった。


「相変わらず人気ね、ガイア」


マーサが言う。


「うるせぇだけだろ」


「昔からじゃない」


「だから面倒なんだよ」


ガイアがマーサを見る。


「つーか、久しぶり」


「今?」


「忘れてた」


「失礼ね」


「まだ受付やってんの?」


「受付主任になりました」


「へえ。偉くなったな」


「あなたは?」


「何が」


「今までどこにいたのよ」


「色々」


「相変わらずね……」


そこへ奥からバルトが出てきた。


「騒がしいと思ったら、お前か」


「よ」


「いつ戻った」


「昨日」


「そうか。久しぶりだな」


「ああ」


バルトの視線がジジへ向く。


「話は聞いたのか?」


「ああ。昨日こいつんちで全部聞いた」


「ルナリスのことも?」


「全部」


バルトが少しだけ表情を変えた。


「そうか」


ガイアはそれ以上言わなかった。

その時、マーサがジジに声をかける。


「ジジ、もう新しい家は慣れた?」


「ああ。」


「よかった」


ガイアがマーサを見る。

次にジジを見る。

またマーサを見る。


それからバルトへ視線を移した。


目が合う。


ガイアが僅かに眉を上げた。

バルトが小さく首を横に振る。


「……マジかよ」


「何よ」


マーサが振り返る。


「別に」


「何?」


「何でもねぇって」


バルトは黙って顔を逸らした。


「おい、行くぞ」


ジジを見る。


「鍛錬所だ」


「ああ」


「ガイア、お前は?」


「行く」


「何しに」


「ひやかしに」


「暇なのか?」


「うるせぇ」


一行はそのまま鍛錬所へ向かった。


——————————————————————


午後の鍛錬所には、既に候補生たちが集まっていた。


バルトが入ってくる。

その後ろからジジ。


さらにガイアまで姿を見せた瞬間、

場の空気が変わった。

ざわめきが広がる。


「……ジジ・ガルシアだ」


「本当に教官やるのか?」


「オリハルコンだぞ……」


「待て、後ろ」


「ガイアじゃねぇか」


「ミスリルまで何で…」


「今日どうなってんだ……」


バルトが手を叩いた。


「静かにしろ」


声が止まる。


「昨日も話したが、

 しばらくこいつに鍛錬を見てもらう」


ジジが候補生たちを見る。


「まだ教官になるって言ってねぇ」


「来たからいいだろ」


バルトが横から言った。

候補生たちの顔には既に不安が浮かんでいた。


その後ろで、ガイアが欠伸をする。


「お前も何か言うか?」


「何で」


「ミスリルだろ」


「やらねぇ」


即答だった。

バルトが呆れたように息を吐いた。


ふと、何かを思いついたように二人を見る。


「……せっかくだな」


ジジが嫌そうな顔をした。


「何」


「オリハルコンとミスリルが揃ってる」


「だから?」


「一本やれ」


「嫌だ」


「面倒くせぇ」


ジジとガイアの声がほぼ同時に重なった。

バルトが笑う。


「そこだけ息合うな、お前ら」


「やらねぇよ」


「候補生に見せるにはちょうどいいだろ」


その言葉に、候補生たちの目が一斉に二人へ向く。

期待だけは隠せていない。

ガイアがその顔を見回す。


「……クソ面倒くせぇな」


「お前がやるならやる」


ジジが言う。


「何で俺基準なんだよ」


「嫌なら帰れ」


「てめぇ」


結局、二人は鍛錬場の中央へ出た。

候補生たちは端へ下がる。


ルナリスとマーサは鍛錬所の柵の外に座っていた。


「ジジとガイア戦うの?」


「模擬試合よ」


「どっち強い?」


マーサが困ったように笑った。


「それは私にも分からないわね」


向かい合った二人が木剣を構える。


空気が変わった。

先ほどまで欠伸をしていたガイアの目から、

気怠さが消える。


ジジも同じだった。

バルトが手を上げる。


「始め!」


次の瞬間。


候補生たちの目から、二人の姿が消えた。

激しい音が響く。


「――っ?!」


遅れて風圧が走った。

何人かが反射的に腕で顔を覆う。

中央では既にジジとガイアが木剣を交えている。


一度。

二度。

三度。


速すぎて、音が後から追いついてくる。


ジジが踏み込む。

ガイアが紙一重でかわす。


「鈍った?」


「お前が遅ぇんだよ」


「言ってろ」


ガイアの銀髪が大きく靡いた。

風が集まる。

次の瞬間、空気そのものが弾けた。


候補生たちがどよめく。


「精霊術……!」


風がガイアの周囲を巡る。

その身体がふっと軽くなったように見えた。


一歩。


それだけで、ジジの背後へ回る。

だがジジは振り返らない。


背後から振るわれた一撃を、そのまま受け止めた。


「何で分かんだよ……」


候補生の一人が呟く。


「見えてねぇだろ、今の」


「これ、俺たちが参考にするやつか?」


「無理だろ……」


その時。

マーサの隣で、ルナリスがふっと笑った。


「楽しそう」


マーサが顔を向ける。


「何が?」


「ガイアの周りにいる子」


「……え?」


ルナリスは模擬試合の方へ顔を向けている。

目元には、いつも通り布が巻かれていた。


「いっぱい動いてる」


マーサの表情が変わった。


「ルナリス」


「なに?」


「……何がいるの?」


「分かんない」


「見えてるの?」


「見えてないよ」


「じゃあ、どうして……」


ルナリスが少し考える。


「分かるの」


「何が?」


「風の中にいる」


近くにいたバルトが振り返った。


「……ルナリス?」


「なに?」


「そいつら、どこにいる」


ルナリスが指を差す。

迷いはなかった。


「ガイアの周り」


バルトとマーサが顔を見合わせた。

その直後、凄まじい衝撃音が響く。


「そこまで!」


バルトの声が飛んだ。


「鍛錬所ぶっ壊す気か!」


ジジとガイアの動きが止まった。


「壊してねぇよ」


「まだな!」


ガイアが木剣を下ろす。


「だから嫌だったんだよ」


「お前も普通にやってただろ」


「てめぇが乗ってきたからだろ」


候補生たちは誰も喋らない。

バルトが振り返った。


「どうだ。勉強になったか」


沈黙。

やがて、一人がおそるおそる手を上げた。


「……何を勉強すればいいんですか」


「知らん。自分で考えろ」


「無茶言わないでください……」


ジジが候補生たちを見る。


「今の真似しなくていいよ」


「できません!」


即答だった。

ガイアが小さく笑う。

そこへバルトが手招きした。


「ガイア。ちょっと来い」


「何」


「いいから」


マーサとルナリスのところまで来る。


「さっき精霊呼んだよな」


「ああ」


「ルナリスが分かってた」


ガイアの顔が止まった。


「……は?」


ジジも振り返る。


「何が?」


「ガイアの周りに何かいるって」


マーサが答える。


「風の中にいるって言ったの」


ガイアがルナリスを見る。

ゆっくりと、その前へしゃがんだ。


「ルナ」


「なに?」


「さっき、俺の周りに何がいた?」


「分かんない」


「分かんねぇ?」


「うん」


「どこにいた」


ルナリスはガイアの周囲を指す。


「ここらへん」


「どんな感じだった?」


「楽しそう」


「……楽しそう?」


「うん。いっぱい動いてた」


ガイアが黙る。

ルナリスが首を傾げた。


「あれ、なに?」


「……精霊だ」


「せいれい?」


「ああ」


「ガイアのお友達?」


ガイアの口元が少し緩んだ。


「まあ、そんなもん」


「まだいる?」


「今は呼んでねぇよ」


「また呼べる?」


「ああ」


「呼んで」


「今?」


「うん」


ガイアは少し考えた。

片手を上げる。


「……ほら」


柔らかな風が吹いた。

閉ざされた鍛錬所の中で、ガイアの銀髪がふわりと揺れる。


ルナリスが顔を上げた。

そして笑った。


「来た」


その場にいた全員が黙った。

ガイアの目だけが、ルナリスをじっと見ている。


「……分かるのか」


「うん」


「どんな感じ?」


ルナリスは少し考えた。


「楽しそう」


「さっきと同じ?」


「うん。ガイアの近く。好きみたい」


ガイアが黙る。

その時、風が銀髪を一房持ち上げた。

ルナリスが笑った。


「楽しそう」


「……マジかよ」


ジジが近づく。


「これもハイエルフだから?」


「知らねぇ」


ガイアは風を収めた。


「俺は学者じゃねぇよ」


「アグラディアに言った方がいい?」


「言っとけ」


ガイアは立ち上がり、ルナリスを見る。


「ココナッツ、残り飲む?」


「飲む!」


「持ってくる」


「お前自由すぎるだろ」


バルトが言う。


「教官じゃねぇからな」


「お前も教官やれ」


「嫌だ」


「即答すんな」


「時間決められんの面倒くせぇ」


「じゃあこれから何すんだ」


ガイアは少し考えた。


「適当に依頼受ける」


「それだけか?」


「たまにどっか行く」


「また消える気か」


「知らねぇ。その時考える」


バルトが深く息を吐いた。


「お前、

 二百年以上生きてんのに何でそんな適当なんだ」


「二百年以上生きてるからだろ」


ガイアは平然と答えた。

そう言って、ルナリスの方へ歩いていく。


「ルナ。ココナッツ」


「こぼすなよ」


「こぼさない」


「さっきジジに持ってもらってただろ」


「今度はルナが持つ」


「重いぞ」


「持てる」


「じゃあ持ってみろ」


ジジはその後ろ姿を見た。


昨日まで、この街にはいなかった男。

二、三年ぶりに戻ってきても、何も変わっていない。


気まぐれで、口が悪くて、好き勝手に生きている。

そのくせ、昨日交わしたルナとの約束だけは忘れない。


「ジジ!」


ルナリスが呼んだ。


「何?」


「一緒に飲む?」


「飲む」


「てめぇの分買ってねぇぞ」


「一口くらいいいだろ」


「自分で買えよ」


「ケチ」


——————————————————————


鍛錬所の柵のに残された候補生の一人が呟いた。


「……あの二人、本当にすげぇ人なんだよな?」


隣の候補生が答える。


「多分」


「なんかもう分かんなくなってきた」


バルトの耳にその会話が聞こえ、大きく息を吐いた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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