冒険者ギルド
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。
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冒険者ギルドの扉を押し開けた。
夕方の受付ホールには、依頼帰りの冒険者や、
掲示板の前で依頼書を選ぶ者たちが行き交っていた。
受付では職員たちが書類を捌き、
その向こうでは次々と報告書が積み上げられている。
ジジはルナリスを抱いたまま中へ入った。
後ろから、移動椅子を持ったダンテが続く。
最初に気づいたのは、入口近くにいた冒険者だった。
「……ジジ…ガルシア?」
その声に、何人かが振り返る。
「え?」
「ガルシアじゃねえか?」
「マジか」
「いつ戻ったんだ?」
ざわめきが広がった。
城門での話が、もう届いているらしい。
「オリハルコンが戻ってきたって、やっぱり本当だったのか」
「半年ぶりじゃねえか?」
「おい、ジジ!」
奥から声が飛ぶ。
「久しぶり」
ジジが片手を上げる。
その腕の中で、ルナリスが顔を上げた。
「ジジ」
「ん?」
「いっぱい人いる?」
「そうだな」
「みんなジジのこと知ってる?」
「知ってるみたい」
「へえ」
ルナリスが周囲の声を聞くように顔を動かす。
「その子誰だ?」
誰かジジに聞いた。
「ルナ」
「ルナ?」
「そう」
それだけ答えて、ジジは受付へ向かった。
視線がついてくる。
半年ぶりに戻ってきたオリハルコン。
その腕には、目元を布で覆った小さな女の子。
さらに後ろには、ノーカルミア守備隊長のダンテ。
何もないと思う方が難しかった。
「ジジ……?」
受付奥から、女の声がした。
ジジが顔を向ける。
赤い巻き毛が肩で揺れている。
手にしていた書類を置いて受付の中から出てきた。
「マーサ」
「……本当にジジ?」
「ああ」
マーサはしばらくジジの顔を見ていた。
「久しぶり」
「……久しぶりじゃないわよ」
「半年?」
「分かってるなら連絡くらいしなさいよ」
「何て?」
「何てって……生きてるとか、どこにいるとか」
「生きてるよ」
「今見れば分かるわよ」
周囲から笑い声が漏れた。
マーサが息を吐く。
それから、ジジの腕の中へ視線を移した。
ルナリスも声のした方へ顔を向けている。
「……その子は?」
「ルナ」
「ルナ?」
「ルナリス」
マーサの表情が変わった。
「……見つかったの?」
「ああ」
「よかった……」
それ以上聞く前に。
二階から大きな声が落ちてきた。
「――ジジ?!」
ジジが顔を上げる。
二階の廊下。
執務室から出てきた男が、手すり越しにこちらを見ていた。
「バルト」
「ジジ?!」
階段へ向かったかと思えば、そのまま勢いよく駆け下りてくる。
「お前、どこ行ってたんだよ〜!」
「…色々?」
「色々じゃねえよ! 半年だぞ!」
最後の数段を一気に降りる。
ジジの前まで来ると、バルトは空いている方の肩を掴んだ。
「連絡くらい寄越せ! こっちは何回お前の名前を――」
そこで止まった。
ジジの腕の中。
小さな女の子。
目元を覆う布。
身体を包む掛け布。
バルトの目が、その後ろへ移る。
移動椅子を持つダンテ。
「……お前まで何でいるんだ?」
「護衛だ」
「護衛?」
ダンテがジジとルナリスを見る。
「こいつらの」
バルトがもう一度、ジジを見る。
さっきまでの勢いが少しだけ収まった。
「……何があった」
「長くなる」
「だろうな」
バルトは周囲を見た。
こちらを気にしている冒険者が何人もいる。
「上がれ。俺の部屋で聞く」
「ああ」
「マーサ」
「何?」
「茶、持ってきてくれ」
「分かった」
バルトは階段へ向かいかけて。
ダンテを見る。
「お前も来い」
「言われなくても行く」
「じゃあ早く来い」
「今行こうとしてんだろ」
バルトが眉を寄せる。
ダンテも同じ顔で眉を寄せた。
ルナリスが二人の声を聞き比べる。
「……ジジ」
「ん?」
「ダンテ二人いる?」
一瞬。
近くにいた冒険者たちが静かになった。
次の瞬間、笑い声が起きた。
「いねえよ」
ダンテが言う。
バルトが笑う。
「似てるか?」
「声ちょっと違う」
「顔はそっくりだぞ」
ジジが言った。
「バルトはひげあるけど」
「ひげ?」
「ああ」
ルナリスが考える。
「じゃあ、ひげのダンテ?」
「バルトだ」
「バルト」
「そうだ」
「分かった」
「絶対分かってねえだろ」
バルトは笑いながら階段を上がっていった。
ダンテがその後ろをついていく。
「ジジ」
「何?」
「階段?」
「うん」
「抱っこ?」
「もうしてるよ」
「あ、そっか」
ジジも二人を追った。
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二階の執務室は広かった。
大きな机。
壁際には書類棚が並び、地図や依頼書がいくつも貼られている。
ジジは長椅子へ腰を下ろし、ルナリスを隣へ座らせた。
移動椅子はダンテが壁際へ置く。
バルトは机には戻らず、向かいの椅子へ座った。
「で」
両腕を組む。
「どこから聞けばいい」
「どこから話そうか」
「半年前から全部話されたら1週間かかる」
「じゃあルナから」
「そうしてくれ」
扉が開いた。
「お茶持ってきたわよ」
マーサが盆を持って入ってきた。
四つのカップと、小さなカップが一つ。
バルトが見る。
「マーサ、お前もいるのか?」
「ルナリスのこと、私も聞いていいの?」
ジジが頷く。
「ああ」
「じゃあいる」
マーサはカップを順番に置いた。
最後に、小さなカップをルナリスの前へ。
「これはルナリスの。少しぬるくしてあるから」
「ルナの?」
「ええ」
ルナリスが手を伸ばす。
ジジが小さなカップを取り、その手に持たせた。
「気をつけて」
「うん」
ルナリスが鼻を近づける。
「……何これ?」
「ローズヒップだよ」
ジジが言った。
ルナリスの顔が明るくなる。
「赤いの!」
「そう、赤いの」
「ルナ、赤いの好き!」
そのままカップへ口をつける。
一口。
「すっぱいけど…おいしい」
マーサが笑った。
「よかった」
「お姉ちゃんが作ったの?」
「そうよ」
「上手!」
「ありがとう」
ジジもカップを手に取った。
「俺のも?」
「そうよ」
「覚えてたんだ」
マーサの手が一瞬止まった。
「……覚えてるわよ」
「半年いなかったのに」
「それくらいで忘れないわよ」
「そうか」
ジジは一口飲んだ。
マーサが向かいへ座る。
バルトは何も言わず茶を飲んでいた。
ダンテもカップを手に取る。
ルナリスは嬉しそうに、もう一口飲んだ。
「それで」
バルトがカップを置く。
「ルナリスをどうやって見つけか聞けばいいか?」
「ああ」
ジジもカップを置いた。
「ノーカルミアに戻ってから、ずっと探してたんだけど――」
話は長くなった。
ルナリスを見つけたこと。
目が見えないこと。
両脚がないこと。
身体がほとんど成長していないこと。
ラガードの診療所。
エルフの医師。
そして。
バインスへ来ることになった理由。
途中でバルトが何度か質問し。
マーサも必要なところだけ確認した。
ルナリスは赤い茶を飲みながら、黙って聞いていた。
話が終わる頃には、カップはすっかり空になっていた。
バルトが背もたれへ身体を預ける。
「……なるほどな」
「長かっただろ」
「思ってたより長かった」
マーサはルナリスを見る。
「じゃあ、これからバインスで診てもらうのね」
「うん。シャイアっていうエルフの医師」
「エルフ居住区の?」
ジジがマーサを見る。
「知ってるのか?」
「そりゃ知ってるわよ。バインスに住んでるんだから」
「俺知らなかった」
「あなた、八年ここにいて何を見てたの?」
「…依頼書?」
「でしょうね」
バルトが笑った。
「お前、街に興味なかったもんな」
「戦ってた」
「それしかしてなかっただろ」
「ああ」
否定しないジジに、マーサが額を押さえた。
「で、住むところは?」
バルトが聞いた。
「探す」
「探すって、お前……」
「俺、家ねぇし」
「そういやねえな」
「ずっと宿舎だったし」
マーサがジジを見る。
「ルナリスと宿舎で暮らすつもりじゃないでしょうね」
「だから家探す」
「いつから?」
「今日」
「今日!?」
「そう」
「何も決めてないの?」
「決めてねぇ」
マーサが目を閉じた。
「……バルト」
「何だ」
「この人、本当に一人で生きてたの?」
「二十八年間だいたいこんな感じだ」
「すごいわね」
「何が?」
「何でもない」
バルトがマーサを見る。
「ちょうどいい。こいつの家、探してやってくれ」
マーサが顔を上げた。
「私が?」
「お前、この辺のこと一番詳しいだろ」
「まあ……」
「ギルドに近くて、二人で暮らせるところ。
移動椅子使うなら段差も少ない方がいい」
マーサの目が、壁際の移動椅子へ向く。
「……そうね」
少し考える。
「市場にも近い方がいいわ。
診療所へ行くことを考えるなら、運河を何本も越える場所は避けたいし」
「頼める?」
ジジが聞いた。
「もちろん」
返事は早かった。
マーサは立ち上がる。
「いくつか心当たりあるから、確認してくる」
「今?」
「今」
「明日でも…」
「今日から住むところが必要なんでしょう?」
「だな」
「だったら今日よ」
マーサはルナリスの空になったカップを盆へ戻していく。
「あ」
「何?」
「もう一杯いる?」
「いる!」
「じゃあ入れてくる」
マーサが笑って、小さなカップだけ盆に乗せた。
扉へ向かう。
「マーサ」
ジジが呼ぶ。
「何?」
「ありがとう」
マーサが振り返る。
「……家決まってから言って」
そう言って、扉を閉めた。
バルトが黙って茶を飲む。
ダンテも何も言わない。
ジジが二人を見る。
「何?」
「別に」
バルトが答えた。
ダンテもカップを口へ運ぶ。
「何でもねえ」
「?」
ルナリスがジジの服を引いた。
「ジジ」
「ん?」
「赤いのおかわり来る?」
「マーサが淹れてきてくれるよ」
「じゃあ待つ」
「うん」
バルトが小さく笑った。
「お前、随分変わったな」
「何が?」
「いや」
バルトは空になったカップを机へ置いた。
「そのうち分かる」
「何だそれ」
「分かんなきゃいい」
ジジは首を傾げた。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




