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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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バインス王国

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

街道へ出ると、ダンテが手配していた馬車が待っていた。

幌の付いた四輪馬車だった。

ダンテが荷物を積み込み、ジジはルナリスを抱き上げ移動椅子を積む。


「どこ座る?」


「ジジの隣」


「はい」


「俺の隣でも同じだろ」


ダンテが言う。


「やだ」


「即答すんな」


ジジが笑いながらルナリスを座らせ、その隣へ腰を下ろす。


「バインスまで何日?」


ルナリスが聞いた。


「順調なら数日だ」


ダンテが答える。


「遠い?」


「二つ国を越える」


「二個?」


ルナリスが指を二本立てた。


「二個越えたらバインス?」


「そうだ」


「じゃあ今どこ?」


「まだノーカルミア」


「全然進んでない」


「出たばっかりだよ」


ジジが笑った。


馬車は街道を進んでいった。

その日の夜は、国境に近い宿場町で一泊した。


——————————————————————


翌朝。

また馬車へ乗る。


昼頃には最初の国境を越えた。

検問所で馬車が止まるたび。


「何してるの?」


「通行証見せてる」


「誰に?」


「兵士」


「なんで?」


「別の国に入るから」


「ジジも?」


「ああ」


「ルナも?」


「そうだな」


「ルナ、何も悪いことしてないよ」


「悪いことしてなくても見せるんだ」


「なんで?」


「そういう決まり」


ルナリスの通行証はダンテが手配していた。

どのような手を使ったのか、ジジは聞かなかった。


一つ目の国を抜ける。


宿場で眠り。

また朝になれば馬車へ乗る。


二つ目の国境を越えまた街道を進んだ。

休憩のたびに移動椅子を降ろし、食事をしてまた馬車へ戻る。


——————————————————————


三日目。


「馬車、飽きた」


ルナリスが言った。


「俺も」


ジジが答える。


「あとどれくらい?」


「もうすぐ」


「昨日も言ってた」


「昨日より近い」


「どれくらい?」


「結構」


「分かんない」


「俺も分かんねぇ」


「お前は分かれよ」


ダンテが向かいから言った。


「明日の午後には着く」


「ほんと?」


「ああ」


「じゃあ明日?」


「明日だ」


「ジジより分かりやすい」


「……寝よう、ルナ」


「ジジ、まだお昼だよ」


ダンテが吹き出した。


——————————————————————


翌日。

午後になる頃には、街道を行き交う人の数が目に見えて増えていた。


商人の馬車。

旅人。

冒険者。

荷物を積んだ荷車。

皆が同じ方向へ向かっている。


「人増えた?」


ルナリスが聞いた。


「増えた」


「なんで?」


「バインスが近いから」


「もう?」


「今度は本当にもうすぐ」


「ダンテ」


「もうすぐだ」


「そうなんだ」


「俺の時だけ確認するのやめろ」


やがて。

街道の先に、大きな城壁が姿を現した。


ノーカルミアで見てきた街とは比べものにならないほど長い。

城壁の向こうには、いくつもの塔と建物の屋根が見えている。


城門へ続く馬車の列。

人の往来。


「もうすぐだぞ、ルナリス」


ダンテが言った。

ルナリスが顔を上げる。


「バインス?」


「ん」


ジジが答えた。


「大きいの?」


「大きい」


「どれくらい?」


「すごいでかい」


「分かんない」


「だろうな」


城門の前で馬車が止まった。


順番が来る。

ダンテが先に通行証を出した。

兵士が確認する。

続いてジジ。


何気なく差し出した通行証を。

兵士が受け取った。


「…………」


止まった。


もう一度見る。

顔を上げる。


ジジを見る。


また通行証を見る。


「……何?」


兵士の視線が、ある一点で止まった。


「オリハルコン……?」


「ああ」


「ジジ・ガルシア?」


「そうだけど」


兵士が勢いよく顔を上げた。


「戻ってきたのか!?」


「ああ」


「おい!」


隣にいた兵士が振り向く。


「何だ?」


「ジジ・ガルシアだ!」


「は?」


「オリハルコンが戻ってきた!」


周囲の兵士たちが一斉にこちらを見た。

列に並んでいた冒険者まで振り返る。


「え、ガルシア?」


「本当だ」


「いつ戻ったんだ?」


「オリハルコンだって?」


ざわめきが広がっていく。

ジジは通行証を持ったまま固まっている兵士を見る。


「……入っていい?」


「え?」


「バインス」


「あ、はい! もちろんです!」


通行証が返ってきた。


「お帰りなさい!」


「…ただいま?」


馬車が再び動き出す。

城門をくぐったところで。

ルナリスが聞いた。


「ジジ」


「何?」


「おりはるこんって何?」


「俺の階級」


「階級?」


「冒険者の」


「偉い?」


「偉くはねぇよ」


ダンテが横から口を挟んだ。


「一番強いやつだ。六つの国で一人だけ」


「一人?」


「今はな」


「ジジしかいないの?」


「そう」


ルナリスは少し考えた。


「なんで?」


「知らねぇ」


「お前が強いからだろ」


ダンテが言う。


「どれくらい?」


「馬鹿みたいに」


「馬鹿なの?」


「違うよ」


「馬鹿みたいに強い馬鹿だ」


「ダンテ」


「何だ」


「悪口になってる」


「気のせいだ」


「ジジ、強いの?」


「強い…かな」


「どれくらい?」


「結構」


「分かんない」


「だろうな」


ダンテが笑った。


——————————————————————


馬車は城門から続く大通りを進んだ。


石造りの建物。

行き交う人々。

市場から飛ぶ声。

どこかで鳴る鐘。


そして。


絶えず聞こえる水の音。

ルナリスが顔を上げた。


「……水?」


「運河」


ジジが答える。


「運河?」


「街の中に水路がある」


「川?」


「そんな感じ」


「いっぱい?」


「いっぱい」


「船も通ってるぞ」


ダンテが言った。


「街の中を?」


「ああ」


「すごい」


建物の間を、いくつもの運河が走っていた。

大小の橋が架かり。

船が人や荷物を乗せて行き交っている。

岸辺には市場。

通りには商人や冒険者。

ノーカルミアより、ずっと人が多い。


「ジジ、ここに住んでたの?」


「住んでた」


「家どこ?」


「ない」


「ない?」


「ギルドの裏の宿舎」


「ずっと?」


「バインスにいる時は」


「なんで家ないの?」


「いらなかったから」


「今はいる?」


「いる」


「なんで?」


「ルナいるから」


「そっか」


しばらく進んだところで。

馬車が止まった。


「ここでいい」


ジジが御者へ声をかける。


「ギルドまで行かないの?」


ルナリスが聞いた。


「この先、馬車だと遠回りになる」


荷物はそのままギルドへ届けてもらうことにした。

ダンテが移動椅子を降ろし、ジジがルナリスを乗せた。


目元には柔らかな布。

膝から下にも、いつものように布を掛ける。


「行く?」


「うん」


ジジが移動椅子を押し始めた。


石畳の通りを進む。

ルナリスは忙しそうに顔を動かしていた。


「右から何の音?」


「市場」


「何売ってるの?」


「魚」


「なんで分かるの?」


「見えるから」


「ずるい」


「どうしろっていうんだよ」


ダンテが笑う。

橋を渡る。


「今、水の上?」


「そんなとこ」


「船いる?」


「いる」


「何隻?」


ジジが数える。


「……いっぱい」


「数えて」


「嫌」


「なんで?」


「面倒くさい」


「じゃあダンテ」


「七隻」


「ダンテの方が優しい」


「俺もそう思う」


「何で張り合うんだよ」


そんな話をしながら歩いていると。

少しずつ。

周囲の視線が増えていった。


「……あれ」


「ガルシアじゃないか?」


「本当だ」


「戻ってきてたのか」


「さっき城門で――」


声が聞こえる。

振り返る者。

足を止める者。

そして。


視線はジジから。

その前にいるルナリスへ移る。


「誰?」


「怪我してるのか?」


「女の子?」


ジジが周囲を見る。

少し歩く。

また見られる。


「…………」


「どうした?」


ダンテが聞いた。


「うーん」


「何だよ」


「これはちょっとまずいな」


「何が?」


「目立ちすぎる」


ルナリスが顔を上げる。


「ルナ?」


「そう」


少し間が空く。


「……俺も」


「お前は今さらだ」


「忘れてた」


「何をだよ」


「バインスだと結構知られてるの」


「何言ってんだ」


ジジはルナリスの前へ回った。


「ルナ」


「何?」


「抱っこにする?」


「なんで?」


「こっちの方が目立たない」


ダンテが周囲を見る。


「お前が抱いて歩いても目立つと思うぞ」


「椅子よりいい」


「まあ、それはそうだな」


「抱っこする?」


ジジがもう一度聞く。


「する」


ジジはルナリスを抱き上げた。

目元の布はそのまま。

足元を覆っていた布も、身体ごと包むように掛け直す。


ぱっと見れば。

療養中の子どもを抱えているように見える。


ダンテが移動椅子を畳んだ。


「これ俺?」


「お前以外誰いんだよ」


「お前、荷物まで俺に持たせる気じゃねえだろうな」


「荷物は馬車」


「ならいい」


三人は再び歩き出した。


「ジジ」


「何?」


「みんなジジ知ってるの?」


「冒険者はたぶん」


「なんで?」


「長くいたから」


「それだけじゃねえよ」


後ろからダンテが言った。

ルナリスがジジの服を掴む。


「有名?」


「たぶん」


「またたぶん」


「有名だ」


ダンテが答えた。


「じゃあジジじゃなくてダンテに聞く」


「そうして」


「拗ねた?」


「拗ねてねぇ」


橋を渡る。

運河沿いの大通りを抜ける。


やがて。


大きな石造りの建物が見えてきた。

正面には、剣と盾を組み合わせた冒険者ギルドの紋章。


出入りする冒険者たち。


その裏には。

ジジが何年も寝泊まりしていた鍛錬所と宿舎が続いている。


「着いた」


ジジが言った。


「ここ?」


「ああ」


「ジジがいたところ?」


「そう」


「長かった?」


「長かったよ」


ルナリスは建物の方へ顔を向けた。


「誰いるの?」


「バルト」


「誰?」


「ギルドマスター」


「偉い?」


「偉い」


「ダンテより?」


「知らねぇ」


「おい」


ジジが笑う。


「ダンテの双子」


「双子って?」


「兄弟」


「似てる?」


「同じ顔」


「同じじゃねえ」


ジジはルナリスを抱いたまま。

ギルドの扉に手を掛けた。


「入ろう」


扉を押し開けた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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