見ていたもの
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。
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あの夜から、数日が経った。
マリアの手紙に書かれていた最後の言葉は、時折エレーンの頭に浮かんだ。
―ジジ・ガルシアを、その心を預ける者のもとへ導き給え―
自分が読み上げた途端、消えた文字。
あれが何だったのか。
どうして消えたのか。
考えたところで、答えは出ない。
だから、考えないようにしていた。
少なくとも。
昼間は。
「ただいま」
玄関から聞こえた声に、エレーンは顔を上げた。
「おかえり」
返してから、少し遅れて気づく。
最近。
この声に反応するのが、やけに早い。
ジジは両手に荷物を抱えていた。
「多くない?」
「色々なくなってたから」
「言ってくれれば一緒に行ったのに」
「そんな量じゃないと思った」
「その量を見てから言いなさいよ」
エレーンが立ち上がる。
一つ受け取ろうとすると、ジジが片方の袋を差し出した。
「重い方じゃない?」
「そっちは軽い」
「そう」
台所まで運ぶ。
その途中、長椅子を見る。
ルナリスが眠っていた。
ジジも気づいたらしい。
さっきまで無造作だった足音が、少しだけ小さくなる。
エレーンはそれを見て。
すぐに前を向いた。
いつものことだ。
荷物を台所へ置く。
「これ、どこ?」
「棚の下」
「こっちは?」
「それは私がやるわ」
二人で片づけていると。
ジジが小さな包みを取り出した。
「あと、これ」
「何?」
「エレーンの」
「私の?」
受け取る。
包みを開くと、茶葉が入っていた。
見覚えがあった。
少し前。
買い出しに出た時、店先で見つけたもの。
香りが気になって。
手に取って。
けれど家にはまだ茶葉が残っていたから、そのまま棚へ戻した。
「……これ」
「うん」
「どうして?」
「見てただろ」
エレーンはジジを見る。
「何を?」
「それ」
「……私が?」
「うん」
「覚えてたの?」
「見てたから」
あまりにも当然のように言う。
エレーンは包みへ視線を落とした。
「買わなかったのに」
「いらなかった?」
「そうじゃないけど」
「じゃあいいじゃん」
それだけ言うと。
ジジはまた買ってきたものを片づけ始めた。
エレーンはしばらく、茶葉を持ったまま立っていた。
「……ありがとう」
「ん」
返事はそれだけだった。
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夕食の支度は、シエラと二人でしていた。
ジジは慣れない手つきでルナリスの髪を梳かしている。
とん。
とん。
とん。
「エレーン」
「何?」
「それ、何に使うの?」
「スープ」
「そうじゃなくて」
シエラが手元を見る。
エレーンも見る。
「…………」
野菜が。
随分と細かくなっていた。
「そんなに刻むの?」
「……別にいいでしょう」
「溶けるんじゃない?」
「それはそれでおいしいわよ」
「そう」
シエラは隣で別の野菜を切り始める。
何も聞かない。
その方が今はありがたかった。
別の野菜を手に取る。
今度はちゃんと見ながら切る。
とん。
とん。
「エレーン」
「何よ」
「また細かくなってる」
「…………」
シエラが少し笑った。
「何」
「何でもない」
「なら笑わないで」
「笑ってないわ」
「笑ってるでしょう」
「少しだけ」
エレーンは包丁を置いた。
「もう姉さんが切って」
「分かった」
シエラと場所を代わる。
その時。
長椅子に座るルナリスの声がした。
「ジジ」
「何?」
「髪の毛無くなっちゃう」
「綺麗になった」
「…ジジ馬鹿」
「なんで」
いつもの会話。
エレーンは。
なんとなく二人を見ていた。
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夜。
皆が眠ってからエレーンは一人で茶を淹れた。
今日もらったもの。
湯を注ぐと、甘い香りが広がる。
一口飲む。
「……おいしい」
買わなかっただけで。
欲しくなかったわけではない。
それをジジは見ていた。
エレーンはカップを両手で持った。
嬉しいかった。
茶葉をもらったことがではない。
自分が見ていたものをあの人も見ていた。
それが、嬉しい。
そこまで考えてエレーンは目を閉じた。
―その心を預ける者―
またあの言葉が浮かんだ。
「…………」
カップへ口をつける。
考えない。
そう決めたはずなのに。
なぜか胸の奥が。
少しだけ、うるさかった。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




