↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/144

守備隊

翌朝。


エレーンが居間へ出ると、

ジジはすでに身支度を終えていた。


昨日までより少しだけ装備が多い。

玄関には剣と黒い外套がかけてあった。


「……本当に起きていたのね」


「何だよ」


「昨日、自分で“たぶん”と言っていたでしょう」


「起きたんだからいいだろ」


テーブルには簡単な朝食が用意されていた。

エレーンが席につくと、

ジジはいつものようにローズヒップティーを置く。


「食ったら出るぞ」


「守備隊へ?」


「ああ」


「私も行くわ」


「知ってる」


エレーンが少し眉を上げた。


「止めないの?」


「止めても来るだろ」


「よく分かってきたじゃない」


「面倒くせぇだけ」


「そういうところよ、あなた」


ジジは聞いているのかいないのか、

パンを口へ運んだ。


ノーカルミアの守備隊本部は、

街の中央から少し外れた場所にあった。

石造りの大きな建物で、

正面には国章と守備隊の紋章が掲げられている。

門の前に立つ兵士がジジを見るなり姿勢を正した。


「ガルシア殿」


「ああ」


それだけで通される。

エレーンは隣を歩きながら横目で見る。


「顔を見せただけで入れるの?」


「そうみたいだな」


「あなたのことよ」


「俺に聞くな」


やはり本人に自覚がないらしい。


建物の中では兵士たちが忙しなく行き来していた。

書類を抱えた者、装備を整える者、

奥では何か揉めている声も聞こえる。


エレーンは無意識に周囲を見回した。


制服。

武器。

閉じた扉。

大勢の人間。


少しだけ身体が強張る。


「エレーン」


呼ばれて顔を上げる。

ジジが数歩先で立ち止まっていた。


「何?」


「嫌なら外で待ってろ」


「……どうして?」


「顔」


エレーンは口元を引き締めた。


「平気よ」


「そ」


それ以上は何も言わず、ジジは歩き出した。

エレーンもその後を追う。

無理に気遣われるより、その方が楽だった。


二階の奥。


ジジは一つの扉をノックした。


「入れ」


中から低い声がする。


扉を開けると、机いっぱいに書類を広げた男が

座っていた。

短く切った髪。鍛えられた体格。腰には剣。

男は書類から顔を上げ――ジジを見るなり

露骨に嫌そうな顔をした。


「帰れ」


「まだ何も言ってねぇだろ」


「お前が俺のところへ来る時は大体面倒事だ」


「失礼だな」


「過去を振り返れ」


「覚えてねぇ」


「それが一番腹立つ」


エレーンは二人を交互に見る。


守備隊の兵士たちが敬意を払っていた

オリハルコンに対する態度とは思えない。


「ダンテ」


ジジが呼ぶ。


「何だ」


「調べたいことがある」


「ほら来た」


男――ダンテは深いため息をつき、

ようやくエレーンへ視線を向けた。


「……で、そっちは?」


「エレーン」


「それは名前だろ」


「じゃあ何聞いてんだよ」


「お前と会話すると頭痛くなるな」


「俺もだ」


「なら帰れ」


「嫌だ」


エレーンは思わず口を挟んだ。


「あなたたち、仲がいいの?」


「悪い」


二人が同時に答えた。


「…………そう」


少なくとも、本当に仲が悪い者同士の空気ではない。

ダンテは椅子の背にもたれた。


「で?」


ジジの表情が少し変わった。


「昔の記録が見たい」


ダンテの目が細くなる。


「何の」


「人攫い。奴隷商。エルフ絡み」


それを聞いて、エレーンはジジを見る。

昨日までは何も言っていなかった。


「随分広いな」


「だから調べる」


「昔の資料なんて倉庫だぞ」


「残ってんのか?」


「捨ててなきゃな」


「探して」


「簡単に言うな」


「頼む」


短い言葉だった。

だが、ダンテの顔から少しだけ冗談が消えた。


「……ルナリスか」


エレーンの呼吸が止まる。


ジジは何も答えない。

それだけで十分だった。


ダンテは小さく息を吐く。


「分かった。古い記録を当たらせる。

 ただし今日明日で出てくると思うなよ」


「ああ」


「あと、お前も手伝え」


「何で」


「お前の探し物だろうが」


「文字読むの嫌いなんだよ」


「知るか」


「…………」


ジジが明らかに嫌そうな顔をする。

エレーンは思わず尋ねた。


「字は読めるのでしょう?」


「読める」


「なら読めばいいじゃない」


「量が多い」


「子どもみたいなことを言わないで」


ダンテが吹き出した。


「いいぞ、もっと言ってやれ」


「うるせぇ」


先ほどまでの張り詰めた空気が、少しだけ緩む。

エレーンは二人を見ながら、

先ほど聞いた言葉を頭の中で繰り返した。


――ルナリスか。


ダンテは知っている。

つまり、ルナという人物は

ジジ一人だけの秘密ではないらしい。

それだけでも、新しいことだった。


「それと」


帰ろうとしたジジをダンテが呼び止めた。


「何」


「調べる時期はいつ頃だ」


ジジが振り返る。


「……」


少し考える。


「十五年前を中心に…前後二年」


「分かった」


ダンテが紙に書き留める。


十五…


自分が村を失った年。

ジジがルナを失ったらしい年。


偶然なのかもしれない。

まだ、何も分からない。


それでも。


「……ジジ」


守備隊を出てから、エレーンは声をかけた。


「ん」


「もしかして、私の姉のことも調べるつもり?」


ジジは歩きながら答える。


「ついでだ」


「ついで?」


「同じ時期なら一緒に見りゃいいだろ」


「…………」


エレーンはしばらく黙っていた。


「ありがとう」


「ああ」


やはり、それだけだった。

ジジは何事もなかったように歩いていく。

エレーンはその背中を見ながら、

少し遅れて後を追った。


「待って」


「早く来い」


「あなたが歩くの速いのよ」


「昨日合わせただろ」


エレーンが足を止める。


「……気づいていたの?」


「何が」


「…………もういいわ」


「何だよ」


「何でもない」


今度はエレーンが先に歩いた。

後ろから、意味が分からないとでも言いたげな

ジジの足音がついてくる。


古い記録が何を残しているのか。


それを知るのは、もう少し先のことだった。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。