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【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。
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数日後。
庭に出ると、ジジは木剣を二本持っていた。
エレーンがそれを見る。
「……本当にやるの?」
「やるって言ったじゃん」
「言ったけど」
一本を差し出される。
受け取ってみると、思ったより重い。
「重いわね」
「鉄より軽い」
「比較対象がおかしいのよ」
「剣だし」
「そうだけど」
少し離れたところでは、ルナリスとシエラが椅子に座っていた。
「エレーン、剣やるの?」
「少しだけね」
「ジジに教えてもらう?」
「そのつもり」
ルナリスが笑う。
「ジジ、教えるの上手?」
エレーンはジジを見る。
「守備隊では意外とね」
「意外って何」
「褒めてるのよ」
「聞こえねぇ」
「どこかで聞いたわね、それ」
シエラが笑った。
「怪我しないでね」
「木剣よ」
「木でも当たったら痛いでしょう」
ジジが頷く。
「痛てぇよ」
「怖いこと言わないで」
「当てねぇって」
さらりと言って、ジジは庭の中央へ歩いていった。
「まず持って」
「もう持ってるわよ」
「そうじゃなくて」
ジジが振り返る。
「構えて」
「……先にそう言いなさいよ」
エレーンは見よう見まねで木剣を構えた。
ジジが正面に立つ。
何も言わない。
「何?」
「見てる」
「それは分かるわ」
しばらくして。
「足、逆」
「え?」
「右を後ろ」
エレーンが足を入れ替える。
「これ?」
「もうちょい開いて」
少し動かす。
「そこ」
「手は?」
「そのまま」
ジジが周りを歩く。
「肩に力入ってる」
エレーンは肩の力を抜いた。
「抜きすぎ」
「この前も聞いたわね、それ」
「同じだから」
「簡単に言うけど難しいのよ」
「うん」
「うん、じゃないわよ」
ジジは少し考えてから、自分の木剣を置いた。
エレーンの前に立つ。
「ちょっと貸して」
木剣を受け取り、構える。
「これくらい」
「……見ても分からないわ」
「そう?」
「あなたは分かるでしょうけど」
ジジはまた考えた。
「じゃあ持って」
木剣を返す。
エレーンが構える。
ジジが手を伸ばし――
肘の位置を少し下げた。
「ここ」
次に、手首の向きを直す。
「こう」
「……ええ」
「肩はそのまま」
ジジが背後へ回る。
「足、もう少し」
エレーンの腰に手を添え、身体の向きを僅かに変えた。
「こっち」
エレーンの身体が止まった。
「……ジジ」
「ん」
「近いわ」
ジジが止まる。
「あ、ごめん」
すぐに離れた。
「別に嫌だとは言ってないけど」
「じゃあいい?」
「……聞かれると困るわね」
「何で?」
「もういいわ」
少し離れたところから、シエラがこちらを見ている。
目が合った。
シエラは何も言わなかった。
ただ、ほんの少し笑っている。
エレーンは目を逸らした。
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「じゃあ振って」
「あなたに?」
「違う。前」
「分かってるわよ」
木剣を振る。
ぶん、と風を切る。
「遅い」
「初めてなのよ?」
「もう一回」
振る。
「腕だけになってる」
「じゃあどうするの?」
「足から」
「足で剣は振れないわよ」
「そうじゃなくて」
ジジが自分の木剣を拾った。
「見て」
一歩。
木剣が振られる。
速い。
けれど、守備隊で見た時よりさらにゆっくりなのだろう。
「足、腰、腕」
もう一度。
「一緒に動かす」
「……簡単そうにやるわね」
「慣れ」
「何年やってるの?」
ジジが少し考える。
「ちゃんと剣持ったのは十五くらい」
「冒険者になった頃?」
「ああ」
「じゃあ十三年?」
「それくらい」
エレーンは木剣を見る。
「長いわね」
「うん」
「私が今から始めても、あなたみたいにはならないわね」
「ならなくていいだろ」
即答だった。
エレーンが顔を上げる。
「どうして?」
「エレーンはエレーンだし」
ジジは何でもないように言った。
「俺と同じになる必要ない」
エレーンは少し黙る。
「……そういう意味で言ったんじゃないんだけど」
「違った?」
「違わないけど」
「じゃあもう一回」
「余韻くらい残しなさいよ」
「何の?」
「何でもないわ」
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何度か振るううちに、少しずつ形になってきた。
「さっきよりいい」
「本当?」
「ああ」
「じゃあ次は?」
「俺に打って」
エレーンが止まる。
「嫌よ」
「何で」
「当たったらどうするの」
「当たんねぇ」
「その自信はどこから来るのよ」
「当たんねぇから」
「腹立つわね」
ジジは木剣を下げたまま立っている。
「どこでもいい」
「後悔しても知らないわよ」
「しねぇって」
「……行くわよ」
踏み込む。
振る。
軽い音がした。
気づけば、エレーンの木剣はジジの木剣に止められていた。
「遅い」
「分かってるわよ!」
「もう一回」
「今度は本気で行くわよ」
「うん」
二度目。
止められる。
三度目。
また。
「もう!」
「さっきより速い」
「全然当たらないじゃない!」
「当てたら困る」
「そうだけど!」
ルナリスが声を上げて笑った。
「エレーン怒ってる?」
「怒ってないわよ!」
「怒ってる」
ジジが言う。
「あなたは黙って!」
シエラまで笑い始めた。
「姉さんも笑わないで!」
「ごめん、ごめん」
全然悪いと思っていない声だった。
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少し休憩することになった。
エレーンは椅子へ座り、腕を擦る。
「明日、筋肉痛になりそう」
「たぶん」
ジジが水を渡す。
「ありがとう」
受け取って飲む。
「でも楽しいわ」
「そう?」
「ええ」
ジジは隣の地面に座った。
「またやる?」
「教えてくれるの?」
「いいよ」
「じゃあ、また」
少し離れたところで、ルナリスがシエラと話している。
風が庭を抜けていく。
エレーンは隣を見る。
ジジは木剣についた土を指で払っていた。
「ジジ」
「ん?」
「守備隊の人たちにもこうやって教えてたの?」
「こう?」
「身体に触って直したり」
「普通だろ」
「……そう」
「女にはあんまり触らねぇ方がいいってダンテに言われたけどな」
エレーンが少し吹き出す。
「ちゃんと教わってるのね」
「うん」
「じゃあ今日は?」
ジジがエレーンを見る。
「分かりにくそうだったから」
「それだけ?」
「ああ」
即答。
エレーンは水をもう一口飲んだ。
「……そうでしょうね」
「何?」
「何でもない」
「またそれ」
「あなたにだけは言われたくないわ」
ジジが少し笑う。
エレーンも笑った。
少し前まで。
剣を持つジジは、怖いものだった。
今は違う。
黒蛇の前に立っていた時とは違う手で、
自分が怪我をしないように剣を止める。
不器用な言葉で教えて。
うまくできれば、ちゃんと褒める。
「エレーン」
「何?」
「もう一回やる?」
エレーンは木剣を見る。
腕はもう少し重い。
明日はきっと痛くなる。
それでも。
「ええ」
立ち上がって、木剣を握った。
「もう一回」
今度は、自分からジジの前に立った。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




