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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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雨宿り

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

朝から曇っていた空が、とうとう崩れた。

最初は小さな雨粒だった。

それがあっという間に強くなり、庭の草木を激しく揺らし始める。


「姉さん、そっちお願い!」


「分かった!」


エレーンとシエラが、干していた洗濯物を慌てて取り込む。


「ルナリス、窓から離れてる?!」


「ルナここにいるよ」


「そこなら大丈夫」


最後の一枚を抱えて家へ飛び込む。


「ひどい雨」


シエラが濡れた髪を払った。


「急だったわね」


エレーンが窓の外を見る。

森の向こうが白く霞むほど降っている。


「ジジ大丈夫かな」


ルナリスが言った。

エレーンも窓を見る。


朝、ダンテに呼ばれて出ていった。

守備隊の仕事を少し手伝ってくれ、と言われたらしい。


「そのうち帰ってくるでしょう」


「濡れるね」


「確実にね」


シエラが苦笑する。


「迎えに行く?」


ルナリスが聞く。


「迎えに行ったら私たちまで濡れるわよ」


「そっか」


「それに、ジジなら雨くらいでどうにかならないでしょう」


ルナリスが少し考える。


「ならないね」


「でしょう?」


——————————————————————


しばらくして。

玄関が開いた。


「ただいま」


三人が一斉にそちらを見る。

ジジが立っていた。


全身ずぶ濡れだった。

髪から水が滴り、服も完全に身体へ張りついている。


エレーンが呆れる。


「……どうしてそこまで濡れるのよ」


「雨降ったから」


「見れば分かるわよ」


ルナリスが笑う。


「ジジびしょびしょ?」


「びしょびしょ」


「犬みたい」


「犬はもっと濡れる」


「同じだよ」


「違うだろ」


ジジが一歩入ろうとする。


「待って」


エレーンが止めた。


「何?」


「そのまま入らないで」


「何で」


「床が全部濡れるでしょう」


「ああ」


ジジは素直に止まった。


「そこで脱いで」


「ここで?」


「上着よ」


「分かってる」


「なら聞かないで」


シエラが笑いを堪えながら布を取りに行く。


「これ使って」


「ありがと」


ジジが頭を拭く。

エレーンは濡れた上着を受け取った。


「着替えてきなさい」


「ああ」


「ちゃんと乾いた服にね」


「分かってる」


「髪も拭いて」


「分かったって」


ジジが部屋へ向かう。

ルナリスがその足音を聞きながら笑っていた。


「エレーン、お母さんみたい」


エレーンが止まる。


「誰が?」


「エレーン」


「違うわよ」


シエラが笑う。


「ちょっと分かる」


「姉さんまで何言ってるの」


——————————————————————


雨はさらに強くなった。


夕方になっても止む気配がない。

屋根を叩く音が、家中に響いている。


「これ、夜まで降るかしら」


シエラが窓を見る。


「たぶん」


エレーンは濡れた洗濯物を室内へ掛けていた。


「薪、足りる?」


「外にまだあるけど」


ジジが言う。


「取りに行ったらまた濡れるでしょう」


「すぐそこだぞ」


「だから何よ」


「取ってくる」


「待ちなさい」


「何で」


「せっかく着替えたのに」


ジジが止まる。

エレーンは残っている薪を見る。


「今夜くらいなら足りるわ」


「そう?」


「ええ」


「じゃあいいか」


シエラが隣で笑っている。


「何?」


「ううん」


「姉さん最近そればっかり」


「何でもないもの」


「絶対何かあるでしょう」


——————————————————————


夜。


食事を終える頃には、雨脚が少し弱くなっていた。

ルナリスは早めに眠り、シエラも部屋へ戻った。


エレーンは台所で残った食器を片づける。


「手伝う?」


後ろからジジの声。


「今日はいいわ」


「何で?」


「昼間働いてきたでしょう」


「別に疲れてない」


「ならそこにいて」


「何すんの」


「何もしなくていいわよ」


ジジは素直に椅子へ座った。


「……本当に座るのね」


「座れって言っただろ」


「そうだけど」


エレーンは笑いながら皿を洗う。

外ではまだ雨が降っている。


水の音。

食器の触れる音。

それ以外は静かだった。


「ジジ」


「ん」


「今日、何してたの?」


「守備隊?」


「ええ」


「訓練」


「あなたが教えたの?」


「そ」


エレーンが振り返る。


「教えられるの?」


「失礼だな」


「だって、説明するの苦手そうだから」


「実際やった方が早い」


「やっぱり」


最後の皿を拭く。


「どんなこと教えたの?」


「剣の持ち方とか、足の位置とか」


「見てみたいわね」


ジジが顔を上げる。


「何を?」


「あなたが教えてるところ」


「面白くねぇよ」


「私が決めるわ」


「じゃあ今度来る?」


エレーンの手が止まった。


「いいの?」


「ああ」


「守備隊の訓練でしょう?」


「見るくらいなら」


「……じゃあ、行ってみようかしら」


「ん」


エレーンは布巾を置いた。

こういう話をするのは、初めてだった。

ジジが何をしているのか。


冒険者として。

剣を持つ人間として。


知っているようで、ほとんど知らない。


「私、あなたがちゃんと戦ってるところってあまり見てないのよね」


「見なくていい」


「どうして?」


「危ねぇから」


「そうじゃなくて」


エレーンが笑う。


「訓練よ」


「ああ」


「本気で戦ってるところなんて見たくないわ」


ジジが少し黙った。


「黒蛇の時?」


「ええ」


あの倉庫。

あの時のジジは、今目の前にいる男とはまるで違った。


「何で?」


「少し怖かった」


「俺が?」


エレーンは考える。


「……あなたが、じゃないわね」


「じゃあ何?」


「あなたがあんな顔をしなきゃいけなかったことが」


ジジは何も言わなかった。

雨音だけが続く。


エレーンは椅子を引いて、向かいに座った。


「もう終わったことだけど」


「そうだな」


「ルナリスも戻ってきたし」


「うん」


ジジはテーブルに肘をつく。


「エレーン」


「何?」


「仕事、断っただろ」


「ええ」


「後悔してない?」


思いがけない質問だった。

エレーンはジジを見る。


「どうして?」


「何となく」


「珍しいわね。あなたから聞くなんて」


「嫌ならいい」


「嫌じゃないわよ」


少し考える。


「してない」


「そっか」


「今のところはね」


エレーンは窓の外を見る。


「今は、ここにいたいから」


昨日、シエラに言ったのと同じ言葉だった。

ジジはただ頷いた。


「じゃあいればいい」


またそれ。

エレーンは思わず笑った。


「本当にあなたは、そればっかりね」


「駄目?」


「いいえ」


今度は迷わなかった。


「それがいいの」


ジジが少しだけ首を傾げる。

分かっていない顔。

エレーンはそれ以上説明しなかった。


外では、雨が静かに降り続いていた。


二人とも席を立たない。

話すことがなくなっても。


もう少しだけ、そこにいた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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