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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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知らない時間

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

午後。


窓から入る風が、カーテンをゆっくり揺らしていた。

ルナリスは長椅子で毛布にくるまり、シエラの隣に座っている。


エレーンはテーブルで乾燥させた薬草を分け、

ジジはその向かいでダンテから預かった書類を読んでいた。


しばらくして、ルナリスが欠伸をした。


「眠い?」


シエラが聞く。


「ちょっと」


「部屋に行く?」


「まだここにいる」


「そう」


ルナリスは毛布を少し引き上げた。


「シエラ」


「なに?」


「あれ歌って」


シエラが少し驚いた顔をする。


「あれ?」


「前に歌ってたやつ」


「ああ」


ジジが書類から顔を上げた。


「歌?」


「ルナリスが眠れない時に、よく歌ってたの」


「どこで?」


シエラは一瞬だけ黙った。


「砦にいた頃よ」


ジジはそれ以上聞かなかった。

シエラがルナリスの髪をそっと撫でる。


「久しぶりだから、途中で忘れるかもしれないわよ」


「大丈夫」


「何が大丈夫なの」


「ルナが覚えてる」


「それなら間違えられないわね」


シエラが小さく笑った。

やがて、静かな声が部屋に流れた。


聞いたことのない言葉ではない。

けれど、ジジには知らない歌だった。


エレーンの手が止まる。


幼い頃、何度か聞いたことがある。

まだ姉と同じ家にいた頃。


夜になると、シエラが時々口ずさんでいた歌だった。


「……懐かしい」


思わず呟くと、シエラが歌を止めた。


「覚えてる?」


「少しだけ」


「エレーンにも歌ってたものね」


「そんなに何度もじゃないでしょう」


「そうだったかしら」


「そうよ」


ルナリスが嬉しそうに顔を上げる。


「エレーンも知ってるの?」


「昔に少しね」


「じゃあエレーンも歌える?」


「無理よ。ほとんど覚えてないもの」


「シエラは覚えてる」


「姉さんは昔からそういうのだけはよく覚えてるのよ」


「そういうのだけって何?」


シエラが笑う。


「褒めてるの」


「聞こえないわ」


「じゃあ歌の続きお願い」


ルナリスに言われ、シエラはまた歌い始めた。

ジジは黙って聞いていた。


途中でルナリスも小さく口ずさむ。

ところどころ歌詞が違う。

シエラが直すと、


「そっちだっけ?」


「ずっとそうよ」


「ルナ、こっちで覚えてた」


「ずっと歌っていれば、勝手に変わることもあるわね」


「じゃあルナのでもいい?」


「いいわよ」


二人の声が重なる。

ジジは書類へ目を戻した。


けれど、さっきより頁をめくるのが遅かった。

エレーンは何も言わず、薬草を分ける作業へ戻った。


歌が終わる頃には、ルナリスの眠気も少し消えたらしい。


「寝ないの?」


シエラが聞く。


「起きた」


「さっきまで眠いって言ってたでしょう」


「もう大丈夫」


ルナリスは少し身体を動かした。


「庭行きたい」


ジジが書類を置く。


「行く?」


「うん」


立ち上がろうとしたジジに、ルナリスが言った。


「シエラと行く」


ジジが止まる。


「シエラと?」


「うん」


シエラも少し驚いたようだった。


「私でいいの?」


「いいよ」


「じゃあ行きましょうか」


シエラが立ち上がり、ルナリスを抱き上げる。

ジジはその様子を見ていた。


「寒くないようにしろよ」


「毛布持っていくわ」


「長くいない方がいい」


「分かってる」


「疲れたらすぐ戻って」


ルナリスが笑う。


「ジジ、いっぱい言うね」


「心配だから」


「大丈夫」


「うん」


少し間を置いて。


「いってらっしゃい」


「いってきます」


シエラがルナリスを抱いたまま庭へ出ていく。


扉が閉まった。

ジジはその前に立ったまま、少しだけ動かなかった。

エレーンが薬草を束ねながら言う。


「行かないの?」


「何が?」


「庭」


「行かねぇ」


「珍しいわね」


「そう?」


「今までならついて行ってたでしょう」


ジジは窓の外を見る。

庭からルナリスの声が聞こえる。

何かを話しているらしい。


そのあと、シエラが笑った。


「……楽しそうだから」


ジジはそう言って、椅子へ戻った。

エレーンが少し目を細める。


「そうね」


ジジはまた書類を開いた。

庭から声が聞こえるたび、時々そちらを見る。


けれど。


一度も席を立つことはなかった。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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