もう少し
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。
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夕食を終える頃には、外はすっかり暗くなっていた。
「ルナ、もう眠い」
ルナリスが小さく欠伸をする。
「今日は昼寝しただろ」
ジジが言う。
「したけど眠いの」
「じゃあ寝る?」
「まだちょっとだけ起きてる」
「どっちだよ」
「ちょっとだけ」
シエラが笑いながら食器を重ねる。
「眠くなるまで私とお話ししましょうか」
「する」
「じゃあ部屋に行きましょう」
ルナリスがジジへ手を伸ばした。
ジジは当たり前のように抱き上げる。
「連れてく」
「うん」
「姉さん、私が片づけるわ」
エレーンが言う。
「でも」
「いいから。ルナリスをお願い」
「分かった」
三人が部屋へ向かう。
少しして、ジジだけが戻ってきた。
「寝た?」
「まだ。シエラと話してる」
「そう」
エレーンは洗った皿を拭いていた。
ジジが隣へ立つ。
「何かする?」
「珍しいわね」
「何が」
「手伝うなんて」
「俺だってする」
「言われれば、でしょう」
「今日は言われてない」
「だから珍しいのよ」
ジジは少し考えたあと、洗い終わった皿を棚へ戻し始めた。
「そこじゃないわ」
「ここじゃなかった?」
「一つ上」
「ああ」
「毎日使ってるのに、どうして覚えないの」
「エレーンが出すから」
「私がいなくなったら困るわね」
何気なく言った言葉だった。
ジジの手が止まる。
「いなくなんの?」
エレーンも一瞬止まった。
「……今すぐの話じゃないわよ」
「そっか」
それだけ言って、また皿を戻す。
エレーンは少しだけジジを見る。
「何?」
「別に」
片づけが終わると、ジジは湯を沸かした。
「飲む?」
「何を?」
「茶」
「見れば分かるわ」
「じゃあ聞くなよ」
「種類を聞いたの」
「ああ」
ジジが棚を見る。
「これ」
「何それ」
「カモミール」
「頂くわ」
エレーンが深緑のカップを出す前に、ジジが先に取った。
「これだろ」
「……ええ」
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二人で食卓へ座った。
少しの間、何も話さなかった。
外では虫の声がしている。
ジジはカモミールティーを飲みながら、ぼんやり窓の外を見ていた。
エレーンはその横顔を見る。
「ねえ」
「ん」
「あなた、何もすることがない時って何してるの?」
「何もしない」
「……本当に?」
「ああ」
「本を読むとか…」
「読まない」
エレーンは呆れたように笑った。
「私には無理ね」
「何が」
「何もしないこと」
「やれば?」
「何を?」
「何もしない」
「だから、それができないのよ」
ジジは少し考えた。
「今やってるじゃん」
エレーンが目を瞬く。
「……何を?」
「何もしてない」
言われて。
エレーンは自分の手を見る。
確かに。
仕事もしていない。
片づけも終わった。
何かを急いで決める必要もない。
ただ、カモミールティーを飲んでいるだけだ。
「……そうね」
「結構いいだろ」
「あなたほど慣れたくはないわ」
「何で」
「駄目になりそうだから」
「俺、駄目なの?」
「少し」
「ひど」
エレーンが笑った。
やがてジジが立ち上がった。
「寝る?」
エレーンが聞く。
「ああ。少し眠くなった」
「そう」
ジジがカップを持つ。
数歩進んだところで。
「ジジ」
「ん」
エレーンは自分でも、何を言おうとしたのか分からなかった。
呼び止める理由はない。
話したいことがあるわけでもない。
それでも。
「……もう少し、ここにいてくれない?」
ジジが振り返る。
「いいけど」
あっさり戻ってきた。
「何か話あんの?」
「ないわ」
「......は?」
「なくてもいいでしょう」
「いいけど」
ジジはまた椅子へ座った。
エレーンもカップを持ち上げる。
さっきより少し冷めていた。
「何もしないんでしょう?」
「まぁ」
「なら、もう少しくらい付き合いなさい」
「分かった」
ジジはそう言って、また窓の外を見る。
エレーンも何も言わなかった。
ただ。
さっきまでは苦手だと思っていたはずの、何もしない時間が。
今は少しだけ。
終わらなければいいと思った。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




