決めなくていい日
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。
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翌朝。
朝食を終えると、エレーンは外套を手に取った。
「街まで行ってくるわ」
「ミレアのところ?」
ジジが聞く。
「そう。ずっと仕事を休んだままだから」
「夕方?」
エレーンは少し笑った。
「そんなにかからないわ。昼過ぎには戻れると思う」
「分かった」
ジジはルナリスの皿を見た。
「それもういらねぇの?」
「食べる」
「さっきから止まってる」
「今食べようと思ってたの」
「じゃあ食え」
「ジジ、うるさい」
エレーンは二人を見てから、シエラへ向き直る。
「姉さんはどうする?」
「私も行っていい?」
「街に?」
「ええ。まだほとんど見てないから」
「そうね。じゃあ一緒に行きましょう」
二人が玄関へ向かう。
扉を開ける前に、ルナリスが呼んだ。
「エレーン」
「何?」
「いってらっしゃい」
「……行ってくるわ」
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ミレアの薬屋へ入ると、乾燥した薬草の匂いがした。
久しぶりなのに、店の中は何も変わっていない。
ミレアがエレーンを見る。
「やっと来たわね」
「すみません。連絡もできなくて」
「無事ならいいわ」
その視線が、後ろにいるシエラへ移る。
「姉です」
「シエラです。初めまして」
シエラが頭を下げる。
ミレアは二人を見比べた。
「……見つかったのね」
「はい」
「そう。良かったじゃない」
「ありがとうございます」
それだけ言うと、ミレアは店の奥へ戻った。
エレーンも後を追う。
「それで、仕事なんですが」
「その話もしないとね」
ミレアは棚の下から小さな袋を取り出した。
「悪いけど、もう代わりの人に入ってもらてるの」
「はい」
「いつ戻れるか分からなかったでしょ」
「当然だと思います」
「働いた分はこれ。確認して」
エレーンは袋の中を見る。
「大丈夫です」
「そう」
ミレアは少しだけエレーンを見た。
「次は?」
「次?」
「仕事よ。また探すんでしょ?」
エレーンは答えようとして。
少し止まった。
「……まだ決めてません」
「そう」
エレーンは袋をしまった。
「今までありがとうございました」
「ええ」
店を出ようとすると、背中から声が飛んできた。
「エレーン」
「はい?」
「近くまで来たら顔くらい出しなさいよ」
エレーンは少しだけ目を細めた。
「分かりました」
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店を出る。
しばらく歩いてから、シエラが口を開いた。
「大丈夫?」
「ええ」
「仕事、なくなったけど」
「それは仕方ないわ。店を空けたのは私だもの」
「次すぐ探すの?」
エレーンは通りの先を見る。
「……まだいいわ」
二人で歩く。
道沿いには露店が並んでいた。
シエラが何度か足を止める。
布を見たり、果物を見たり、焼き菓子の匂いに振り返ったり。
エレーンはその隣を歩いた。
「姉さん」
「なに?」
「何か食べたい?」
「え?」
「さっきからあのお菓子見てるでしょう」
シエラが少し恥ずかしそうに笑う。
「分かった?」
「何回も見れば分かるわよ」
「でも、お昼前だし」
「別にいいでしょう」
「いいの?」
「食べたいんじゃないの?」
「……食べたい」
「じゃあ買いましょ?」
シエラが少し笑った。
「エレーンも食べる?」
「半分もらうわ」
「じゃあ一つだけ」
二人で焼き菓子を一つ買った。
エレーンは受け取って一口食べる。
甘い。
「おいしい?」
「ええ、美味しい」
もう一口食べた。
「このあと、どうする?」
菓子を食べ終えたシエラが聞いた。
「帰るわ」
「もう?」
「何か見たいものがある?」
「ううん。十分」
「なら帰りましょう」
少し歩いて。
シエラがまた聞いた。
「本当に、仕事は探さなくていいの?」
「どうして姉さんまで気にするの」
「気になるだけ」
エレーンは少し考えた。
「今は、ルナリスもまだあんな状態でしょう」
「うん」
「姉さんだって、戻ってきたばかりだし」
「私は大丈夫よ」
「私が一緒にいたいの」
シエラが黙った。
エレーンも、自分の言葉に少し驚いた。
「……何?」
「ううん」
「またそれ」
「嬉しかっただけ」
エレーンは前を向く。
「それに」
「それに?」
「今すぐ決めなくてもいい気がするの」
「仕事?」
「仕事も。これからのことも」
シエラはしばらく何も言わなかった。
「そうね」
エレーンは少し笑った。
二人はそのまま、森へ続く道を歩いた。
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家へ戻ると、中は静かだった。
「ただいま」
返事がない。
エレーンとシエラが居間を覗く。
長椅子で、ジジとルナリスが眠っていた。
ジジは背もたれに身体を預け、ルナリスはその脇に寄りかかっている。
「……寝てる」
シエラが小声で言う。
「ええ」
テーブルには、飲みかけの茶が二つ。
エレーンは外套を脱ぎ、そっと椅子へ掛けた。
その音でルナリスが少し動く。
「……エレーン?」
「起こした?」
「ううん」
ジジも目を開ける。
しばらくぼんやりしてから口を開いた。
「おかえり」
「ただいま」
ルナリスも身体を起こす。
「早かったな」
「言ったでしょう。昼過ぎには戻るって」
「そっか」
ジジが欠伸をする。
「仕事は?」
「今日で終わりになったわ」
「そうか」
それ以上は何も聞かない。
エレーンは少し待ってから言った。
「しばらく、次の仕事は探さないつもり」
「ふうん」
「……それだけ?」
「何が?」
「何か言うかと思ったの」
ジジは少し考えた。
「働きたくなったら探せばいいだろ」
「ずいぶん簡単ね」
「違う?」
「いいえ」
ルナリスがエレーンの方へ顔を向ける。
「じゃあ、しばらく家にいる?」
「そのつもりよ」
「よかった」
「どうして?」
「エレーンいると安心する」
エレーンの表情が少し緩んだ。
「そう」
ジジも長椅子へ身体を戻す。
「ここにいたければ、いればいいし」
エレーンがそちらを見る。
「あなた、本当にそれしか言わないのね」
「何が?」
「好きにすればいい、って」
「エレーンのことだから」
「……そうね」
ジジはもう眠そうに目を閉じかけている。
エレーンはその姿を見て、小さく息を吐いた。
「寝るならちゃんと横になったら?」
「ここでいい」
「また首を痛めるわよ」
「大丈夫」
「そう言って前も痛いって言ってたでしょう」
「言ってねぇ」
「言ったわ」
「覚えてねぇ」
「でしょうね」
ルナリスが笑う。
エレーンもつられて少し笑った。
次の仕事は、まだ決めない。
いつまでここにいるかも。
その先のことも。
今はまだ。
決めなくていい。
そう思えることが、不思議と嫌ではなかった。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




