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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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48/144

半日だけ

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

翌朝。


食卓には、少し遅い朝食の匂いが残っていた。

ルナリスは窓際の椅子に座り、

シエラに髪を梳かしてもらっている。


昨日より長く身体を起こしていられるようになった。

それだけでも、家の中の空気は

少しずつ変わっていた。


玄関が叩かれる。


「誰」


ジジが扉を開ける。


「俺だよ」


ダンテだった。


片手に書類の束。

もう片方には、小さな紙袋を持っている。


「また書類?」


「お前、俺を見るたびそれ言うのやめろ」


「だって持ってんじゃん」


「仕事だからな」


ダンテは家へ入ると、真っ先にルナリスを見た。


「お。今日は起きてるな」


「ダンテ」


「もう覚えたか」


「うん」


ダンテの顔が少し緩む。


「ほら」


紙袋を差し出した。


ルナリスが両手で受け取る。


「あの飴?」


「よく覚えてるな、蜂蜜飴」


診療所でダンテからもらったことを覚えていた。


「一日一個な」


「なんでダンテが決めんだよ」


ジジが言った。


「お前に渡すと全部食わせそうだからだよ」


「食わせねぇよ」


エレーンが台所から顔を出す。


「信用はないわね」


「何で」


「今までの実績よ」


ルナリスが袋を抱えて笑った。

ダンテは満足そうに頷くと、

今度は持ってきた書類を食卓へ置いた。


「ラガードからの報告だ」


ジジの表情が少し変わる。


「何か出た?」


「細かいのはいくつか。逃げてる奴が二人。

 買い手側でもう一件、別の土地に照会かけてる」


「行く?」


「お前は行かなくていい」


「じゃあ何で来た」


「報告しろってうるさいからだろ」


「俺そんな言ってねぇ」


「顔に書いてある」


ダンテは椅子へ座った。

それから、少し言いにくそうにジジを見る。


「……あと一個」


「何」


「お前、今日暇か?」


「暇じゃねぇ」


即答だった。

ダンテがルナリスを見る。


「何してんだ」


「ルナいる」


「見りゃ分かる」


「だから暇じゃねぇ」


「一日中見てんのか?」


「悪ぃかよ」


「悪くはねぇけど」


ダンテが頭を掻く。

エレーンは少し離れたところで、

黙って二人を見ていた。


「黒蛇の後始末で、ラガードだけじゃなく

 こっちも人取られてんだよ」


「ふうん」


「通常の巡回が薄くなってる」


「へえ」


「北の街道で魔物が出た」


ジジがようやくダンテを見る。


「何?」


「グラウンドボア。二頭確認されてる」


「それだけ?」


「それだけって言うな。普通の旅人には十分危ねぇ」


「隊員出せば?」


「その隊員が足りねぇって話してんだよ」


「冒険者ギルド」


「依頼は出した。

 だが近場の連中が黒蛇絡みの護送や

 捜索に回ってる」


ダンテは大きく息を吐いた。


「半日でいい」


「嫌だ」


「まだ何も言い終わってねぇだろ」


「離れたくねぇ」


今度は、ダンテが黙った。

冗談ではなかった。


ルナリスがようやく同じ家へ帰ってきた。

それを知っているからこそ、

ダンテもすぐには言葉が出なかった。


「……まあ」


ダンテが頭を掻く。


「そうだよな」


「ん」


「分かった。別当たる」


書類をまとめようとした時。


「ジジ」


ルナリスが呼んだ。


「ん?」


「行ってきていいよ」


ジジが振り返る。


「でも」


「ルナ、エレーンもシエラもいる」


「ん」


「大丈夫」


ジジは少し黙った。

ルナリスが顔を向ける。


見えてはいない。


けれど、まっすぐジジのいる方を見ていた。


「帰ってくるでしょ?」


「うん」


答えはすぐだった。


「帰ってくる」


「今日?」


「昼過ぎには」


「じゃあいい」


「……そっか」


ルナリスは頷いた。

ジジはまだ少し迷っていたが、やがてダンテを見る。


「半日?」


「半日」


「昼過ぎまで?」


「お前が寄り道しなきゃな」


「しねぇ」


「じゃあ頼む」


「分かった」


ダンテが立ち上がる。

エレーンが小さく笑った。


「私が言っても椅子で寝続けたのに、

 ルナリスに言われると本当に素直ね」


「何の話?」


「何でもないわ」


ジジは首を傾げた。


——————————————————————


ジジとダンテが討伐依頼先に向かう。


北の街道は、森を抜けた先にある。

昔は魔物が多く、

護衛なしで通る者はほとんどいなかった。


今では随分減った。


主な理由の一つが、

隣を歩いている男だということを、

ダンテはよく知っている。


「昔ここ、もっといたよな」


ジジが周囲を見る。


「誰のせいで減ったと思ってる」


「知らね」


「お前だよ」


林の奥で、低い唸り声がした。

二人が同時に止まる。


木々の向こう。

地面を掘る音。


「いたな」


ダンテが剣へ手を掛ける。

ジジも腰へ手を伸ばして。


止まった。


何もない。


「……剣」


「持ってきてねぇのかよ!」


「忘れた」


「お前な!」


茂みが弾けた。

巨大な猪に似た魔物が飛び出す。


人間の胸ほどもある牙。

硬い皮膚。


グラウンドボア。


その後ろから、もう一頭。


「二頭だ!」


「知ってる」


一頭目が突進する。

ジジは横へ避けた。


牙が地面を抉る。

少し先に、古い槍が落ちていた。

街道警備に使われていたものだろう。


ジジは拾い上げた。


「それ使えるのか?」


「槍?」


「ああ」


二頭目が飛び込んでくる。


ジジは槍を返した。

穂先が魔物の進路を逸らす。

そのまま柄を滑らせ、脚を払う。


巨体が地面へ転がった。


一頭目が向きを変える。


「ダンテ」


「何だ!」


「そっち」


「俺にもやらせんのかよ!」


「隊長だろ」


「そういう時だけ使うな!」


ダンテが剣を抜いた。

片づくまで、それほど時間はかからなかった。


討伐証明になる牙を確認し、

街道に残った跡を調べる。


他の群れはいない。


「終わり?」


ジジが聞く。


「ああ」


「帰っていいか?」


「まだ昼前だぞ」


「帰る」


「分かったよ」


ダンテは呆れながら剣を収めた。


「昔は依頼終わったら酒場寄ってたくせに」


「ルナ」


「はいはい」


ジジはすでに帰る方向へ歩き始めている。

ダンテがその背中を見る。


「……ほんと変わったな」


「何が?」


「聞こえてんのかよ」


「聞こえんだろ」


「何でもねぇよ」


——————————————————————


昼を少し過ぎた頃。


エレーンは庭で洗濯物を干していた。

シエラはルナリスと家の中にいる。

森は静かだった。


朝からずっと。


別に変なことではない。

それなのに。


今日は妙に家が静かに感じた。


「……」


エレーンは手を止める。

すぐにまた洗濯物へ戻った。


少しして。


森の向こうから、聞き慣れた声がした。

ジジとダンテが何か言い合っている。


エレーンは顔を上げる。


木々の間から、二人が現れた。

先を歩いているのはジジだった。


「ただいま」


「……おかえり」


自然に返してから、エレーンは一瞬だけ黙った。


別に。


それだけのことだった。

家からルナリスの声がする。


「ジジ?」


「ただいま」


ジジはすぐに玄関へ向かった。


「おかえり。早かったね」


「約束したから」


扉の向こうから、ルナリスの笑う声が聞こえた。

エレーンは洗濯物を干しながら、小さく息を吐いた。


さっきまで静かだった家が。


いつもの音に戻っていた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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