親子みたい
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。
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森の家へ戻ってから、数日が過ぎた。
ルナリスは少しずつ、
この家での生活に馴染み始めていた。
食べられる量はまだ多くない。
それでも、朝と昼と夜。
決められた量を少しずつ食べる。
昼間は寝台から身体を起こしている時間も増えた。
窓を開ければ、森の音が聞こえる。
庭からは薬草や花の匂いが入ってくる。
「今日、外出る?」
ルナリスが聞いた。
「うん。天気いいし」
ジジはそう答えて、ルナリスを抱き上げる。
「また赤いの見たい」
「見るっていうか、匂いだろ」
「同じ」
「違うと思うけど」
「同じ」
「そっか」
結局、ジジが折れる。
その様子を見ながら、
エレーンは食器を片づけていた。
帰ってきてからというもの、
ジジはほとんど家を離れなかった。
必要な買い物があればエレーンが行く。
診療所へ連れていく日は、もちろんジジが同行する。
それ以外は、ずっとルナリスのそばにいる。
「あなた、冒険者の依頼は?」
ある日、エレーンが聞いた。
「今はいい」
「依頼、来てるんじゃないの?」
「来てる」
「断ってるの?」
「そ」
あまりにも迷いがない。
エレーンは少し呆れた。
「ずっと家にいるつもり?」
「しばらくは」
「そう」
それ以上は言わなかった。
十五年探していたのだ。
まだ離れたくないのだろう。
そう思えば、何もおかしくなかった。
むしろ。
随分この人らしい。
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夜。
ルナリスが眠る頃になると、
ジジはいつものように寝台の横の椅子へ座った。
灯りを落としてから、しばらく経つ。
「ジジ」
小さな声がした。
「ん」
「起きてる?」
「起きてるよ」
少しだけ間が空いた。
「……こっちで寝て」
ジジが寝台を見る。
「潰れるぞ」
「いい」
「なんだそれ」
「はーやーくー」
ジジは椅子から立ち上がった。
何日もそこで寝ていた割に、
ルナリスに言われれば随分素直だった。
寝台へ入り、
ルナリスの身体に負担がかからないよう
毛布を整える。
「これでいい?」
「うん」
ルナリスは手を伸ばし、
ジジの服の端を小さく掴んだ。
しばらく、二人とも黙っていた。
森の外から虫の声が聞こえる。
「昔も一緒に寝てたね」
「孤児院?」
「うん」
「ルナ、よく俺の布団入ってきてた」
「ジジがいなかったから」
「いたよ」
「隣にいなかった」
「それはいないって言わねぇだろ」
ルナリスが小さく笑った。
「ジジ、おっきくなったね」
「だな」
「どのくらい?」
ジジは少し考えた。
「入り口でたまに頭ぶつける」
ルナリスが笑う。
「昔はぶつけなかった」
「昔は俺も小さかった」
少し静かになる。
「ジジ」
「何」
「あの時ね。
助けに来てくれた時、最初ジジだって分からなかった」
ジジがルナリスを見る。
「声、違ったから」
「まあ、変わるだろ」
「すごく低い」
「そう?」
「うん。誰だろうって思った」
十五年前。
ルナリスが知っていたのは、十三歳のジジだった。
背丈も。
声も。
今とは違う。
「でも、“ルナ”って呼んだ」
ジジの目が僅かに動いた。
「そんなふうに呼ぶの、ジジだけだから」
「…………」
「だから分かった」
「そっか」
「うん」
それからルナリスは、
服の端を掴んだまま目を閉じた。
「おやすみ、ジジ」
「おやすみ」
しばらくすると、小さな寝息が聞こえ始めた。
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翌朝。
エレーンが廊下へ出ると、
ジジの部屋の扉が僅かに開いていた。
ルナリスの様子を確認しようと、中を見る。
そして足を止めた。
寝台の上。
ルナリスはジジの胸元へ寄るようにして眠っている。
小さな手は、まだ服を掴んだまま。
ジジの腕は、
眠っているルナリスの肩へ自然に回っていた。
昨日まで。
寝台で寝ればいいと言っても、
椅子でいいと聞かなかったくせに。
エレーンは扉に手を掛けたまま、
しばらく二人を見ていた。
まるで、親子みたい。
そう思った。
いつも無愛想で。
何を考えているのか分かりにくくて。
人間相手なら剣すら抜かないほど強い男が。
今は、小さな身体を守るように眠っている。
胸の奥が、少しだけ柔らかくなった。
「……本当にしょうがない人」
誰にも聞こえないように呟いて、
エレーンは静かに扉を閉めた。
起こさないように。
もう少しだけ。
二人を眠らせておこうと思った。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




