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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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四人の夜

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

家へ戻ると、最初に始まったのは部屋の準備だった。


ジジは自分の部屋へ、寝具を増やしていた。

エレーンがそれを見て首を傾げた。


「ルナリスは、あなたの部屋?」


「何で?」


ジジは当然のように答えた。


「夜、何かあったら困るだろ」


「そうね」


ルナリスはまだ一人で身体を起こすことも難しい。

水が欲しくなっても、

寝返りを打つにも手を借りることがある。


しばらくは誰かが同じ部屋にいた方がいい。


「じゃあ姉さんは私の部屋ね」


「いいの?」


シエラが聞く。


「他にないもの」


「俺、床でも寝られるけど」


エレーンが振り返る。


「どうしてそこであなたが追い出されるのよ」


「部屋足りないなら」


「足りてるでしょう」


「そっか」


「……本当に何も考えず喋ってるわね」


「考えてるよ」


「今のどこに?」


ジジは答えなかった。

シエラが小さく笑う。

その声を聞いて、ルナリスもつられたように笑った。


家の中に、今までなかった声が増えていた。


——————————————————————


夕食は簡単なものにした。


柔らかく煮た野菜と、細かくほぐした白身魚。

それから薄いスープ。


ジジがルナリスの皿を見ている。


「少なくねぇ?」


「少なくないわ」


エレーンが即答した。


「でもこれだけ?」


「医師に何て言われたの」


「少しずつ」


「覚えてるじゃない」


「もうちょい食えそうだけど」


ルナリスが小さく手を上げる。


「食べられる」


「ほら」


「駄目」


「何で」


「急に増やさないの」


ジジは不満そうだった。

シエラが向かいから二人を見る。


「エレーンがいて良かったわね」


「何で?」


「あなた一人だったら、

 たぶん今頃三人前くらい食べさせてるでしょう」


「そこまではしない」


エレーンがジジを見る。


「二人前?」


「駄目」


ルナリスが笑った。


「ジジ、怒られてる」


「怒られてねぇ」


「怒ってないわ」


「ほら」


「呆れてるだけよ」


「それ怒ってるのと違うの?」


「違うわ」


ルナリスはまた笑った。


その笑い声を聞くたびに、

ジジの表情が少しだけ緩む。


エレーンはそれに気づいていた。

けれど、何も言わなかった。


——————————————————————


食事のあと。


ジジはルナリスを抱いて庭へ出た。

夜風が、森をゆっくり抜けていく。


「寒くないか?」


「平気」


「じゃあちょっとだけ」


庭の端まで歩く。

ルナリスが顔を上げた。


「花の匂いする」


「ん」


「こっち?」


「左」


ジジが少し向きを変える。


「カモミール。覚えてねぇ?」


「名前は分かんない」


「じゃあ何で分かった」


「匂い」


「そっか」


さらに少し進む。


ルナリスが突然、ジジの服を掴んだ。


「ジジ」


「ん?」


「赤いのある?」


ジジが足を止める。


「あるよ」


ローズヒップの茂みだった。

赤い実が、いくつも枝に残っている。


「いっぱい?」


「うん」


ルナリスは楽しそうだった。


玄関の近くから、エレーンが二人を見ていた。

シエラが隣へ来る。


「随分、嬉しそうね」


「ええ」


「ジジ?」


エレーンは少しだけ考えた。


「……二人とも」


シエラは何も言わず、庭を見る。


ジジに抱かれたルナリスが何かを話している。

ジジが答える。

またルナリスが笑う。


十五年。


その時間だけが、

二人の間からすっぽり抜け落ちている。

けれど今は。


少しずつ、その空白を埋めているように見えた。


「良かったわね」


シエラが言った。


「ええ」


エレーンも素直に頷いた。

本当にそう思った。


——————————————————————


夜。


ルナリスを寝かせたあと、

ジジは寝台の脇へ椅子を置いた。


「何してるの?」


エレーンが扉から覗く。


「ここで寝る」


「椅子で?」


「ん」


「あなたの寝台でしょう」


「ルナ使ってるから」


「一緒に寝ればいいじゃない」


ジジがルナリスを見る。


「潰しそう」


「どんな寝方するつもりなのよ」


「寝たら分かんねぇだろ」


「……それもそうね」


体格差を考えると、確かに心配ではある。

エレーンは少し考えてから、予備の毛布を取った。


「明日の朝痛いって言っても知らないから」


「言わない」


「そう」


エレーンは毛布を椅子の背へ掛ける。

そのまま出ていこうとして。


一度だけ、振り返った。


ジジはもうルナリスを見ていた。

眠っていることを確かめるように。


何度も。


エレーンは何も言わず、静かに扉を閉めた。


——————————————————————


自分の部屋へ戻ると、

シエラはもう寝支度を終えていた。


「ルナリス、眠った?」


「ええ」


「ジジは?」


「椅子で寝るつもりらしいわ」


「どうして?」


「ルナリスと一緒に寝たら潰しそうだからって」


シエラが吹き出した。


「本気で言ってるの?」


「本気よ」


エレーンも少し笑う。

寝台へ腰を下ろす。


しばらくして、シエラが言った。


「いい人ね」


エレーンの手が止まった。


「……そうね」


「ずいぶん素直に認めるのね」


「悪い?」


「別に」


シエラはそれ以上何も言わなかった。


エレーンも横になる。

暗くなった部屋の中。


隣の部屋からは、何も聞こえない。


それでも。


同じ屋根の下にジジがいることを、妙に意識した。


エレーンは目を閉じる。


今日は少しだけ。


眠るまでに時間がかかった。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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