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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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森の家

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 2~3話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

ルナリスは、少しずつ食べられるようになっていた。


最初は数口で疲れていた食事も、

今では小さな皿なら半分ほど食べられる。


眠っている時間も少し減った。


頬にはまだ痩せた影が残っている。

それでも、

救出された日の姿とは明らかに違っていた。


定期的に診察に来ているエルフの医師が

ルナリスの脚に布を掛け直す。


「ずいぶん安定したわ」


ジジが顔を上げた。


「本当?」


「ええ。熱もないし、傷も問題ない」


エレーンとシエラも傍で聞いていた。

医師はもう一度、ルナリスの脚へ目を落とす。


「それと、少し気になることがある」


「悪いこと?」


「逆よ」


ジジが近づいた。


「切断されたところに、新しい組織ができてる」


「……足?」


「まだそう呼べるほどじゃないわ」


すぐに釘を刺される。


「でも、普通なら傷が閉じて終わる。

 この子の身体は、その先を作ろうとしてるみたい」


ジジは黙ってルナリスの脚を見る。


「戻る?」


「分からない」


「可能性は?」


医師は少し考えた。


「あると思う」


ジジの目が僅かに動いた。


「今まで再生が止まっていたのは

 栄養状態が悪すぎたせいかもしれないわ」


「じゃあ食えばいい?」


「そうだけど」


「いっぱい?」


「駄目」


「何で」


「急に増やしたら身体がついていかないでしょう」


エレーンが小さく息を吐いた。


「絶対そう言うと思ったわ」


「栄養いんだろ」


「少しずつよ」


医師も頷く。


「食べる。眠る。少しずつ身体を起こす。

 それで十分」


「薬は?」


「必要なものは出す。

 でも今この子に一番必要なのは、

 薬より普通の生活ね」


ジジは少し考えた。


「じゃあ、帰っていい?」


「ええ」


「今日?」


「それは早すぎるわ。

 薬も出しておきたいから、明日以降なら。」


ルナリスが顔を上げた。


「帰るの?」


「ああ」


「どこ?」


「家」


「……マリアの?」


ジジが一瞬黙った。


「うん」


エレーンがルナリスを見る。


「覚えているの?」


「分かんない」


ルナリスは少し首を傾げた。


「でも、マリアのおうち、行ったことある」


「ああ。よく行ってた」


ジジが答える。


三歳までの記憶だ。

はっきり覚えているものばかりではないのだろう。


それでも、名前だけはどこかに残っているらしい。


「帰る?」


ジジが聞く。

ルナリスは小さく頷いた。


「帰る」


その言葉を聞いて、医師が笑った。


「なら決まりね。ただし移動は慎重に。

 数日したらまた診せて」


「ああ」


「発熱、傷の腫れ、食欲が落ちる。

 何か変わったらすぐ来ること」


「分かった」


「それから」


医師がジジを見る。


「足を早く戻したいからって、

 勝手に食事を増やさない」


「……分かった」


「今、間があったわね」


「気のせい」


エレーンが横から言う。


「私が見ておくわ」


「お願い」


「俺、信用ないな」


「あると思っていたの?」


「思ってた」


「そう」


——————————————————————


馬車の手配や荷物をまとめている途中、

エレーンがふと動きを止めた。


「……そういえば」


「何」


「仕事」


「仕事?」


「私の」


「あー......」


ジジはそこでようやく思い出したようだった。

エレーンがじっと見る。


「何日休んでると思う?」


「知らねぇ」


「でしょうね」


シエラが横で笑いを堪えている。


「たぶん、もうクビね」


「そうなの?」


「何日も連絡せず休んだのよ」


「シエラ探してたんだから仕方ねぇだろ」


「店にはそんな事情、分からないでしょう」


ジジは少し考えた。


「じゃあまた探せば?」


エレーンの眉が寄る。


「……どこで」


「家の近くで」


当然のように返された。


「あなたの家の?」


「今住んでんだろ」


「…………」


ジジは今度はシエラを見る。


「シエラも来ればいい」


「私も?」


「エレーンの部屋あるし」


エレーンが額へ手を当てた。


「あなた、何でも簡単に決めるわね」


「嫌?」


「そういう話じゃないの」


「じゃあ何」


「……もういいわ」


ジジは首を傾げた。

ルナリスが楽しそうに笑う。


「みんなで帰る?」


「ああ」


ジジが答えた。


「みんなで帰る」


——————————————————————


翌日。

帰りの馬車には、厚く毛布が敷かれた。


ルナリスを揺らさないよう、

街道をゆっくり進んでいく。


ジジは隣に座り、

時々ルナリスの様子を確かめていた。


向かいにはエレーンとシエラ。


町を離れ、森が近づく。


窓から入る空気が変わった頃、

ルナリスが顔を上げた。


「……ジジ」


「ん?」


「この匂い、知ってる」


ジジがルナリスを見る。


「木?」


「違う」


ルナリスは窓から入る風へ鼻を寄せるようにした。


「草と……花」


エレーンが外を見る。


森の奥。

マリアの庭の薬草や花の匂いが、

風に混じり始めている。


「そっか」


ジジが言った。


木々のざわめき。

鳥の声。

土と草の匂い。


やがてルナリスが、また顔を上げた。


「庭、まだある?」


「うん」


「赤いの?」


ジジの目が止まった。

ほんの少しだけ。


「……あるよ」


「そっか」


ルナリスはそれだけ言って、少し笑った。


——————————————————————


馬車が止まった。


ジジが先に降り、ルナリスを抱き上げる。


「着いた?」


「ああ」


玄関までの道を歩く。


ルナリスが、ジジの胸元で小さく息を吸った。


「......マリアいる?」


「もういない」


「そっか」


ルナリスはそれ以上聞かなかった。

ジジの足が少しだけゆっくりになる。


扉を開けた。


乾いた木の匂い。

薬草。

古い家具。


しばらく留守にしていた家の空気が流れてくる。

ルナリスがじっとしていた。


見えてはいない。


それでも、何かを探すように顔を動かす。

ジジはそのまま中へ入る。


エレーンとシエラも後に続いた。


見慣れた机。

椅子。

棚。


エレーンは家の中を見回して、小さく息を吐いた。


戻ってきた。


そんな言葉が、自然と浮かんだ。

ジジは腕の中のルナリスを見る。


「ルナ」


「なに?」


「帰ってきた」


ルナリスはしばらく黙っていた。

それから、少しだけ笑う。


「……ただいま」


ジジの足が止まった。


「うん」


ルナリスを抱く腕に、ほんの少しだけ力を込める。


「おかえり」

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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