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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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黒蛇狩り

最初の拠点は、ラガード北東の外れにあった。


表向きは染料を扱う小さな工房。

だが、押収した帳簿には何度も同じ場所が出ていた。


夜明け前。


ジジは建物を見上げた。


「ここ?」


「ああ」


ダンテが答える。

後ろには守備隊が十人ほど控えている。


「裏は塞いだ。逃げ道も確認してある」


「じゃあ行く」


「待て」


「何」


ダンテの視線がジジの腰へ落ちた。


何もない。


「本当に剣置いてきやがったな」


「いらねぇ」


ダンテは諦めたように息を吐く。


「生け捕りだぞ」


「分かってる」


「証拠も壊すな」


「分かってるって」


「建物も壊すな」


ジジがダンテを見る。


「俺を何だと思ってる?」


「お前だから言ってんだよ」


扉の向こうで物音がした。

二人とも同時にそちらを見る。


「気づかれたな」


「だな」


次の瞬間、窓が開いた。


矢が飛んでくる。

ジジが半歩ずれた。

矢はその横を通り、地面へ突き刺さる。


「弓兵!」


守備隊員が叫ぶ。


二本目。

三本目。


ジジは一歩下がり、足元に落ちた一本を拾った。


「それ、矢だぞ」


「知ってる」


「何する気だ」


ジジは近くにいた守備隊員の弓を取った。


「借りる」


「えっ」


弦を引く。

一射。


二階の窓から身を乗り出していた男の

弓だけが弾かれた。

男が驚いて手を引く。


もう一射。


隣の窓の柱へ矢が突き刺さり、

開きかけていた扉を塞いだ。


ダンテが眉を上げる。


「お前、弓も使えんのか」


「使える」


「何なら使えねぇんだよ」


ジジは少し考えた。


「楽器?」


「そういう意味じゃねぇよ」


正面の扉が開いた。

男たちが飛び出してくる。


剣。

槍。


その奥に、長い外套を着た男がいた。


「術師!」


ダンテが叫ぶ。


男の手元に青白い光が集まる。

地面に幾何学模様が浮かんだ。


ジジの足元から石の杭が伸びる。


「ジジ!」


跳ぶ。

着地した先にも術式が走った。


「面倒だな」


ジジは弓を捨てた。

向かってきた槍を避け、その柄を掴む。


男が引こうとした。

動かない。


「離せ!」


「借りる」


「は?」


一度引いただけで、槍は男の手から抜けた。


石突きが別の男の腹へ入る。


一人。


柄を返して肩。


二人。


剣を持った男の手首を打つ。


三人。


ジジはそのまま槍を投げた。

穂先ではない。


柄の部分が術師の胸へ当たり、

男は術式ごと後ろへ倒れた。


光が消える。


「殺してないよな!?」


ダンテが叫ぶ。


「多分」


「確認しろ!」


「生きてる」


「先に言え!」


守備隊が一気に入った。

残った者たちは数分も持たなかった。


——————————————————————


地下から出てきたのは、人だけではなかった。


帳簿。

金。

偽造された通行証。


それから、他の拠点を示す地図。

ダンテが机へ広げる。


「多いな」


「何個?」


「この周辺だけであと四つ」


「行く」


「休め」


「まだ昼だろ」


「そういう問題じゃねぇ」


ジジは地図を見る。


「次はどこ」


ダンテはしばらく睨んだあと、一つを指した。


「ここだ」


「近い?」


「馬で一時間」


「じゃあ行く」


「……ほんとに全部今日やる気か?」


「早ぇ方がいいだろ」


ダンテは何も言わなかった。

言っても無駄だと分かっていた。


——————————————————————


二つ目。

三つ目。


黒蛇の拠点は、次々と潰れた。


逃げようとした者。

抵抗した者。

証拠を燃やそうとした者。


全員、生きたまま守備隊へ引き渡された。


四つ目の拠点で。


ようやく、少し様子が違った。

扉を開けた瞬間。


大きな影が飛び出した。


ジジが身体を捻る。


何かが頬を掠めた。


「……」


地面へ着地した男は、人間ではなかった。


獣の耳。

太い腕。

指先には長い爪。


「獣人か」


ダンテが剣を抜く。


「だから言っただろ」


「いたな」


「いたな、じゃねぇよ」


獣人が低く唸り、ジジへ飛びかかる。


速い。

人間よりもずっと。


ジジは横へ避けた。

爪が壁を削る。


「爪、長げぇな」


「感想言ってる場合か!」


近くに落ちていた槍を拾う。

獣人がもう一度踏み込む。


ジジは穂先を返した。


柄で腕を払い、足を引っかける。

巨体が床へ落ちる。


起き上がるより先に、

槍の柄が首元へ押しつけられた。


「まだやる?」


獣人が睨む。


「…………」


「やるなら立て」


しばらくして。

両手が床についた。


「・・・」


「そう」


ジジは槍を離した。

ダンテが額を押さえる。


「お前、その言い方やめろ」


「何で」


「腹立つ」


「俺に言われても」


守備隊員が獣人を拘束する。

ダンテはそこで初めて、ジジの顔を見た。


「おい」


「何」


「頬」


指で触れる。

薄く血がついた。


「ああ」


「傷ついてんじゃねぇか」


「これくらい平気だろ」


「だから剣持ってこいって言ったんだよ」


ジジは獣人の爪を見る。


「思ったより長かった」


「そういう問題じゃねぇ」


その奥の部屋から、守備隊員が声を上げた。


「ダンテ隊長!」


二人が振り返る。


「これを!」


差し出されたのは、一冊の帳面だった。


頁の中央。

何度も同じ名前が記されている。


医師。


その横に。

ルナリスの特徴と一致する記録。


ジジの顔から、僅かに表情が消えた。

ダンテも黙る。


「……見つけた」


ジジは帳面を受け取った。


═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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