殺意
翌日。
診療所にダンテが来た。
ルナリスの寝台の横にはジジとエレーンがいた。
「ジジ」
「ん」
「砦で捕まえた奴の中に、古株がいた」
「どこにいる」
「ラガードの詰所だ」
「行く」
即答だった。
「エレーン」
「分かっているわ」
「頼む」
そう言ってジジとダンテは
ラガードの詰所へ向かった。
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ラガード詰所の執務室に
ダンテが一人の男を連れてきた。
年は五十を越えている。
旧砦で捕まえた黒蛇の一人だった。
「こいつ、十二年前からあそこにいた」
ジジの目が男へ向く。
「ルナを知ってるか?」
男の肩が僅かに震えた。
「……白い髪の?」
「ああ」
「知ってる」
ジジが椅子へ座る。
「話せ」
短い。
それだけ。
「売らなかった」
男が言う。
「何で」
「上からの命令だ」
「誰」
「知らない」
「嘘だ」
「本当に知らねぇ!」
ジジは何もしていない。
ただ見ている。
男の額に汗が浮かぶ。
「白い髪の子は……特別だった」
「何が」
「傷が治る」
ジジの目が僅かに動いた。
「どのくらい」
「普通じゃない」
「何をした」
「俺は直接は――」
「何を、した」
男が口を閉じる。
ダンテが壁際から言った。
「答えろ」
「……怪我をしても」
男の声が震える。
「治った」
「だから?」
「だから……死なせるなって」
ジジが動かなくなる。
「どういう意味だ」
「傷ついても治るから……」
「何で傷つける」
「…………」
「聞いている」
空気が変わった。
北倉庫とは違った。
もっと重い。
ダンテが壁から身体を離す。
男の顔が青ざめる。
「し、知らない」
「何で目がない」
「…………」
「脚は」
「俺じゃない!」
男が叫んだ。
「俺がやったんじゃない!」
ジジが立ち上がる。
「誰がやった」
「処置をする奴がいた!」
「何のために」
「知らない!」
「名前」
「知らない!」
一歩。
ジジが近づく。
男の椅子が軋む。
「ジジ」
ダンテが呼ぶ。
返事がない。
「ジジ」
「…………」
「止まれ」
男の胸ぐらが掴まれた。
片手。
そのまま身体が椅子ごと浮く。
「ひっ……」
「ルナに何した」
「だから俺は――」
「十五年」
声は低かった。
「十五年だぞ」
男の足が床から離れる。
「ジジ!」
ダンテが腕を掴んだ。
動かない。
まるで岩だった。
「殺すな!」
「…………」
「こいつが死んだら、
その“処置した奴”に辿り着けなくなる!」
ジジの手が止まった。
「欲しいのは何だ?」
ダンテが言う。
「こいつの死体か?」
返事はない。
「ルナリスを治す方法か?」
長い沈黙。
ジジの指が緩んだ。
男が椅子へ落ちる。
激しく咳き込む。
ジジは一歩下がった。
「……続けろ」
ダンテが息を吐く。
「座れ」
「座ってる」
「お前だよ」
「いい」
「殺気しまえ。こいつ喋れなくなる」
「…………」
少しして。
空気が戻った。
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男の供述から。
いくつかのことが分かった。
ルナリスは長い間、売却対象から外されていた。
死なせることを禁じられていた。
傷の治りが異常に早かったこと。
普通の奴隷とは違う扱いを受けていたこと。
そして。
旧砦以外にも。
黒蛇と繋がる場所が残っていること。
ラガードの商人。
倉庫。
仲介人。
買い手。
帳簿には、まだ複数の名前がある。
「これで終わりじゃないな」
ダンテが言った。
ジジは机の上の紙を見る。
「全部捕まえる」
「そのつもりだ」
「一人も逃がすんじゃねぇ」
「ああ」
「売った奴も」
「ああ」
「買った奴も」
「調べる」
「全部」
ダンテがジジを見る。
「分かってる」
ジジは紙から目を離した。
「俺もやる」
「だろうな」
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夜。
ジジは診療所のルナリスの部屋へ戻った。
眠っている。
呼吸は静かだった。
椅子へ座る。
しばらく。
何もせず、その顔を見る。
「……ルナ」
返事はない。
眠っているから当然だった。
ジジは小さな手を取った。
「もう少し待ってて」
何を。
とは言わなかった。
治す方法を見つけることか。
黒蛇を全部潰すことか。
それとも。
十五年分を取り戻すことか。
ジジ自身にも。
まだ分からなかった。
ただ。
今度こそ。
逃がすつもりはなかった。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




