できないこと
ルナリスは、その日のうちにラガードへ運ばれた。
移動には担架を使った。
ジジが抱くと言ったが、医師に止められた。
「長時間は駄目です」
「俺なら落とさない」
「落とす心配をしてるんじゃありません」
「じゃあ何」
「身体への負担です」
「俺が抱いた方が揺れない」
「ジジ」
ダンテが肩を掴む。
「医者の言うこと聞け」
「…………」
「お前、治せるのか?」
ジジは黙った。
「なら任せろ」
「……分かった」
それ以上は言わなかった。
——————————————————————
ラガードの医師は、年配の男性だった。
長い時間をかけて、ルナリスの身体を診た。
ジジは一度も席を離れなかった。
「まず」
診察が終わる。
「命に関わる状態ではありません」
ジジの肩が少しだけ下がる。
「今すぐは?」
「ええ。ただし、かなり衰弱しています」
「治るか?」
医師が少し黙った。
「何が、と聞かなければなりません」
ジジは寝台を見る。
「全部」
「…………」
「脚も。目も。身体も」
医師は言葉を選んだ。
「脚の傷は古い。眼も同様です」
「だから?」
「通常なら、失ったものは戻りません」
ジジの顔から表情が消える。
「通常なら?」
「この子の身体には、分からないことが多すぎる」
医師は記録を見る。
「年齢は十八歳で間違いないんですね?」
「ああ」
「ですが、身体は五歳前後にしか見えない」
「何で?」
「分かりません」
「栄養足りなかったから?」
「それだけでは説明できない」
「じゃあ何」
「それも分かりません」
ジジが黙る。
今まで。
分からないと言われたら。
自分で調べた。
見つからなければ探した。
敵がいれば倒した。
道がなければ作った。
でも。
今は。
目の前にいる。
十五年探したルナリスが。
ようやくいる。
なのに。
何もできない。
「何をすればいい」
医師がジジを見る。
「今は休ませることです」
「それだけ?」
「食事を少しずつ。水分。睡眠。それから――」
「脚は?」
「今は」
「目は?」
「ジジ」
エレーンが低く呼ぶ。
ジジは止まった。
「先生を責めても仕方ないでしょう」
「責めてねぇよ」
「分かってる」
エレーンは隣へ立つ。
「でも、先生にも分からないのよ」
「……じゃあ誰なら分かる」
その声には。
怒りではなく。
困惑があった。
エレーンは初めて。
ジジが途方に暮れている顔を見た。
「探しましょう」
「…………」
「あなた一人で分からないなら、
分かる人を探せばいい」
「いるのか?」
「いるかどうかも含めて探すの」
ジジは寝台を見る。
眠っているルナリス。
「……ああ」
「今度は一人で探さなくていい」
ジジがエレーンを見る。
「私もいる」
少しの沈黙。
「……ああ」
——————————————————————
その夜。
ジジは寝台の脇の椅子に座っていた。
エレーンが入ってくる。
「まだ寝ないの?」
「眠くない」
「嘘ね」
「別に」
「目、赤いわよ」
「平気」
エレーンはため息をついた。
「十五年間待たせたから?」
ジジが黙る。
しばらくして。
「ああ」
「だから、もう一秒も離れたくない?」
「……そういうんじゃねぇ」
「じゃあ?」
ジジは眠っているルナリスを見る。
「また・・・いなくなったら嫌なんだ」
エレーンは何も言わなかった。
「寝て」
やがて言う。
「嫌だ」
「子どもみたいなこと言わないの」
「嫌なものは嫌だ」
「私がいるわ」
ジジが見る。
「何かあったら起こす」
「絶対?」
「ええ」
「すぐ?」
「すぐ」
「……分かった」
ようやく立ち上がる。
扉の前で振り返った。
「エレーン」
「何?」
「ありがとう」
ジジが部屋を出る。
エレーンは寝台を見る。
それから。
閉じた扉を見る。
六ヶ国で唯一のオリハルコン。
魔物も。
ダンジョンも。
人間の犯罪組織も。
この男を止められない。
けれど。
大切な人の身体を
治すことはできない。
「……難しいものね」
誰にともなく呟いた。
═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═
お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




