黒蛇を捕らえる
捕まえた男は、北倉庫の責任者だった。
名前はグレイグ——港の荷役商人。
裏では、黒蛇の
ラガード支部を管理していた。
翌朝。
守備隊の詰所で、
ダンテが押収した帳簿を机いっぱいに広げていた。
「想像以上だな」
エレーンが一冊を見る。
「何人いるの?」
「分からない。記録だけでも相当ある」
古いもの。
新しいもの。
名前のないもの。
番号だけのもの。
ジジは端に立ったまま、黙っている。
「昨日助けた七人は?」
「保護した。医者にも診せてる」
「そっか」
「それから」
ダンテが一枚の紙を取った。
「グレイグが吐いた」
ジジが顔を上げる。
「何を」
「北倉庫は中継だけだ」
「本拠地は?」
「昔の砦」
地図が広げられる。
ラガードからさらに北東。
街道から外れた丘陵地帯。
「二十年以上前に放棄された砦がある。
表向きは廃墟」
「中は?」
「地下が残ってるらしい」
ジジが地図を見る。
「何人いる」
「常駐は二十前後。入れ替わりもある」
「捕まってる奴は?」
ダンテが少し黙った。
「長期間置かれてる者がいる」
エレーンの表情が変わる。
「長期間?」
「ああ」
「どういう人?」
「売れない奴。売らない奴。それから――」
ダンテはジジを見る。
「特別扱いされてる奴」
ジジの指が地図の上で止まった。
「何」
「グレイグに、十五年前からいる者について聞いた」
部屋が静かになる。
「金髪のエルフの女を覚えてる」
エレーンが息を止めた。
「……シエラ?」
「名前までは知らない。
ただ、昔からいる金髪のエルフだ」
エレーンの手が震える。
「それと」
ダンテは続ける。
「白い髪」
ジジが動かなかった。
「何歳」
「分からない」
「女?」
「ああ」
「名前は」
「知らない」
ジジは目を閉じた。
ほんの一瞬だけ。
開く。
「行く」
「当然行く。ただし」
「何」
「俺たちも行く」
「別にいい」
「一人で先に突っ込むな」
「時間かかるだろ」
「だからだよ」
ジジが地図を見る。
「今からなら昼前に着く」
「守備隊を集める」
「俺先に――」
「駄目だ」
「何で」
「人数の問題じゃない」
ダンテが机を叩く。
「捕まってる奴が何人いるか分からないんだぞ。
お前一人で敵を全部寝かせても、その後どうする」
「…………」
「救助する人間が必要なんだよ」
ジジは黙った。
「分かった」
珍しくすぐ引いた。
ダンテが少し驚く。
「……素直だな」
「ルナがいるかもしんねぇだろ」
「ああ」
「なら失敗できねぇ」
それだけだった。
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砦へ向かう準備が始まった。
守備隊員が鎧を着ける。
盾。
槍。
弓。
治療道具。
担架。
その横で。
ジジだけがいつもの格好だった。
「お前」
ダンテが見る。
「何」
「本当に何も着ないな」
「昨日言っただろ」
「今日は数が多いぞ」
「人間が増えただけだろ」
「……もういい」
エレーンはジジを見る。
「あなた、魔物の時は?」
「着る時もある」
「何を基準にしてるの?」
「当たったら危ないかどうか」
「人間の武器は?」
「当たらない」
即答だった。
ダンテが遠くを見る。
「腹立つなあ……」
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砦へ着いたのは、昼前だった。
崩れた石壁。
草に埋もれた門。
外から見れば、本当に廃墟だった。
だが。
足跡がある。
新しい轍。
煙の跡。
「いるな」
ダンテが合図を出す。
守備隊が左右へ分かれた。
「ジジ」
「ああ」
「殺すな」
「分かってる」
「今日は特にだ」
「分かってるって」
ジジが門へ向かう。
見張りが気づいた。
「誰だ!」
弓が上がる。
矢が放たれた。
ジジは首を傾けただけだった。
矢が後ろへ飛んでいく。
「…………」
見張りが固まる。
次の矢。
今度は手で掴んだ。
「え」
見張りの声。
ジジは矢を見る。
地面へ捨てた。
「開けろ」
「な、何を――」
「武器捨てろ」
その時。
奥から数人が走ってきた。
「侵入者!」
剣。
槍。
斧。
ジジはため息を吐いた。
守備隊が砦へ入った時。
門の周囲には、既に十二人が転がっていた。
「……早ぇよ」
ダンテが呟く。
「こっちの仕事残せ」
「地下探せよ」
「そういう意味じゃない」
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地下への入口は、砦の奥にあった。
鉄扉。
錠。
ジジが手を掛ける。
「鍵探すぞ」
ダンテが言う。
「いらない」
「おい」
鈍い音がした。
錠のついた部分ごと、扉が歪んだ。
「…………」
「開いた」
「見りゃ分かる」
地下から。
湿った空気が流れてくる。
そして。
人の匂い。
薬。
血。
ジジの顔から、完全に表情が消えた。
「行く」
今度は。
誰も止めなかった。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




