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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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第四中継所

翌朝。


ジジたちは守備隊の馬車で南道を進んでいた。

昨日のうちに周辺の確認は済んでいる。


旧第四中継所は長く放置され、人の出入りもない。

建物は一部崩れているものの、

内部へ入ることはできるらしい。


「思っていたより普通の場所ね」


馬車の窓から外を見ながら、エレーンが言った。

街道沿いには畑が広がり、

遠くに小さな集落も見える。


「ああ」


「もっと人目につかないところに

 あるのかと思ってたわ」


「中継所だからな」


向かいに座るダンテが答える。


「昔はここ通る荷馬車の休憩所だったんだ。

 隠れてたわけじゃねぇ」


「堂々と使っていたってこと?」


「ベルグ商会が本当に黒蛇ならな」


エレーンは窓の外へ視線を戻した。

人の目があるから安全とは限らない。

中身まで確認しなければ。


「ジジ」


「ん」


「静かね」


「そう?」


「さっきからずっと外見てるでしょう」


「道覚えてる」


「帰り道?」


「いや」


ジジは街道の分岐へ視線を向けた。


「馬車がどっから入れるか」


ダンテが呆れたように言う。


「着く前から逃走経路探すな」


「逃げねぇよ」


「——“相手が”、だ」


「ああ」


「……お前、今絶対俺が逃げる話だと思っただろ」


「思った」


エレーンが小さく笑った。


「あなたが逃げる姿はあまり想像できないわね」


「走るけど」


「そういう意味ではないの」


第四中継所は、街道から少し外れた林の中にあった。


二階建ての古い建物。

隣には大きな厩舎が残っている。

窓は割れ、屋根の一部は落ちていた。


「ここね」


「ああ」


ダンテが馬車を降りる。


「隊員が二人、中だけ先に見てる。

 崩れそうな場所には印つけてあるから入るなよ」


最後の言葉を言いながら、ジジを見る。


「何で俺見るんだよ」


「念のため」


「入らねぇよ」


「いつかも似たようなこと言ったな」


エレーンが続ける。


「今日は信じてあげましょう」


「今日“は”って何だ」


「行きましょう」


「無視すんな」


建物の中には、昔の中継所らしい名残が残っていた。


受付。

小さな食堂。

二階には宿泊用の部屋。


どれも長い年月で荒れている。


「普通の宿みたいね」


エレーンが廊下を見回す。


「実際、似たようなもんだ」


ダンテが答える。


「荷馬車の御者が寝泊まりする場所でもあった」


ジジは壁や床を見ながら歩いている。


「何かある?」


「別に」


「じゃあ何を見てるの?」


「分かんねぇから見てる」


「……そういうもの?」


「そういうもん」


エレーンにはよく分からなかった。

だが、ジジはこういう時だけ妙に細かい。

普段なら気にも留めなさそうな傷や、

床板の色の違いまで確認している。


二階まで見たが、それらしいものはなかった。


「外か?」


ジジが言う。


「厩舎を見る」


ダンテが頷いた。


厩舎は建物より広かった。

何十頭もの馬を繋げられる造りになっている。


古い飼葉桶。

朽ちた柵。

壊れた馬車の車輪。


ジジが中央で足を止めた。


「……変だな」


「何が?」


エレーンが近づく。


「床」


「床?」


地面には石が敷き詰められている。

一見、何もおかしくない。


ジジが一箇所を靴の先で軽く叩く。


鈍い音。


少し離れた場所を叩く。

今度は違う音がした。


「下、空いてる」


ダンテもしゃがみ込む。


「地下か?」


「たぶん」


「昨日の隊員は気づかなかったぞ」


「普通に歩くだけじゃ分かんねぇだろ」


エレーンが床を見る。


「入口は?」


三人で周囲を探す。


やがて、厩舎の一番奥。

崩れた飼葉桶の下から、鉄の取っ手が見つかった。


「……ずいぶん分かりやすい場所に隠したわね」


「飼葉桶が元々固定されてたなら見えねぇよ」


ジジが答える。


「なるほど」


ダンテが隊員を呼び、周囲の石を外していく。


古い木製の扉が現れた。


「開けるぞ」


ダンテが取っ手を引く。

―動かない。


「錆びてるな」


もう一度引く。

―やはり動かない。


ジジが手を出した。


「貸せ」


「壊すなよ」


「開けるだけだ」


取っ手を握る。


少し力を入れた瞬間。

鈍い音と共に、扉が持ち上がった。


「…………」


ダンテが見下ろす。


「お前、“開ける”と“力ずく”の境界どこなんだ?」


「開いたからいいだろ」


エレーンが扉を見る。


「壊れてはいないわね」


「だろ」


「得意そうな顔しないで」


「してねぇ」


地下は狭かった。

階段を降りると、細長い空間が続いている。


壁に窓はない。

空気は湿っていた。

灯りが奥を照らす。


エレーンの表情が消えた。


「……また」


壁際。


錆びた鉄輪が並んでいた。

採石場で見たものと同じ。


「ここも使ってたな」


ダンテの声が低くなる。


ジジは何も言わず奥へ進む。

床には壊れた木箱や革紐が残っていた。


そして一番奥。


小さな机の下から、薄い板が見つかった。


「何かある」


ジジが拾い上げる。

木製の札だった。


表面には蛇。


「また黒蛇ね」


「ああ」


裏には数字が刻まれている。


四。

その下に、七。


「四と七?」


エレーンが首を傾げる。

ダンテが札を受け取る。


「中継所の番号なら……」


「第四から第七?」


「可能性はある」


ジジがすぐに言う。


「第七はどこだ」


「待て。場所は覚えてねぇ」


「記録あんだろ」


「あるはずだ」


エレーンが札を見つめる。


「でも、昨日の帳面では二十三番が

 第四へ移された可能性があるのよね」


「ああ」


「ここから次へ送ったなら……」


「七」


ジジが答えた。

ダンテは黙って札を見た。


「かなり筋は通るな」


さらに床を調べると、

壁際の隙間から紙片が一枚見つかった。


ほとんど腐っている。

残っている部分は僅かだった。


文書管理官が慎重に広げる。


「数字がある」


二十三。


エレーンの呼吸が一瞬止まる。


「その横は?」


「……四」


その先。

紙が裂けている。


けれど最後の方に、もう一つ数字が残っていた。


「七だ」


ジジが言った。

エレーンは何も言わなかった。


二十三。


四。


七。


偶然で片づけるには、揃いすぎている。


「シエラかもしれない二十三番は」


エレーンがゆっくり言う。


「ここを通って、第七中継所へ移された?」


「そう考えるのが一番自然だ」


ダンテが答える。

ジジはもう階段の方を見ていた。


「戻るぞ」


「珍しいわね」


「何が」


「今すぐ第七へ行くって言わないの?」


「場所分かんねぇし」


「……成長したわね」


「お前までダンテみたいなこと言うな」


エレーンは少し笑った。


「褒めているのよ」


「最近その言葉信用できねぇ」


地上へ戻る。


外の光が眩しかった。

ダンテはすぐに隊員へ指示を出し、

第七中継所の記録を探させることにした。

エレーンは厩舎を振り返る。


倉庫。

採石場。

第四中継所。

そして、第七。


昨日まで曖昧だった道が、

今ははっきり一本に繋がり始めている。


「ジジ」


「ん」


「やっと追いかけてる感じがするわね」


「ああ」


「今までは、ずっと探してるだけだったもの」


ジジが少しだけ考える。


「そうだな」


エレーンは前を見る。


「次も残ってるといいわね」


「ああ」


しばらくして、ジジが付け加えた。


「残ってなくても探すけどな」


エレーンは横を見る。


「知ってるわ」


今度は、迷わずそう答えた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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