家族みたいなもの
森の家へ戻った頃には、
外はすっかり暗くなっていた。
夕食を終えたあとも
ジジは食卓で守備隊から借りた記録を読んでいる。
エレーンは深緑のカップに
ローズヒップティーを注ぎ、向かいへ座った。
「珍しいわね」
「何が」
「自分から書類を読んでる」
「読めと言われた」
紙をめくる音が続く。
エレーンはカップに口をつけた。
———黒蛇。
今日聞いたその名前が、まだ頭に残っている。
「ねえ」
「ん」
「ルナのこと、少し聞いてもいい?」
ジジの手が止まった。
「ああ」
「どんな子だったの」
「よく動く」
「……それだけ?」
「何でも触るし、何でも口に入れる」
「ずいぶん小さい子なのね」
「最後に見た時は三歳」
エレーンが目を瞬いた。
「三歳……」
「ああ。十五年前」
思っていたより、ずっと幼かった。
「——名前はルナリス。ルナって呼ぶのは俺だけ」
「そう」
ジジはまた紙へ目を落とした。
「いなくなった時、黒い蛇の紋章を見た」
「それが黒蛇?」
「その時は知らなかった。
冒険者になってから分かった」
紙が一枚めくられる。
「いろんな国へ行ったから。討伐とか護衛とか」
「そのついでに調べていたのね」
「ああ。人攫いの連中に当たることもあった」
「……まさか」
「見つけたら潰してた」
「やっぱり」
エレーンは小さく息を吐いた。
「ダンテと一緒だった頃も結構あった」
「ダンテも昔は冒険者だったのね」
「ああ。よく共闘してた時期もある」
各地で似た印を追ううちに、
黒い蛇が組織の紋章だと
分かったのだろう。
「それからは目撃情報があったら行った。
拠点も何個か潰した」
「——でも・・・」
ジジは一枚、紙をめくる。
「ルナはいなかった」
エレーンは黙った。
「ダンテが守備隊に入ってからも、
記録見せてもらってた」
「転属先でも?」
「ああ」
「ずいぶん付き合ってくれたのね」
「文句は多かったけどな」
「それでも手伝ってくれたのでしょう」
「ああ」
ジジはまた記録へ目を戻した。
「そうしてるうちに十五年経ってた」
エレーンはしばらく、その横顔を見た。
本当に、“気づいたら十五年だった——”
そんな言い方だった。
「ノーカルミアに戻ってきたのは?」
「一回、最初から調べ直そうと思った」
「ルナリスがいなくなった場所ってこと?」
「ああ。
ここなら十五年前の記録も残ってると思って」
エレーンは手元のカップを包む。
「……よく、そんなに長い間探し続けたわね」
ジジが顔を上げた。
少し不思議そうに首を傾げる。
「家族みたいなもんだから」
「……そう」
それ以上は聞かなかった。
しばらくして、エレーンは赤い茶へ目を落とした。
「あなた、本当によくローズヒップを飲むわね」
「ああ」
「これもルナリスと関係があるのね」
ジジの手が一瞬だけ止まる。
「ああ」
少し間を置いて言った。
「ルナがいなくなった日から飲んでる」
「……そう」
ジジは何も続けなかった。
エレーンも聞かなかった。
「ジジ」
「何」
「見つかるといいわね」
「ああ」
紙をめくる音が、また静かな部屋に戻った。
═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═
お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




