答えのない夜
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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夜はとっくに深くなっていた。
三人で寝台に入ってから随分経つ。
ルナリスはもう眠っていた。
ジジも目を閉じている。
けれどガイアだけは、何度寝返りを打っても眠れなかった。
仰向けになる。
天井を見る。
目を閉じる。
また開く。
「…………」
隣で、ジジが僅かに動いた。
「......どした?」
小さな声だった。
ガイアが顔を向ける。
「悪ぃ、起こした?」
「大丈夫」
少し間が空く。
「寝れねぇ?」
「ああ。なんか寝れねぇ」
ジジはしばらくガイアを見ていた。
「茶飲む?」
「……飲む」
二人はルナリスを起こさないよう、静かに寝台を抜けた。
居間へ移る。
ジジが湯を沸かし、二人分の茶を淹れる。
ガイアは卓の前に座り、ぼんやりと湯気を見ていた。
「ん」
「ありがと」
カップを受け取る。
しばらく、二人とも何も言わなかった。
先に口を開いたのはジジだった。
「今日」
「ん?」
「レグラスんとこ、どうだった」
ガイアが少しだけ目を上げる。
「気になってた?」
「まあ」
ジジは茶を一口飲む。
「エルフ同士の話だし、あんま聞かねぇ方がいいかと思ってたけど」
「…………」
「やっぱちょっと気になる」
ガイアは小さく笑った。
「ちょっとかよ」
「ちょっと」
「嘘つけ」
「うるせぇ」
ガイアはカップを両手で持ったまま、少し考えた。
「……何かさ」
「うん」
「よく分かんなくなった」
ジジが黙って続きを待つ。
「レグラスに、昨日にお前から聞いたこと聞いたんだよ」
「島そのものが外を閉ざしてるってやつ?」
「ああ」
ガイアは頷く。
「何でそう思ったのかって」
少しずつ言葉を探す。
「俺が、入れるか決めるのは島そのものだって話しただろ」
「ああ」
「それ聞いて、レグラスは辿り着けないってのもラハシェルが
隠してるだけじゃないんじゃないかって思ったらしい」
ジジも聞かなかった。
ガイアは茶へ目を落とした。
「それでさ」
「ん」
「俺、ずっとヴァレイアは外を拒んでるんだと思ってた」
「…………」
「だから島のことは何も話さない。それが普通だと思ってた」
少し間を置く。
「でも、お前入れたじゃん」
ジジが瞬く。
「俺?」
「ああ」
「人間だし、精霊と契約もしてねぇ」
「そうだな」
「それでも島はお前を入れた」
ガイアは眉を寄せた。
「だったら、別に外を全部拒んでるわけじゃねぇんだよな」
「……まあ、そうなるな」
「だから余計分かんなくなった」
ガイアはカップを卓へ置いた。
「ヴァレイアのことって、どこまで隠す必要あんだろうな」
ジジは何も言わない。
「場所とか、入り方とかは別だぞ」
「ああ」
「そういうのは俺が勝手に話せることじゃない」
「うん」
「でもさ」
ガイアが少し考える。
「島にどんな祭りがあるとか、どんな暮らししてるとか」
「そういうの?」
「ああ」
「話したって別に、誰もヴァレイアに来れねぇだろ」
ジジが少しだけ頷く。
「そうだな」
「なのに俺、今までそれすら話しちゃいけないと思ってた」
ガイアは少し黙った。
「……何でなんだろうな」
ジジはすぐには答えなかった。
「大月の時、聞く?」
「ああ」
「親父さんとお母さんに?」
「それと五島の長」
ガイアは茶を一口飲む。
「俺一人で決められることじゃねぇし」
「そうだな」
「昔からそうしてきた理由があるなら、ちゃんと知りたい」
少しして、ガイアがまた口を開いた。
「あと」
「ん」
「レジーナ」
ジジが顔を上げる。
「レジーナ?」
「あいつ、イル=ネアだったんじゃねぇかなって話になった」
ジジの表情が少し変わる。
「レグラスと?」
「ああ」
ガイアは頷く。
「大陸には確かにイル=ネアって言葉はねぇじゃん」
「精霊の守護神、だよな」
「そう」
少し間を置く。
「親父が昔見たって言ってただろ。ヴァレイアの精霊の方から寄ってったって」
「ああ」
「やっぱ似てる」
ガイアは自分の指先を見る。
「俺と母さんに」
ジジがしばらく黙る。
「じゃあ、大陸にもイル=ネアみたいなのがいたってこと?」
「かもしんねぇ」
「…………」
「まだ分かんねぇけどな」
ジジは茶を飲みながら少し考えていた。
「でも」
「何」
「大陸でそういう力持ってる奴って、狙われるんだろ」
ガイアがジジを見る。
「レジーナみたいに」
「ああ」
「じゃあ、お前も」
ガイアは一瞬黙った。
「……俺は」
視線を落とす。
「島出た時、捨てたつもりだったから」
「......」
「ガレイヴィアも。次代も。イル=ネアも」
ガイアは淡々と言った。
「大陸じゃ出してねぇ」
ジジが少し考える。
「確かに」
「何が」
「潮迎えの時みたいなの、お前今まで一回もやったことねぇもんな」
ガイアの眉が僅かに上がる。
「……まあな」
「あんなんできるって知らなかった」
「言ってねぇし」
ジジがガイアを見る。
「俺が知ってんのって風と波の精霊使う、ただの強ぇ褐色エルフだった」
ガイアが数秒黙る。
「……ただの?」
「ただの」
「ミスリルだぞ」
「強ぇっつっただろ」
「褒め方雑すぎんだよ」
ジジが少し笑う。
ガイアも僅かに笑った。
けれど、すぐにカップへ視線を戻した。
「それで普通に生きてこれたんだよな」
「…………」
ジジは何も言わない。
「でも、レジーナは隠せなかった」
少し間が空く。
「……何か、よく分かんねぇ」
ジジは黙ってガイアを見ていた。
「レグラスは、大陸側で考えるって」
「何を」
「力持ってる奴が、隠さなくても生きられるようにするにはどうすればいいか」
「ん」
「俺はヴァレイア側で考える」
ガイアはカップを持ち直した。
「なんでイル=ネアを隠してきたのか。なんで島のことまで全部隠すようになったのか」
「うん」
「それで、アグラディアにも話聞いてみようと思ってる」
「アグラディア?」
「ああ。古い祭祀とか精霊のことなら、レグラスより詳しいって」
ジジは少し黙った。
「いつ行く?」
「まだ決めてねぇ」
「そっか」
ガイアが茶を口へ運ぼうとした時だった。
ジジが椅子から立ち上がった。
「何」
答えずにガイアの横へ来る。
そのまま肩へ腕を回され、引き寄せられた。
「……何してんの?」
「…………」
「ジジ?」
少し強く抱かれる。
やがて、頭の上から小さな声が落ちた。
「……大丈夫?」
ガイアは目を瞬いた。
「…………」
ジジはそれ以上、何も言わなかった。
「……大丈夫」
ジジの背へ腕を回す。
「まだ何も分かってねぇだけ」
「うん」
「別に、今すぐどうこうするつもねぇし」
「うん」
「大月の時に島でも聞く」
「分かった」
少しだけ腕の力が緩む。
ガイアはそのままジジの胸元へ頬を寄せた。
こいつなりに心配しているのだろう。
そう思うと、素直に嬉しかった。
しばらくして、ジジが言った。
「アグラディアんとこ」
「ん?」
「俺も行く」
ガイアが顔を上げる。
「お前も?」
「うん」
「…………」
「駄目?」
ガイアは少しだけ笑った。
「いや」
もう一度、ジジへ身体を預ける。
「じゃあ、一緒に行こ」
「うん」
短い返事だった。
それで十分だった。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




