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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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206/216

向き合うもの

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

翌朝。

朝食を終えると、三人はそれぞれ支度を始めた。


ジジはギルドへ。

ルナリスは児童所へ。


「ガイアは?」


ルナリスが振り返る。


「今日は留守番」


「お休み?」


「まあ、そんなとこ」


「そっか」


ルナリスはそれ以上気にせず、ジジの手を取った。


「行ってきます!」


「ん。行ってらっしゃい」


「行ってくる」


「ああ」


ジジとルナリスが家を出る。

扉が閉まった。

急に、家の中が静かになった。


「…………」


ガイアはしばらく、その場に立っていた。

それから居間へ戻る。

窓辺で、貝殻が小さく鳴った。


ヴァレイアから持ち帰った風鈴。

部屋には、あの島から持ち帰ったものが増えている。


寝具も。

食器も。

ルナリスと揃いの髪飾りも。


けれど今朝は、妙に目についた。

ガイアは自分のカップを手に取った。


――家が少し、ヴァレイアになるかな。


あの日、ジジが言った言葉を思い出す。


「…………」


昨夜から考えていることも、まだ頭に残っていた。

何を守るべきなのか。

何を隠すべきなのか。

そもそも、その二つは同じなのか。

考えても、答えは出ない。


——————————————————————


児童所までルナリスを送り届けてから、ジジはギルドへ向かった。

久し振りに扉を開ける。

受付にいたマーサが、すぐに顔を上げた。


「あ」


目が合う。


「おかえり、ジジ」


「ただいま」


奥からバルトも顔を出した。


「おう」


ジジを見るなり、にやりと笑う。


「長かったな」


「留守にして悪かった」


「別に謝れとは言ってねぇよ」


バルトが近づいてくる。


「ルナリスは?」


「元気。今、児童所に送ってきた」


「そうか」


マーサも安心したように笑った。


「よかった」


二人には、船でしばらく遠出をすることだけ伝えていた。

それ以上のことは話していない。

ジジも、何も付け加えなかった。


「で」


バルトが腕を組む。


「今日はどうすんだ」


「午後から鍛錬所戻る」


「もう働くのか?」


「別に疲れてねぇし」


「七日も船乗って帰ってきたばっかだろ」


「昨日休んだ」


「一日じゃねぇか」


「十分だろ」


バルトが呆れた顔をする。

マーサが小さく笑った。


「ジジらしいわね」


「何が」


「何でもないわ」


ジジは首を傾げる。


「とりあえず、溜まってることある?」


「あるぞ」


「じゃあやる」


「お前なぁ」


そう言いながら、バルトは笑っていた。

久し振りのギルド。

いつもの声。

いつもの匂い。

何も変わっていない。

ジジはそのまま、しばらく留守にしていた間の話を聞き始めた。


——————————————————————


同じ頃。


ガイアは家でヴァレイアの正装に着替えていた。

鏡を見ながらルナとお揃いの髪飾りをつけてた。


「......よし」


そして玄関へ向かい――

足を止めた。


「…………」


歩いていけばいい。

ルシーダ家まで、それほど遠いわけでもない。

なのに。

頭に浮かんだのは、ファルコを呼ぶことだった。


前にレグラスのもとへこの姿で行った時も、街は歩かなかった。

人に見られたくなかったから。


「……何でだろうな」


ヴァレイアに戻るまで、考えもしなかった。


ガイアではない名前へ繋がるものを。

ヴァレイアへ繋がるものを。

外から見えないようにすることを、当たり前だと思っていた。


ガイアは自分の装束を見下ろす。


「…………」


今日はまだ。

街を歩く気にはなれなかった。

けれど。

なぜ歩けないのかを、初めて考えた。

ガイアは外へ出て、運河の少し先にある開けたところでファルコを呼んだ。


しばらくして、空から大きな影が落ちた。

翼が風を巻き起こす。


「頼む」


ガイアはその背へ乗った。

巨大な翼が広がる。

一度。

強く羽ばたいた。


——————————————————————


午後。

ルシーダ家に、大きな影が差した。

レグラスが窓の外を見る。


庭へ降りてくる巨大な翼。

そして、その背から降りた男を見た瞬間。

レグラスの表情が変わった。


ヴァレイアの正装。


「…………」


約束はしていた。

午後に来ると。

二人で話したいとも聞いている。

だが。

この姿で来るとは聞いていなかった。


レグラスは立ち上がった。

自ら玄関へ向かう。

扉を開ける。

そこに立っていた男を見て、僅かに目を細めた。


「……ガレイヴィア様」


ガイアはその呼び方を止めなかった。

昨日なら必要のなかったもの。

だが今日は、自分からこの装束を選んでここへ来た。


「ああ」


レグラスは一歩退いた。

姿勢を正す。


「お待ちしておりました」


そして静かに頭を下げた。


「どうぞ」


ガイアはその礼を受ける。


「邪魔する」


屋敷へ入った。

案内された部屋で、二人が向かい合う。

昨日と同じ屋敷。

昨日と同じ二人。

けれど、空気は違っていた。


レグラスが口を開く。


「本日は、どのようなお話でしょうか」


ガイアは少し黙った。

昨日から考えていたこと。

その前から抱えていること。

五島の長たちに問われた、ヴァレイアのこれから。

次代のこと。

そして。

自分が百二十年間、一度も疑わなかったこと。


「ヴァレイアのことだ」


「私と、ですか」


「ああ」


レグラスはガイアを見つめた。


姿は、以前ここを正式に訪れた時と同じだった。


ヴァレイアの正装。

隙のない所作。

ラハシェル族の次代として身につけたであろう立ち居振る舞い。


けれど。


少し間を置いて。

ガイアが言う。


「お前の考えを聞きたい。レグラス」


レグラスは一瞬だけ黙った。


「……少々、対応に困りますね」


ガイアが眉を上げる。


「何が」


「そのお姿で、私を『お前』と呼ばれるので」


「…………」


ガイアは自分の装束へ視線を落とした。


「……俺も分かってない」


レグラスの目が僅かに動く。


「そうですか」


「ああ」


短く答えてから、ガイアは椅子へ深く座り直した。


所作そのものは崩れない。


それを見て、レグラスの口元がほんの僅かに緩んだ。


「では、ガレイヴィア様とお呼びします」


「好きにしろ」


「承知しました」

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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