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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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204/216

お土産話

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

翌日。

ルシーダ家の扉が開くと、ルナリスは真っ先に中へ駆け込んだ。


「おじさん! アグラディア!」


二人の姿を見つける。


「ただいま!」


「おかえり、ルナリス」


アグラディアが笑った。

レグラスも、駆けてきたルナリスを見て僅かに表情を緩める。


「ああ。おかえり」


その後ろから、ジジとガイアも入ってきた。


「ただいま」


ジジが言う。


「昨日着いた」


「ああ」


レグラスは三人の姿を順に見た。


「無事で何よりだ」


「うん!」


ルナリスが元気よく答える。

レグラスはそんなルナリスをしばらく見てから、尋ねた。


「楽しかったか」


「すっごく楽しかった!」


返事はすぐだった。


「ルナ、ヴァレイア大好き!」


「そうか」


それだけだった。

けれど、レグラスの表情が僅かに緩んだ。

アグラディアも、ほっとしたように笑う。


「よかった」


ガイアが二人を見る。


「……心配してた?」


「していた」


レグラスが答えた。


「お前が連れていくとはいえ、二人が受け入れられるかは分からなかったからな」


「ああ」


ガイアもそれは否定しなかった。


「二人とも、ちゃんと受け入れてもらえたよ」


レグラスの視線がジジへ向く。


「ジジもか」


「ん」


「そうか」


短い返事とともに、レグラスが息を吐いた。

アグラディアも頷く。


「本当によかった」


ルナリスが二人の顔を交互に見る。


「そんなに心配してたの?」


「してたよ」


アグラディアが答えた。


「ルナリスもジジも、初めて行く場所だったからね」


「でも、すっごく楽しかったよ!」


「うん。見れば分かる」


「なんで?」


「顔」


「顔?」


ルナリスが自分の頬を両手で触る。


「どんな顔?」


「すごく楽しそうな顔」


ルナリスは一度瞬きをしてから、にっこり笑った。


「楽しかったもん!」


アグラディアも笑う。

その様子を、レグラスは静かに見ていた。

無事に帰ってきた。

二人とも島に受け入れられた。

そして何より、ルナリスがこんな顔で帰ってきた。

それで十分だった。


——————————————————————


卓につくと、ルナリスのおみやげ話が始まった。


「あのね、お花いっぱい咲いたの!」


アグラディアがルナリスを見る。


「ヴァレイアで?」


「うん!」


「ルナが嬉しくなったら、いっぱい咲いた!」


その言葉に、アグラディアの表情が少しだけ変わった。


「身体は大丈夫だった?」


「うん!」


「具合が悪くなったりは?」


「ならなかったよ」


ジジも頷く。


「帰りもずっと元気だった」


「そっか」


アグラディアは安心したように息を吐いた。

それから、もう一度ルナリスを見る。


「花が咲いた時は?」


「ん?」


「止めた?」


「止めてないよ」


ルナリスは不思議そうに答えた。


「咲いてていい場所だもんね」


「うん! みんな変な顔しなかったよ!」


「よかったね、ルナリス」


「うん!」


レグラスも何も言わなかった。

ただ、嬉しそうに話すルナリスを見ていた。

その顔を見れば、ガイアがルナリスをヴァレイアへ連れていきたかった理由は分かった。

ルナリスは、咲いてしまった花のことを気にしていない。

ただ、綺麗だったと笑っている。


「あのね、三月後にまた行くの!」


「もう決まってるの?」


アグラディアが聞く。


「うん! お月さまがすっごく大きく見える日があるんだって!」


「それを見に行くのか」


レグラスが尋ねる。


「うん! イシルが教えてくれたの!」


「楽しみだね」


「うん!」


話したいことは、まだまだあるらしい。

ルナリスは次から次へと言葉を続けた。

ガイアとジジは、その隣で時折口を挟みながら聞いている。

そして。


「それでね、ガイアが海のところで、すっごく綺麗な服着て――」


「ルナ」


ガイアが止めた。


「なに?」


「それは内緒」


ルナリスが瞬きをする。


「……だめなの?」


「内緒」


「わかった」


素直に頷く。

少し考えてから、ルナリスは別の話を始めた。

ガイアはその横顔を見ながら、茶を一口飲んだ。

今までなら、それで終わっていた。

けれど。


――どこまで隠す必要、あんだろうな。


「…………」


「ガイア?」


ジジの声に顔を上げる。


「ん?」


「何ぼーっとしてんの」


「……ちょっと考え事」


「そ」


ジジはそれ以上聞かなかった。

ルナリスの話はまだ続いている。

レグラスもアグラディアも、それを聞いている。

楽しそうに。

嬉しそうに。

ヴァレイアであったことを話しているだけだった。


ガイアはもう一度、茶を口へ運んだ。


——————————————————————


気づけば、窓の外では陽が傾き始めていた。


「じゃあ、また明日児童所でね」


アグラディアが言う。


「うん!」


ルナリスが元気よく返事をする。

明日からは、またいつもの生活が始まる。

ルナリスも、これまで通りアグラディアのもとで学んでいく。


「おじさん、また明日!」


「ああ。また明日」


「アグラディアも!」


「待ってるよ」


ルナリスは先に扉へ向かった。


「ジジ、帰ろ!」


「走んなよ」


ジジもその後を追う。

ガイアも立ち上がった。


「じゃあな」


「ああ」


扉へ向かいかけて。

ガイアは足を止めた。


「レグラス」


「何だ」


振り返る。


「明日、時間ある?」


レグラスが僅かに眉を動かした。


「午後なら空いている」


「じゃあ、その頃また来る」


「ルナリスと一緒にか?」


「いや」


ガイアは首を振った。


「俺だけ」


レグラスはガイアを見る。


「……分かった」


「ああ」


それ以上は何も言わなかった。

ガイアは外へ出る。

少し先で、ルナリスとジジが待っていた。


「ガイア遅い!」


「悪い」


「何話してたの?」


ジジが聞く。


「明日、レグラスんとこ行くって話」


「一人で?」


「ああ」


「そっか」


ジジはそれ以上聞かなかった。

三人で歩き出す。

夕方のバインスに、いつもの風が吹いていた。


ガイアは銀髪を揺らす風の中で、さっき浮かんだ疑問をもう一度思い出した。


――どこまで隠す必要、あんだろうな。


答えは、まだなかった。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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