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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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200/216

また来る

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

翌日。

午後の風は穏やかだった。

屋敷から少し離れた草地に、ルナリスの笑い声が響いている。


「待って、待ってー!」


小さな身体が花の間を走っていく。

その周りを、いくつもの小さな光が飛んでいた。


風に乗って逃げるもの。

花の間へ隠れるもの。

ルナリスの頭上をくるくると回るもの。

追いつこうとルナリスが手を伸ばす。


「あっ」


その瞬間。

足元から、一斉に花が咲いた。


白。

黄色。

淡い青。


何もなかった草の間から、小さな花が次々と顔を出していく。

ルナリスが立ち止まった。


「わあ……!」


嬉しそうにしゃがみ込む。

花に触れようと伸ばした指先へ、光が一つ降りてきた。


「ふふ」


ルナリスが笑う。

その周囲でも、また花が開いた。

少し離れた場所で、ガイアはその様子を眺めていた。


「……すげぇな」


隣にいたジジが言う。


「な」


「また増えた」


「増えたな」


二人の前にも、一輪。

小さな花が咲いた。

ジジがそれを見る。


「これ、どこまでいくんだろ」


「知らね」


ガイアが笑った。

止める者はいない。


少し離れた道を歩いていた島民が、咲いた花を見て笑っている。

その向こうでは、子供たちが精霊を追いかけていた。


誰も驚かない。

誰もルナリスを見て立ち止まらない。


花が咲いたことも。

精霊が集まっていることも。

ここでは、それほど特別なことではなかった。


「ルナ」


ガイアが呼ぶ。


「なあに?」


ルナリスが振り返った。

白い髪の周りを、いくつもの光が飛んでいる。


「楽しい?」


「すっごく楽しい!」


間髪入れずに返ってきた。

そして、満面の笑みを浮かべる。


「ルナ、ヴァレイア大好き!」


「そっか」


ガイアも笑った。

それだけでよかった。


花が咲いても。

精霊が集まっても。

嬉しそうに笑っている。


「ガイア!」


ルナリスが走ってくる。


「見て!」


両手の中に、小さな光を抱えていた。


「掴むなよ」


「掴んでないよ!」


「じゃあ何してんの」


「一緒に来たの!」


「どこから」


「向こう!」


分からない。

ガイアが笑う。


「そっか」


「うん!」


ルナリスはそのままジジのところへ走っていった。


「ジジも見て!」


「見えてる」


「かわいいでしょ?」


「うん」


ジジがしゃがみ込む。

ルナリスの手元を覗き込む横顔を見ながら、ガイアはもう一度、島を見渡した。


風が吹いている。

花が揺れている。

精霊たちが遊んでいる。

昔から何も変わらない。

けれど。


ここへ戻ってきた意味は、確かにあった。


——————————————————————


夕方。

屋敷へ戻ると、ギルムは居間にいた。

窓際の椅子に腰を下ろし、何かに目を通している。


「親父」


「ん?」


ギルムが顔を上げた。

ガイアは少し迷ってから、その向かいへ座った。


「この前の話なんだけど」


それだけで通じたらしい。

ギルムが手にしていたものを置く。


「次代の話か」


「ああ」


少しの沈黙。

ガイアは膝の上で手を組んだ。


「……もう少し、考える」


ギルムは黙って息子を見る。


「今すぐ答え出せって言われても、無理だ」


「ああ」


「でも」


ガイアは一度、視線を落とした。

それから、父親を見る。


「逃げるつもりはねぇよ」


ギルムの目が僅かに細くなった。


「ここからも。次代のことからも」


「……そうか」


「ただ、ちゃんと考えたい」


ここも。

ジジも。

ルナリスも。

全部、自分にとって大切なものになってしまったから。


「分かった」


ギルムはそれだけ言った。

ガイアが眉を上げる。


「……それだけ?」


「他に何がある」


「いや」


もっと何か言われると思っていた。

昔なら。

早く決めろ。

お前の立場を考えろ。

そんな言葉が返ってきた気がする。


ギルムは再び手元へ視線を落とした。


「考えると言ったのはお前だ」


「…………」


「なら、考えろ」


ガイアはしばらく父親を見ていた。


「……うん」


小さく答えた。

その時。


「何のお話?」


イシルの声がした。

振り返ると、ルナリスとジジを連れて入ってくる。


「次代の話」


ガイアが答える。


「あら」


それ以上、イシルは聞かなかった。

代わりに、ルナリスがガイアの隣へ座る。


「ガイア、明日も精霊さんと遊んでいい?」


「いいけど」


「明後日も?」


「いいよ」


「その次も?」


「ルナ、いつまでいるつもり?」


「ずっと!」


ガイアが吹き出した。


「帰るぞ」


「えー!」


「レグラスとアグラディア待ってんだろ。勉強もあるし」


「…………」


途端に口を尖らせる。

ジジがその隣に座った。


「また来ればいいじゃん」


「いつ?」


「いつでもいいだろ」


「ほんと?」


「ああ」


すると、イシルが思い出したように口を開いた。


「それなら、三月後はどう?」


「三月後?」


「ええ」


イシルが窓の外を見る。

まだ薄明るい空に、淡い月が浮かんでいた。


「その頃にね。月がとても大きく見える夜があるの」


「大きい?」


ルナリスの目が輝く。


「ええ。いつもよりずっと近く、大きく見えるのよ」


「お月さまが近くに来るの?」


「そう見えるの」


「すごい!」


ルナリスが立ち上がった。


「見たい!」


「ヴァレイアから見ると、とても綺麗よ。海も月の光でいっぱいになるの」


「見る!」


「三月後だぞ」


ガイアが言う。


「うん!」


「忘れんじゃねぇの?」


「忘れない!」


そして。

ルナリスは当然のことのように言った。


「また来る!」


ガイアがルナリスを見る。


「ルナ、またヴァレイア来る!」


「……そっか」


「ガイアも来るよ」


「俺も?」


「うん!」


「ジジも!」


「ん」


ジジは普通に頷いた。

ルナリスが嬉しそうに笑う。

ガイアはその三人を見ていた。


また来る。

その言葉が、不思議なくらい自然に聞こえた。


帰る。

そして。

また来ればいい。

それだけのことだった。


「じゃあ」


ガイアは背もたれへ身体を預けた。


「そろそろ帰る準備しねぇとな」


「えー」


「また来んだろ?」


ルナリスは少しだけ考えた。


「……うん」


「ならいいじゃん」


「うん!」


窓から風が入る。

ルナリスの白い髪が揺れた。

その向こうで。

ヴァレイアの花々も、同じ風に揺れていた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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