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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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188/216

長い散歩

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

白い石畳は広くなり、両脇を流れていた水路はいくつにも枝分かれしていく。

木々の向こう。

先ほどから見えていた建物が、徐々にその全貌を現した。


「…………」


ジジが見上げる。


幾重にも連なる白い石壁。

高い塔。

厚い門。

深い緑に囲まれ、石壁には長い年月をかけて伸びた蔓が這っている。


華美ではない。

王宮とも違う。

何かを守るために。

長い年月、そこに在り続けてきた要塞。

そんな言葉の方が似合った。


「……ここ?」


ルナリスが見上げる。


「ああ」


ガイアが答える。


「俺ん家」


「…………」


ジジはもう一度見る。


「でけぇな」


「俺に言うなよ」


建物のさらに奥。

深い森の向こうから、冷たく澄んだ空気が流れてくる。

ルナリスがそちらを見た。


「……いる」


「精霊?」


ジジが聞く。


「うん」


碧色の瞳が森の奥を追う。


「さっきより、もっといる」


ガイアも同じ方を見る。


「泉が近いからな」


「精霊の泉?」


「ああ」


ガイアが要塞の向こうを示した。


「この奥だ」


「じゃあ、ここに住んでんのも……」


「泉を守るためだよ」


ガイアは前を向く。


「家がここにあるっていうより、ここにいなきゃならねぇから家がある」


ジジは要塞を見上げる。

ラハシェルが代々守ってきた場所。

そのすぐ側に。

彼らの家がある。


三人は再び歩き出した。

門の前には、数人のエルフが立っていた。

こちらに気づく。


「…………」


一人の動きが止まった。


「……ガレイヴィア様」


他の者たちも一斉にこちらを見る。

驚きが広がる。

けれど。

すぐに姿勢を正した。


「お帰りなさいませ」


ガイアが足を止める。


「ああ。今戻った」


「ギルム様がお待ちです」


「分かった」


「中へご案内いたします」


「頼む」


重い門が開いていく。

その向こう。

広い中庭が現れた。

外から見た堅牢さとは違い、中には緑が溢れていた。


大きな木々。

色鮮やかな花。

石壁を伝う水。

中央には広い池があり、その水面に陽の光が揺れている。

石造りの回廊がいくつもの建物を繋ぎ。

その間にも草木が入り込んでいた。


ここでも建物と自然の境目がない。


「…………」


ガイアが中庭を見る。

ジジはその横顔を見た。

先ほどまでより。

さらに口数が減っている。


「こちらです」


案内するエルフの後を歩く。

回廊へ入る。

石の床。

高い天井。

開け放たれた窓から、風が通り抜ける。

ガイアの視線が、ゆっくりと動いていく。


壁。

柱。

中庭。

曲がり角。


自分のいない間に変わったものもある。

知らない花が咲いている。

新しい調度品もある。

塗り直された壁もある。

けれど道は変わっていない。


誰かに案内されなくても。

どこへ続いているのか分かる。

身体が覚えていた。

やがて。

回廊の先に、大きな扉が見えてきた。

案内していたエルフが足を止める。


「ギルム様は、この中でお待ちです」


「…………」


ガイアも止まった。


「お声をおかけいたしましょうか」


「いや」


静かに答える。


「自分で行く」


「承知いたしました」


エルフが頭を下げ、離れていく。

残ったのは三人だけだった。

急に。

静かになった。


「…………」


ガイアは扉を見ている。

動かない。

ジジも何も言わない。

ルナリスも。

しばらくして。


ガイアが息を吐いた。


「……やべぇ」


ジジが見る。


「何が」


「バインス帰りたくなってきた」


「…………」


「喧嘩して出てってんだぞ」


「ああ」


「…………」


ガイアが顔を覆う。


「何で普通に待ってんだよ……」


「知らねぇよ」


「俺も知らねぇよ……」


ルナリスがガイアの服をそっと掴んだ。


「でも、お返事くれたよ」


「…………」


「ルナとジジ、連れてきていいって」


ガイアの手が止まる。


「待ってるんでしょ?」


「…………」


ゆっくりと手を下ろす。


「……そうだな」


ジジはガイアを見る。

今だけは。

島民もいない。

ラハシェルの者もいない。

三人だけだった。


「行ってこいよ」


「二人は?」


「ここにいる」


「…………」


「逃げねぇよ」


ガイアが僅かに目を細める。


「当たり前だろ」


「なら行け」


「うるせぇな」


それでも。

ガイアは扉へ向き直った。


一歩。

前へ出る。


ルナリスの手が、服から離れる。

扉の前に立った。


「…………」


手を上げる。


一度。

止まった。

そして。

扉を叩いた。


「入れ」


低い声が。

向こうから聞こえた。


「…………」


ガイアの目が揺れた。

百二十年。

聞いていなかった声だった。


それでも。

一瞬で分かった。


ガイアが扉に手をかける。

ゆっくりと開いた。

その向こう。


一人の男がいた。


「…………」


男が顔を上げる。

ガイアも。

何も言わない。


長い時間。

ただ。

互いを見る。


最後に見た時より父は老いていた。

顔には、記憶になかった皺がある。

髪にも白色が混じっている。

当たり前だった。


分かっていた。

分かっていたはずなのに。


「…………」


ギルムも。

息子を見ていた。


銀の長い髪。

褐色の肌。

金色の目。

最後に見た時より凛々しかった。


この家を出ていった息子。


「……随分と」


低い声が響く。


「長い散歩だったな」


ガイアの唇が。

僅かに動いた。


「…………」


何も。

出てこなかった。


百二十年ぶりに。

父と。

息子が向かい合った。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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