南へ続く日々
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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それから数日。
船は南へ進み続けた。
朝になれば港を出る。
日が傾く頃には次の港へ入り、夜を越す。
翌朝には、また海へ出る。
最初の数日は、ルナリスにとって見るもの全てが新しかった。
海鳥が飛べば名前を聞く。
見たことのない魚が跳ねれば、すぐにガイアを呼ぶ。
遠くに島影が見えれば、あそこには何があるのかと尋ねた。
その度にガイアは答えた。
分からないものには、分からないと言った。
「ガイアでも分かんないことあるんだね」
「そりゃあるだろ」
「海のこと何でも知ってると思ってた」
「んなわけねぇだろ」
「でもいっぱい知ってるよ」
「まあ、ルナよりはな」
「ルナまだ子どもだもん」
「知ってるよ」
そんなやり取りも、何度目かになる。
航海が続くうち、ルナリスも少しずつ船での暮らしに慣れていった。
船が多少揺れても気にしなくなった。
甲板のどこまでなら一人で行っていいのかも覚えた。
ガイアが帆を動かしている時は邪魔をしない。
船縁から海を見る時は、身を乗り出さない。
それでも時々忘れて、服の後ろを掴まれた。
「ルナ」
「あ」
「落ちんぞ」
「ごめんなさい」
「分かればいいよ」
その翌日には、また少し身を乗り出した。
「ルナ」
「…………」
振り返る。
ガイアが見ている。
「まだ何も言ってないよ」
「戻る」
「はい」
ジジが少し離れたところで笑った。
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ファルコは毎朝、船より先に海へ出た。
翼を広げれば十メートルにもなる大鷹は、
あっという間に小さくなり、やがて空の向こうへ消える。
先の海域を見て、戻ってくる。
時には島や岩場で休み、再び船へ追いついた。
ガイアは必要な時だけ、その視界を借りた。
ファルコが見た空。
海。
遠くの雲。
行き交う船。
その情報と、肌で感じる風や波を合わせて航路を決める。
「それ、こっち?」
ジジが係留索を持ったまま聞く。
「逆」
「こっち?」
「そう。そこ通して」
港へ入るたび、ジジも少しずつ船の扱いを覚え始めた。
「で?」
「引く」
「どんくらい」
「船寄るまで」
ジジが綱を引く。
船体が岸壁へ近づいた。
「これでいい?」
「いいよ」
「簡単じゃん」
「お前がやってんの一部だけだからな」
「全部教えて」
「何で」
「手伝えるじゃん」
ガイアが少し笑った。
「じゃあ明日な」
「今日じゃねぇの?」
「もう着いたろ」
「まだ何かあるだろ」
「飯」
「それは行く」
「だろ?」
ルナリスが先に岸壁へ降りていた。
「今日何食べる?」
「お前ら食うことばっかだな」
「ガイアもじゃん」
「俺は付き合ってやってんだよ」
「昨日一番食ってたじゃん」
ジジが言う。
「腹減ってたんだよ」
「じゃあ同じだろ」
「うるせぇ」
三人で町へ向かった。
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寄る港が変われば、食べるものも変わった。
大きな魚を丸ごと焼く町。
貝を香草と一緒に煮込む町。
魚介と米を炊き込んだ料理を出す町もあった。
ある日の夕食。
ルナリスが魚を食べながら言った。
「昨日の方がおいしかった」
「じゃあ戻るか?」
ガイアが聞く。
「やだ」
「何でだよ」
「ヴァレイア行くもん」
ジジが笑う。
「ガイア」
「何」
「ルナに言葉の正確さ求めすぎ」
「お前に言われたくねぇよ」
「何で」
「お前の説明が一番足りねぇだろ」
「足りてるよ」
「足りてねぇよ」
「ガイアには通じてるじゃん」
「…………」
ガイアが黙る。
ルナリスが二人を見る。
「通じてるね」
「ほら」
「ルナまで乗っかんな」
三人の笑い声が、店の中に混じった。
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夜になれば、船室へ戻る。
一つしかない大きなベッドにも、もう慣れた。
ルナリスは相変わらず真ん中だった。
「今日はガイアこっち」
「いつもこっちだったろ」
「うん」
「じゃあ言わなくてよくね?」
「確認」
「何の」
「いつもと一緒か」
「一緒だよ」
「じゃあいい」
ガイアが長い銀髪を後ろで一本の三つ編みにする。
その隣では、ジジが先に横になっていた。
「ジジ、そっち」
「いるよ」
「もうちょっとこっち」
「狭くなるじゃん」
「いいの」
「俺でかいんだけど」
「知ってる」
結局、ジジが少し寄る。
ルナリスが満足そうに布団へ潜った。
船の揺れも、今では眠りを妨げなくなっていた。
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また数日が過ぎた。
その日は、昼を少し過ぎた頃から風が弱かった。
海面は穏やかで、船の周りには小さな波しか立っていない。
ガイアが帆へ風を送る。
船は変わらず南へ進んでいた。
「あとどれくらい?」
ルナリスが聞く。
「何が」
「ヴァレイア」
ガイアが少し考える。
「半分は越えたな」
「もう?」
「この船速ぇからな」
「じゃあもう近い?」
「まだ近くはねぇよ」
「でも半分越えたんでしょ?」
「最初よりは近い」
「あと何回寝たら着く?」
「天気次第」
「何回?」
「だから分かんねぇって」
「大体」
「んー……」
ガイアが空を見る。
「このままなら、そんなかかんねぇよ」
「そっか」
ルナリスが嬉しそうに海を見る。
ジジは、ガイアを見た。
「帰るの楽しみ?」
「ん?」
「ヴァレイア」
ガイアは少し黙った。
「……まあな」
「百二十年ぶりだろ」
「ああ」
「緊張してる?」
「…………」
ガイアがジジを見る。
「少し」
ジジは何も言わなかった。
ガイアが海へ視線を戻す。
「親父から返事来たっつっても、実際会うのとは違ぇからな」
「うん」
「母さんにも何も言ってねぇし」
「怒るかな」
「さあな」
「会うの嫌?」
「それはねぇよ」
返事は早かった。
ジジが少し笑う。
「ならいいじゃん」
「お前は気楽でいいな」
「俺も緊張してるよ」
「何で」
「ガイアの親に会うから」
ガイアが黙った。
「…………」
「何」
「いや」
「何だよ」
「お前がそういうこと言うの、まだ慣れねぇ」
「何で?」
「何でって……」
ガイアが頭を掻く。
「もういい」
「変なの」
「お前がな」
上空から、大きな鳴き声が響いた。
二人が顔を上げる。
ファルコが戻ってきていた。
大きな翼が、青い空を横切る。
ルナリスが手を振った。
「ファルコ!」
その声に応えるように、ファルコが一度大きく旋回する。
ガイアも空を見上げた。
その表情が少しだけ緩んだ。
船は南へ進んでいく。
日を重ねるたび。
ヴァレイアは、少しずつ近づいていた。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




