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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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180/216

今のあなた

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

食堂は、港から少し入った通りにあった。

夕方でも店内は賑わっている。

五人で奥の卓を囲んだ。


大きな魚の香草焼き。

貝と野菜の煮込み。

焼きたてのパン。


料理が並ぶたびに、ルナリスの目が動いた。


「これおいしい!」


魚を一口食べて、すぐにシエラを見る。


「よかった」


「ここよく来るの?」


「時々ね」


「これ何の魚?」


シエラが皿を見る。


「...何かしら」


「白ヒレじゃね?」


ガイアが答えた。

ルナリスが振り返る。


「知ってるじゃん」


「魚はな」


「町は知らないのに?」


「海の中に町ねぇだろ」


「そっか」


納得して、また食べる。

ガイアも自分の皿へ手を伸ばした。


「ルナ、それ骨あるぞ」


「どこ?」


「貸して」


皿を引き寄せる。

魚の身を崩し、細い骨を取り除いていく。


「ほら」


「ありがと!」


ルナリスは何事もなかったように食べ始めた。

少しして、別の皿を指差す。


「ガイア、これ辛い?」


「それは平気」


「こっちは?」


「ちょっと辛い」


「じゃあやめる」


「こっち食えよ」


ガイアが自分の皿から一つ取って、ルナリスの皿へ置いた。


「これうまいぞ」


「ガイア食べた?」


「まだ」


「じゃあ分かんないじゃん」


「見りゃ大体分かる」


「ほんと?」


「多分」


ルナリスが笑った。

エレーンは向かいから、その様子を見ていた。

ガイアはようやく自分の皿へ戻る。

ジジがその皿を見る。


「全然食ってねぇじゃん」


「今食うよ」


「ルナの俺やるから食えよ」


「いいって」


「疲れてんだろ」


「心配性」


ジジがルナリスの皿を自分の方へ寄せた。


「次、骨あったら俺取る」


「うん!」


ガイアを見る。


「ほら」


「……分かったよ」


ガイアが食べ始める。

ジジは何事もなかったように自分の食事へ戻った。

エレーンの視線が、二人の間を動いた。


「…………」


「どうしたの?」


隣のシエラが聞く。


「何でもないわ」


ジジが顔を上げる。


「それ俺の真似?」


「何が?」


「何でもない」


「違うわよ」


「そっか」


エレーンが少し笑った。


——————————————————————


食事をしながら、ルナリスはこれまでのことを話した。


脚が戻ったこと。

目が見えるようになったこと。

児童所へ通っていること。

今は歩くだけでなく、少しずつ走る練習もしていること。


「走れるの?」


シエラが聞く。


「ちょっとだけ!」


「すごいじゃない」


「でもジジがすぐ止める」


シエラがジジを見る。


「転んだら危ねぇだろ」


「子どもは転ぶわよ」


「みんなそれ言うんだよ」


ガイアが笑う。


「また始まった」


「何が」


「過保護」


「ガイアだってルナが船から身ぃ乗り出したらずっと掴んでただろ」


「あれは海に落ちるだろ」


「俺と同じじゃん」


「全然違ぇよ」


「何が」


「…………」


ガイアが少し考える。


「……分かんねぇ」


「ほら」


「うるせぇな」


ジジが笑う。

ガイアも少し笑った。

エレーンが、その二人を見ていた。


「……ジジ」


「何?」


「あなたって、こんなに口数が多いのね」


「俺?」


「ええ」


ジジが少し考える。


「普通じゃね?」


「私といた頃は、もっと喋らなかったわ」


「そうだっけ」


「そうよ」


ガイアが横から言う。


「こいつ結構喋るぞ」


「ガイアが喋るからだろ」


「俺のせいかよ」


「お前ずっと喋ってんじゃん」


「お前も返してんだろ」


「返さねぇとずっと喋るじゃん」


「人をうるせぇ奴みたいに言うな」


「うるせぇじゃん」


「お前もな」


エレーンが小さく笑った。

ジジが見る。


「何」


「別に」


「なんだよ」


「本当に、何でもないわ」


ジジは首を傾げた。

ガイアは気にせず食事を続けている。

エレーンはもう一度、二人を見た。


自分が知っていた頃とは違う。

ぶっきらぼうなのは変わらない。

口が悪いのも。

けれど、こんなに誰かと言葉を交わす男だっただろうか。


ガイアがルナリスの杯へ水を足す。

その横で、ジジがガイアの空いた皿に料理を取り分ける。

ガイアは見もしない。


「ありがと」


「ああ」


当たり前のように交わされる。

エレーンは何も言わなかった。


——————————————————————


食事を終え、店を出た。


外はすっかり暗くなっていた。

港の灯りが、通りの向こうに見える。


ルナリスはシエラと手を繋いで歩いていた。


「砦にいた時ね」


シエラが話す。


「ルナリス、よく歌ってたのよ」


「ルナが?」


「覚えてない?」


「何歌ってた?」


「私も名前は知らないわ」


「歌って!」


「え?」


「聞いたら思い出すかも!」


「ここで?」


「うん!」


シエラが困ったように笑う。

その横をガイアが歩いていた。


少し後ろに、ジジとエレーンがいる。

しばらく歩いてから。


「エレーン」


「何?」


「あの時言われたこと」


エレーンがジジを見る。


「どの時?」


「バインス行く前の夜」


少し間が空いた。


「……何か言ったかしら」


「言った」


ジジは前を見たまま続ける。


「次に誰かが出ていこうとした時」


エレーンの表情が僅かに変わる。


「行ってほしくねぇなら、ちゃんと言えって」


「ああ」


「今は意味分かる」


エレーンは少し黙った。


「そう」


「うん」


「言えたの?」


「ああ」


「誰に?」


ジジが前を見る。

ルナリスに何か聞かれたガイアが、少し屈んで話していた。

長い銀髪が肩から前へ流れる。


「あいつ」


エレーンも見る。


「ガイア?」


「ん」


「……そう」


「行くなって言った」


エレーンは何も言わない。


「俺、あの時は何でそんなこと言われたのか、よく分かんなかったけど」


ジジが少しだけ眉を寄せる。


「今なら分かる」


「なら、よかった」


「うん」


前から声が飛んでくる。


「ジジ! 遅い!」


「今行く」


ジジが歩調を速める。

数歩進んでから振り返った。


「エレーン」


「何?」


「ありがと」


それだけ言って、前へ戻っていった。

エレーンは少しの間、その背中を見ていた。


——————————————————————


港へ着く頃には、ルナリスの歩調が遅くなっていた。

何度目かの欠伸をする。


ガイアが見る。


「眠い?」


「眠くない……」


「眠い奴の言い方なんだよ」


「歩けるもん」


「歩けねぇとは言ってねぇよ」


もう少し歩く。

ルナリスがまた欠伸をした。


ガイアが足を止め、しゃがむ。


「ほら」


「……抱っこ」


ルナリスが両腕を伸ばす。

ガイアが抱き上げた。

腕が首へ回る。


「重くなったな」


「大きくなったから……」


「そうだな」


ルナリスの頭がガイアの肩へ乗る。

ジジがエレーンとシエラを見る。


「じゃあな」


「ええ」


シエラがルナリスへ近づく。


「ルナリス」


「ん……?」


「また会いましょうね」


「うん……」


「今度はもっとたくさんお話ししましょう」


「うん」


エレーンも笑う。


「元気でね」


「エレーンも……」


ガイアが二人を見る。


「じゃあな」


「ええ。気をつけて」


三人が歩き出した。

少し進んだところで、ジジがガイアの隣へ並ぶ。


「ルナ俺抱く?」


「いいよ」


「疲れてんじゃん」


「平気」


「船戻ったら寝ろよ」


「お前、俺を何歳だと思ってんだよ」


「二百三十」


「そういう意味じゃねぇ」


ジジが笑う。

その手が、自然にガイアの腰へ回った。

ガイアが横を見る。


「何」


「何が」


「手」


「駄目?」


「……」


そのまま歩いていく。

ガイアの肩では、ルナリスがもう目を閉じていた。

シエラが遠ざかる三人を見る。


「…………」


「何?」


エレーンが聞く。


「ジジって、あんな感じだった?」


「いいえ」


「そうよね」


エレーンが少し笑う。


「全然違うわ」


「ガイアと……」


シエラが言いかける。

エレーンが三人を見る。


眠ったルナリスを抱くガイア。

その隣で、腰へ腕を回したまま歩くジジ。


「恋人みたいね」


シエラがエレーンを見る。


「聞いたの?」


「いいえ、二人を見てたらそう思ったの」


「……そっか」


二人でもう一度、遠ざかる背中を見る。


「家族みたいね」


エレーンは少し黙った。

やがて。


「そうね」


三人の姿が港の方へ消えていく。

シエラが歩き出す。


「私たちも帰ろっか」


「ええ」


エレーンも隣に並んだ。


「でも、本当に全然違った」


「ジジ?」


「ええ」


シエラが笑う。


「幸せそうだったね」


エレーンも少し笑った。


「そうね」


二人は三人とは反対の道へ歩いていった。


——————————————————————


船室へ戻った時には、ルナリスは完全に眠っていた。

ガイアがベッドへ寝かせる。


靴を脱がせ、布団を掛けた。


「起きねぇな」


「今日は色々あったからな」


「風呂どうする?」


「朝でいいだろ」


「だな」


ガイアが先に風呂へ向かった。

戻ってくる頃には、長い銀髪は乾かされ、後ろで一本の三つ編みにされていた。


「先寝るわ」


「寝ろ寝ろ」


「言われなくても寝る」


ガイアがルナリスの隣へ入る。

ジジはそのあと風呂へ向かった。

しばらくして。


船室へ戻る。

静かだった。


ルナリスは真ん中で眠っている。

その向こうでは、ガイアも目を閉じていた。


普段ならジジが戻ってきた気配で目を開けることもある。

今日は起きなかった。


バインスを出てからずっと、風と波を使っていた。

ファルコの視界も時々使っていた。

予定外の港へ入るため、船足も上げた。


ジジはベッドへ腰を下ろす。

ガイアを見る。


「……お疲れ」


返事はない。

少し身を屈める。

頬へ軽く口づけた。


「おやすみ」


そのままルナリスの隣へ入る。

布団を引き上げる。

ルナリスが小さく寝返りを打った。

伸びてきた手が、ジジの腕へ触れる。

その手を握る。


反対側からは、ガイアの静かな寝息が聞こえていた。

船体を、穏やかな波が揺らしている。


ジジも目を閉じた。

明日になれば。


また三人で、南へ向かう。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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