予定外の港
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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翌朝。
船は再び港を離れた。
朝から海は穏やかだった。
帆は風を孕み、快速帆船は昨日と同じように南へ進んでいく。
遥か上空では、ファルコが大きく翼を広げていた。
船よりずっと先を飛び、時折その姿が小さくなっていく。
「ファルコ、どこまで行くの?」
船縁から空を見上げ、ルナリスが聞いた。
「この先見に行ってんだよ」
ガイアが答える。
「何があるか?」
「そう。天気とか、海の様子とか」
「ガイアも見える?」
「あいつの目借りればな」
「今も?」
「今は見てねぇよ」
ルナリスがファルコを見上げる。
「イルカいたら教えてくれるかな」
「イルカ探しに行かせてんじゃねぇって」
「昨日いっぱいいたもん」
「今日もいるだろ、多分」
「ほんと?」
「多分っつっただろ」
「ファルコに聞いてみて」
「だからイルカ探しに行かせてんじゃねぇって」
「見えたらでいいよ」
「はいはい」
「はいは一回!」
ジジが少し笑った。
ガイアが振り返る。
「何」
「別に」
「何だよ」
「ルナ同じこと言ってんなと思って」
「どこが」
「はいは一回」
ガイアがルナリスを見る。
「ジジの真似すんなよ」
「なんで?」
「口悪くなるぞ」
「ガイアも口悪いよ」
「…………」
ジジが吹き出した。
「お前のせいじゃん」
「うるせぇな」
ルナリスが笑う。
船は南へ進んでいった。
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昼を過ぎた頃。
上空からファルコの姿が消えた。
かなり先まで行ったらしい。
ガイアが船尾に立ち、帆の様子を見ていた。
風は変わらず穏やかだった。
波も高くない。
「…………」
ふと、ガイアが顔を上げた。
瞼を閉じている。
ジジが気づく。
「ガイア?」
返事はない。
ガイアは動かなかった。
しばらくして、その眉間に僅かに皺が寄る。
「……遠いな」
「ファルコ?」
「ああ」
ガイアは目を開け目元を軽く押さえた。
それから海の向こうを見る。
「予定変えるわ」
「何かあった?」
「この先、荒れる」
ルナリスが振り返った。
「雨?」
「雨も来る。風も強ぇな」
ジジが空を見る。
頭上には青空が広がっていた。
「全然そんな感じしねぇけど」
「まだ結構先だからな」
「抜けられる?」
「俺らだけなら行く」
ガイアが答える。
「でも、ルナいるし」
「じゃあやめよ」
「ああ」
ガイアが海へ視線を戻す。
「東に港がある。今日泊まる予定だったとこより手前だけど、そこ入るぞ」
「うん」
ルナリスが聞く。
「ガイア、その港行ったことある?」
「ほとんどねぇな」
「何がおいしい?」
「知らねぇ」
「知らないの?」
「俺を何だと思ってんだよ」
「海のこと何でも知ってる人」
「町の飯まで海じゃねぇだろ」
ルナリスが少し考える。
「じゃあ着いてから探す」
「だな」
ガイアが帆を見上げた。
風向きが変わる。
帆が大きく膨らんだ。
船足が上がった。
「速い!」
ルナリスが声を上げる。
「ルナ、そこ掴まっとけよ」
「うん!」
風は強い。
それでも甲板にはほとんど吹きつけてこない。
帆だけを押し、船を東へ運んでいく。
ジジがガイアを見る。
銀髪が風に揺れていた。
その顔には、少しだけ疲れが見えていた。
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予定になかった港へ着いた頃には、日が傾き始めていた。
係留索を杭へ掛け、ガイアが結ぶ。
「よし」
立ち上がる。
その動きが、いつもより少しだけ遅かった。
ジジが見る。
「疲れた?」
「ちょっと」
ガイアが首の後ろへ手をやる。
「ファルコの目、使いすぎた」
「頭痛い?」
「そこまでじゃねぇよ」
「風もずっと使ってたし」
「このくらい平気」
「平気ならいいけど」
ルナリスが船から降りる。
「お腹すいた!」
「俺も」
ガイアが岸壁へ降りた。
「とりあえず飯探すか」
「ガイア、この町知らないんだよね?」
「ほとんどな」
「じゃあルナが探す」
「何を基準に」
「いい匂い」
「まあ、それもいいか」
ジジも船を降りた。
三人で港町へ向かう。
魚を焼く匂い。
煮込み料理の匂い。
焼いたパンの匂い。
ルナリスは店の前を通るたびに顔を向けていた。
「ここは?」
「まだ港出たばっかだぞ」
「じゃああっち」
「早ぇよ」
「だってお腹すいた」
その時だった。
「……ジジ?」
聞き覚えのある声だった。
ジジが足を止める。
振り返る。
「…………」
少し離れた通りに、二人のエルフが立っていた。
「エレーン?」
隣を見る。
「シエラも」
二人とも動かなかった。
視線は、ジジではなく。
その隣にいるルナリスへ向いていた。
ルナリスがジジを見る。
「誰?」
「エレーンとシエラだよ」
「……エレーン? シエラ?」
二人の表情が変わる。
ルナリスは、まだ分からないように二人を見ていた。
「……エレーン?」
「……ルナリス」
その声を聞いた瞬間。
ルナリスの目が大きく開いた。
「!!」
顔が明るくなる。
「エレーン! シエラ!」
駆け出した。
二人の目が、同時にその脚へ落ちる。
「……っ」
シエラが息を呑んだ。
「ルナリス!」
しゃがんだシエラの胸へ、ルナリスが飛び込む。
その身体を、シエラが強く抱きしめた。
「シエラ!」
「ルナリス……」
「久しぶり!」
「あなた……」
シエラが身体を離す。
もう一度、ルナリスを見る。
立っている。
自分の脚で。
「……歩いてる」
「うん!」
「脚……」
「治ったよ!」
ルナリスが笑う。
シエラの視線が、その顔へ上がる。
自分を見ている。
真っ直ぐに。
「目も……?」
「見えるよ!」
シエラの顔が崩れた。
涙が落ちる。
「……よかった」
「シエラ?」
「よかった……」
もう一度、ルナリスを抱きしめる。
ルナリスが少し驚きながら、その背中へ腕を回した。
「泣いてる?」
「嬉しいのよ」
「そっか」
「本当に……よかった」
その隣で、エレーンはまだルナリスを見ていた。
「エレーン!」
呼ばれて、ようやく動く。
「……本当に治ったのね」
「うん!」
ルナリスがエレーンへ腕を伸ばした。
「エレーンも!」
エレーンがその身体を抱きしめる。
「久しぶりね、ルナリス」
「うん!」
エレーンの手が、背中をゆっくりと撫でた。
身体を離す。
ルナリスが、二人を交互に見た。
じっと。
「……シエラって、こんな顔だったんだ」
シエラが涙を拭う。
「そうよ」
「エレーンも」
「ええ」
「初めて見た」
エレーンが少し笑った。
「そうね」
ルナリスが二人を見比べる。
「似てる!」
「姉妹だもの」
「そうだった!」
嬉しそうに笑う。
エレーンも笑った。
それから。
その視線が、少し離れたところに立つ男へ向いた。
長い銀髪。
褐色の肌。
尖った耳。
「……もしかして」
ガイアがエレーンを見る。
「ん?」
「ガイア?」
「俺知ってんの?」
「名前だけ」
エレーンが立ち上がる。
「昔、ダンテから聞いたわ」
「何て?」
「ジジと二人で崖から降りて、ダンテだけ置いていったって」
「…………」
ガイアがジジを見る。
「第一印象それ?」
「俺に言うなよ」
「お前も一緒に降りただろ」
「近道だったから」
「だから何で二人揃って行くんだよ」
「ガイアも行ったじゃん」
「行ける高さだっただろ」
「俺もそう思った」
エレーンが二人を見る。
「……本当にそのガイアなのね」
「だな」
ガイアが片手を上げる。
「ガイア。よろしく」
「エレーンよ」
「知ってる」
「私を?」
「ジジから聞いてる」
エレーンがジジを見る。
「私のことを話したの?」
「話したよ」
「そう」
その表情が僅かに変わった。
シエラも立ち上がる。
「こんなところで会うなんてね」
「二人、ここに住んでんの?」
ジジが聞く。
「今はね」
「仕事?」
「ええ。近くの薬屋で働いてるの」
「エレーン薬草詳しいもんな」
「……そうね」
ルナリスがシエラの手を握ったまま聞く。
「ずっとここにいるの?」
「まだ分からないわ」
「そっか」
シエラが三人を見る。
「ジジたちは?」
「ちょっと」
エレーンがジジを見る。
「……旅行?」
「そんなとこ」
「あなたが?」
「俺だって旅くらいするよ」
「そう」
それ以上は聞かなかった。
「ルナたち、ご飯探してたの!」
ルナリスが言う。
「そうなの?」
「うん。でもガイア、この町知らないんだって」
「ほとんど来たことねぇんだよ」
「それなら」
シエラが通りの先を見る。
「おいしい食堂があるわよ」
「ほんと?」
「魚料理がおいしいの」
「行きたい!」
ルナリスが即答した。
ジジが笑う。
「じゃあそこにするか」
「二人も一緒に食べよう!」
「私たちも?」
「うん!」
シエラがエレーンを見る。
エレーンは少しだけ笑った。
「そうね」
「やった!」
ルナリスがシエラの手を引く。
「どっち?」
「こっちよ」
「エレーンも!」
「いるわよ」
三人が歩き始める。
ガイアもその後ろへ続いた。
ジジが隣に並ぶ。
「大丈夫?」
「何が」
「疲れてんだろ」
「飯食えば平気」
「ならいいけど」
ガイアが横目で見る。
「……お前ほんと心配性だな」
「だから前からだって」
「はいはい」
「はいは一回」
「お前まで言うな」
少し前を歩いていたエレーンが振り返った。
二人を見る。
「…………」
「何?」
ジジが聞く。
「何でもないわ」
再び前を向く。
その口元が、少しだけ緩んでいた。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




