憧れの人
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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朝。
薄い光が、窓から差し込んでいた。
ガイアが目を開ける。
しばらく天井を見ていた。
「…………」
左腕が重い。
視線を落とす。
ジジが寝ていた。
ガイアの右腕を枕にして、こちらを向いている。
「…………」
大きい身体を少し丸めている。
腰には、ジジの腕が回っていた。
いつからこうなったのかは分からない。
昨夜、眠る前は逆だった。
自分がジジの胸へ頭を寄せていたはずだった。
ガイアは目の前の顔を見る。
黒髪が頬へ落ちている。
起きている時より、随分と幼く見えた。
「……でけぇくせに」
小さく呟く。
腕は少し痺れている。
抜こうと思えば抜けた。
それでも、そのままにした。
空いている手を伸ばす。
頬へ落ちていた黒髪を避けた。
そのまま、指を通す。
結構伸びた。
最近は鍛錬所で稽古をする時、後ろで結んでいる。
ジジが僅かに動いた。
ガイアの腕へ頬を寄せる。
腰へ回っていた腕にも、少し力が入った。
「…………」
ガイアの口元が緩む。
「……かわいいな」
「……聞こえた」
「!」
ジジの目が薄く開く。
ガイアの手が止まった。
「……起きてたのかよ」
「今起きた」
「じゃあ寝ろ」
「かわいいって言った?」
「言ってねぇ」
「言ったじゃん」
「寝ぼけてんだろ」
「ガイアが?」
「お前が」
ジジが少し笑った。
そのまま目を閉じる。
「……まだ寝んの?」
「ん」
「腕痺れてんだけど」
ジジが目を開けた。
「じゃあどく」
頭を上げようとする。
「もう痺れてるから一緒」
「そういうもん?」
「そういうもん」
ジジは少しだけガイアを見た。
それから、また頭を戻す。
腰へ回る腕。
身体が少し近づく。
ガイアの手も、再び黒髪へ戻った。
「……お前、髪伸びたな」
「ん?」
「最近」
「切ってねぇから」
「稽古ん時、結んでるだろ」
「見た?」
「何回かな」
「ふうん」
ガイアの指が、黒髪を梳く。
しばらく静かな時間が続いた。
ジジも起きる様子はない。
ガイアも起こそうとはしなかった。
やがて。
ジジの手が動いた。
ガイアの左腕へ触れる。
寝間着の上から、ゆっくり指が滑った。
「……ガイア」
「ん」
「昨日これ見てて思い出した」
「何を?」
「この時から、ガイアの匂い好きだったんだなって」
ガイアの指が止まった。
「……あん時も言ってたな」
「うん」
「謝罪も礼もなしでな」
「今思うと酷ぇな」
「今気づいたのかよ」
ジジが笑う。
「俺さ」
「ん?」
「強くなりてぇと思って、ギルド行ったんだよ」
「ああ」
「登録断られた」
「知ってる」
ジジが顔を上げた。
「なんで知ってんの」
「あん時のギルドマスターが言ってた。十五のガキが登録しに来やがったって」
「そうなんだ」
ジジが少し笑った。
またガイアの腕へ頬を戻す。
「それで鍛錬所の候補生になった」
「だな」
「早く強くなりたくて」
「それで格上の依頼に手ぇ出した」
「うん」
「馬鹿だな」
「今はやらねぇよ」
「当たり前だ」
「そんで、ガイアに会った」
「……会ったな」
ジジの指が、左腕の傷がある場所へ触れる。
「ガイア、めちゃくちゃ強かったじゃん」
「あの頃は俺ゴールドランクだったけどな」
「うん」
少し間が空く。
「俺、まだ弱ぇんだなって思った」
ガイアがジジを見る。
「……まあ、ブロンズだったしな」
「そうじゃなくて」
「ん?」
ジジは左腕を見ていた。
「ガイア、俺のこと知らなかったじゃん」
「まあな」
「名前も知らねぇし」
「ああ」
「なのに庇った」
「……やられそうだったからな」
「ガイアが怪我すんのに」
「お前が無茶苦茶だったからだろ」
「うん」
「認めんのかよ」
「あれは俺が悪い」
「十年遅ぇよ」
ジジが笑った。
ガイアも少し笑う。
そのまま、また静かになった。
ジジの親指が、傷の上をゆっくり撫でる。
「俺」
「ん?」
「そういう強い奴になりたかったんだと思う」
「…………」
「ただ強くなって」
「……うん」
「何でも倒せりゃいいと思ってたけど」
ジジが少し考える。
「なんか、違ったんだな」
ガイアは何も言わなかった。
「あの時、初めて分かったのかもしんねぇ」
「何が」
「強いって、敵を倒せることだけじゃねぇんだなって」
「…………」
「初めて会った奴でも、咄嗟に庇う」
「…………」
「自分が怪我しても、誰かを守れる」
ジジがガイアを見る。
「そういうの」
「…………」
「格好いいなって思った」
ガイアの指が、黒髪の中で止まった。
「……お前」
「ん?」
「それ、今言う?」
「今思い出したから」
「…………」
ジジは少し考えた。
「初めて会ったんだよ」
ジジがガイアを見る。
「本当に強ぇ奴」
「……ジジ」
「俺にとってガイアって、憧れだったのかもしんねぇなって」
ガイアの目が止まる。
「…………」
「だからかな」
「……何が」
「ガイアの匂い」
ジジが左腕へ頬を寄せる。
「俺ん中で、ずっと特別だったのって」
「…………」
ガイアが顔を逸らした。
耳が赤くなっている。
「ガイア」
「……何」
「嬉しいのか?」
「うるせぇ」
「嬉しいんだ」
「朝からそういうこと言うなよ……」
ジジが身体を少し起こした。
ガイアの顔を覗く。
「赤い」
「見るな」
「かわいい」
「見るなっつってんだろ」
ガイアが手で顔を隠す。
ジジがその手首を掴んだ。
「隠すなよ」
「嫌だ」
「見せて」
「何で」
「俺しか見れないから」
「…………」
ガイアの動きが止まった。
ジジが少し笑う。
「そういう顔」
「……お前、ほんと」
「何?」
「最近調子乗ってんな」
「ガイアがかわいいから」
「俺のせいにすんな」
「ガイアのせいだろ」
「何でだよ」
ジジが手を退ける。
赤くなった顔が見える。
少しだけ目を細めた。
「ほら」
「何がほらだよ」
ジジが顔を寄せる。
唇が触れた。
離れる。
「……好き」
「…………」
「ガイア」
「分かったから」
「何が?」
「好きなのは分かった」
「ガイアは?」
「散々言っただろ」
「今聞きたい」
「……面倒くせぇな」
そう言いながら。
ガイアがジジの首へ腕を回した。
今度はガイアから唇を重ねる。
一度だけ。
「……好きだ」
ジジが笑った。
「そっか」
「満足した?」
「した」
そのまま、またガイアの左腕へ頭を戻した。
「寝る」
「お前なぁ……」
「まだ眠い」
「人のこと散々恥ずかしくさせといて?」
「夕方まで暇だろ」
「まあ……そうだけど」
「ルナ迎えまで寝れる」
「寝すぎだ」
ガイアは息を吐いた。
それでも。
黒髪へ手を戻す。
「……寝ろ」
「ん」
目を閉じたジジの腰へ、ガイアも腕を回した。
しばらくすると。
呼吸がゆっくりになる。
「…………」
ガイアはその顔を見ていた。
十八歳。
無茶苦茶で。
自分の力量も分からず、格上の依頼へ突っ込んできた人間の少年。
あの時。
自分が腕に傷を負ったことを、ずっと申し訳なく思っていたのだと思っていた。
それだけではなかった。
「……憧れ、か」
黒髪を撫でる。
ジジが少しだけ、ガイアの胸へ近づいた。
「…………」
ガイアの口元が緩む。
「……かわいいな」
今度は、起きなかった。
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二人がもう一度起きた頃には、日はかなり高くなっていた。
「……寝すぎた」
ガイアが窓を見る。
「何時?」
「昼前じゃねぇの」
「腹減った」
「だな」
ジジが身体を起こす。
寝癖のついた黒髪が横へ跳ねていた。
ガイアがそれを見る。
「ひでぇ頭」
「どこ?」
「後ろ」
ジジが手を回す。
「分かんねぇ」
「貸せ」
ガイアが後ろへ回った。
指で髪を整える。
「ほんと伸びたな」
「結べる?」
「余裕」
「やって」
「自分でできんだろ」
「ガイアにやってほしい」
「…………」
「だめ?」
「……あっちむいとけ」
ガイアが髪を集める。
低い位置で一つにまとめ、紐で結んだ。
「できた」
「ありがと」
ジジが立ち上がる。
そのままガイアの腰へ腕を回した。
「何」
「別に」
「何だよ」
「くっつきたかっただけ」
「…………」
ガイアは少し笑った。
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夕方。
二人は並んで児童所へ向かった。
門を入る。
庭から子供たちの声が聞こえる。
その中から。
「ジジ!」
ルナリスの声が飛んできた。
「ただいま!」
「おかえり」
ルナリスがジジのところまで来る。
すぐに頭の方へ顔を向けた。
「ジジ、髪結んでる」
「ああ」
「今日お仕事だった?」
「違うよ」
「じゃあなんで?」
ジジが隣を見る。
「ガイアがやった」
「ガイアが?」
「ん」
ルナリスがガイアを見る。
「ルナもやって!」
「今?」
「うん!」
ガイアがルナリスの髪へ手を伸ばす。
ジジはその横で見ていた。
昨日は二人だった。
今日はまた三人。
それでも。
ガイアの指が自分の髪に触れた感覚は、まだ残っていた。
「できた」
「どう?」
ルナリスがジジへ向く。
「いいじゃん」
「ジジとお揃い!」
「そうだな」
ルナリスが嬉しそうに笑う。
「帰ろ!」
ジジの手を取る。
もう片方の手を、ガイアへ伸ばした。
ガイアが握る。
三人で児童所を出た。
明日の朝。
海へ出る。
その先にあるのは、ガイアが帰らなかった島。
ヴァレイア。
けれど今。
ガイアの隣には守りたい笑顔が二つがあった。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




