二人になる夜
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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児童所へルナリスを迎えに行った帰り。
三人は、そのままルシーダ家へ寄った。
レグラスへ伝えておくことがあった。
使用人に案内され、応接室の扉が開く。
「失礼いたします。お客様がお見えです」
レグラスが顔を上げた。
「…………」
入ってきた三人を見る。
ジジ。
ルナリス。
そして。
「よ」
片手を上げたガイアを見て、レグラスの動きが止まった。
「…………」
いつもの服だった。
何より。
「何だよ」
目の前にいるのは、レグラスがこれまで知っていたガイアそのものだった。
「……いや」
レグラスが僅かに言葉を選ぶ。
「…………」
ガイアが眉を寄せた。
それから、すぐに察した。
「ああ」
「…………」
「今はガイアでいい」
レグラスの目がガイアへ向く。
「……よいのか」
「ああ」
「しかし――」
「分かってる」
ガイアが遮る。
「お前の立場も分かってるし、必要な時は俺もそれに合わせる」
「…………」
「でも今日は、ガレイヴィアとして来たわけじゃねぇから」
ガイアはいつもの調子でソファへ向かう。
「ルナ迎えに行った帰りに寄っただけだ」
「…………」
「だからガイアでいい」
レグラスはしばらくその背中を見ていた。
「……分かった」
ガイアが振り返る。
「では、ガイア」
「おう」
それだけで。
僅かに張っていた空気が元へ戻った。
ルナリスがいつものようにガイアの隣へ座る。
ジジもその横へ腰を下ろした。
レグラスも向かいへ座る。
ガイアは席へ着くなり口を開いた。
「親父から返事来た」
レグラスが顔を上げる。
「ギルム殿から?」
「ああ」
「何と?」
「ヴァレイアを目指していいって」
レグラスの表情が僅かに和らいだ。
「そうか」
「ああ。ただ、前にも言った通り、行けば入れるってわけじゃねぇから」
「島が受け入れるかは、まだ分からない」
「そういうこと」
レグラスは頷いた。
「いつ発つ?」
「まだ決めてねぇ。準備してからだな」
「何で行く?」
「船」
「船は?」
「これから探す」
「…………」
レグラスが黙った。
ガイアが眉を寄せる。
「何だよ」
「どの程度の船を考えている」
「別に。三人乗れて、荷物積めりゃ何でもいいだろ」
「何日かかる」
「天候にもよるけど、順調なら――」
ガイアが大体の日数を答える。
レグラスの眉間に皺が寄った。
「それだけ海上にいるのか」
「そうだけど」
「ルナリスも?」
「当たり前だろ」
「…………」
嫌な沈黙が落ちた。
ジジがレグラスを見る。
ガイアも見る。
「……何だよ」
「明後日までに快速帆船を用意する」
「は?」
「必要な物資も積ませる」
「いや、待て」
「聞け」
レグラスが止まった。
「自分らで用意できる」
「だがルナリスが乗る」
「だから何だよ」
「何かあってからでは遅い」
「…………」
ガイアがジジを見る。
「始まったぞ」
「何が」
「こいつの心配性」
レグラスが眉を寄せる。
「心配して当然だろう」
「普通の船で行けるっつってんだよ」
「より安全な船が用意できるなら、そちらを使えばいい」
「…………」
「何か問題があるか?」
「正論で押してくんな」
ジジが少し笑う。
「いいじゃん。用意してくれるって言ってんだから」
「お前まで乗っかんな」
「俺、船分かんねぇし」
「俺が分かる」
「じゃあ快速帆船が嫌な理由あんの?」
「…………ねぇけど」
「じゃあいいじゃん」
「…………」
ガイアが深く息を吐いた。
「好きにしろ」
「そうさせてもらう」
レグラスは即答した。
「明後日までには用意する」
「早ぇんだよ」
そのやり取りを、ルナリスは隣で黙って聞いていた。
やがて。
「おじさん」
「ん?」
「今日、お泊まりしていい?」
今度はジジとガイアがルナリスを見る。
「今日?」
「うん」
「何で今日?」
「だってヴァレイア行ってる間お泊りできない」
「まぁそうだけど」
レグラスは少しだけ目を見開いたが、すぐに頷いた。
「もちろん構わない」
返事は早かった。
ガイアがレグラスを見る。
「早ぇな」
「何がだ」
「いや」
ルナリスは最後にジジを見る。
「ジジ、いい?」
「着替えは?」
「あるよ」
「寝るやつも?」
「ある」
何度か泊まっているため、必要なものは置いてある。
ジジが少し考える。
「じゃあいいよ」
「やった!」
ルナリスがレグラスの手を取った。
「今日、本も読む?」
「アグラディアが戻ったら聞いてみるといい」
ガイアがその背中を見る。
「……嬉しそうだな」
「普通だ」
「はいはい」
レグラスが振り返る。
「明日の迎えは?」
ジジが答える。
「児童所終わる時間に来る」
「分かった」
ジジが奥へ向かって声を掛ける。
「ルナ」
「なあに?」
「明日迎え来るからな」
「うん!」
「ちゃんと寝ろよ」
「寝る!」
「夜更かしすんなよ」
「しない!」
「ほんとか?」
「するかも!」
「おい」
奥から笑い声が聞こえた。
「ジジ、行くぞ」
ガイアが言うと二人は家を出た。
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夕暮れの道を並んで歩く。
買ったものが入った袋が、歩くたびに小さく揺れる。
「明後日か」
ジジが言った。
「ああ」
「早かったな」
「レグラスが焦りすぎ」
「ルナ心配なんだな」
「だろうな」
少し歩く。
「船、どんくらい速いんだろ」
「快速帆船なら普通の船よりは速ぇよ」
「あんまり乗ったことねぇからな」
しばらくして。
足が少しだけ遅くなる。
「……ガイア」
「ん」
「今日、ルナいねぇじゃん」
ガイアの足が止まった。
ジジも止まる。
「……今気づいたのかよ」
「うん」
「…………」
夕暮れの道に二人だけが立っている。
ジジがガイアを見る。
ガイアも見る。
「……二人だな」
「そうだな」
ガイアが先に歩き出した。
ジジも隣へ並ぶ。
いつもなら。
家に帰ればルナリスがいる。
食事をして。
三人で話して。
夜になれば、真ん中にルナリスが入る。
今日は違う。
二人分の足音だけが続く。
歩いているうちに、ジジの手がガイアの手へ触れた。
指先が一度離れる。
もう一度触れた。
今度はガイアから指を絡めた。
ジジが握り返す。
そのまま二人は歩いた。
やがて家が見えてくる。
扉の前で、ジジが鍵を開けた。
中へ入る。
ガイアも続いた。
「ただいま」
静かな家に、声だけが残った。
返事はない。
「…………」
二人で家の中を見る。
同じ家だった。
昨日までと何も変わらない。
それでも。
今日は、二人しかいなかった。
ガイアが銀髪を掻き上げる。
「……飯にするか」
「ああ」
二人分の食事を作るため、ガイアが台所へ向かう。
ジジもその後をついていった。
二人きりの夜は。
まだ、始まったばかりだった。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




