海の向こうの島
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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朝食を終えても、ルナリスはまだ席を立たなかった。
向かいに座るガイアを、さっきからじっと見ている。
「……何?」
ガイアが聞く。
ルナリスは少し考えてから、口を開いた。
「ガイアの島って、どんなところ?」
「ヴァレイア?」
「うん」
ガイアは手にしていたカップを置いた。
「何が知りたい?」
「暑い?」
「暑いよ。一年中」
「ずっと夏?」
「ああ」
「冬ないの?」
「ない」
「雪も?」
「降らねぇな」
ルナリスは少し考える。
「じゃあ、果物いっぱいある?」
いきなりそこへ飛んだ。
ジジが僅かに笑う。
「あるよ」
「ココナッツも?」
「ある」
ルナリスの顔が明るくなる。
「ガイアが持ってきてくれたやつ!」
「覚えてたか」
「うん。甘かった」
「実も食えるぞ」
「そうなの?」
「ああ。こっちじゃ見ねぇ果物も多い」
「どんなの?」
「甘いのもあるし、酸っぱいのもある。見たことねぇ形のもあるよ」
ルナリスは頭の中で想像しているらしい。
少しして、またガイアを見る。
「ガイアのパパとママもいる?」
ガイアの表情が僅かに止まった。
「……いるよ」
「どんな人?」
「どんなって……」
今度は少し長く考える。
「親父はギルム。母親はイシル」
「ガイアに似てる?」
「どうだろうな」
「怖い?」
「親父は昔は怖かった」
「今は?」
「知らねぇ。百二十年会ってねぇから」
ルナリスが目を丸くした。
「そんなに?」
「ああ」
「パパ、怒ってるかな」
「……どうだろうな」
ガイアは少し笑った。
「怒ってるかもしれねぇし、案外何も変わってねぇかもしれねぇ」
「ママは?」
「多分変わってねぇよ」
「優しい?」
「ああ」
「料理もする?」
「するよ。魚とか、貝とか。果物も使うし……色々」
「ガイアが好きなのも作ってた?」
「ああ。昔はな」
ルナリスは嬉しそうに聞いている。
ガイアも、最初こそ答えに迷っていたが、
話しているうちに少しずつ表情が和らいでいた。
百二十年も帰っていない場所。
それでも、聞かれればいくらでも記憶は出てくるらしい。
「島、大きい?」
「バインスよりは小さい」
「歩いたらすぐ端っこ?」
「それねぇな」
「じゃあ大きい」
「バインスよりは小さいって話だよ」
「歩いたらどれくらい?」
「何日もかかる」
「じゃあ大きいじゃん」
「……もう大きいでいいよ」
ジジが吹き出した。
ガイアが睨む。
「笑うな」
「いや」
ルナリスも笑う。
そのまま少し考えてから、窓の外へ目を向けた。
「夜は?」
「夜?」
「ヴァレイアの夜」
ガイアが少しだけ目を細めた。
「星が綺麗だよ」
「星?」
「ああ。バインスとは比べもんにならねぇくらい見える」
ルナリスが顔を上げる。
「いっぱい?」
「空いっぱい」
ガイアも窓の外を見る。
「海の上までずっと星が続いてる。月が明るい夜は、海にも光が映る」
「…………」
ルナリスは黙って聞いていた。
「時期によっちゃ、月がやけに大きく見える夜もある」
「大きいお月さま?」
「ああ」
「どれくらい?」
「びっくりするくらい」
「見たい」
「見られるといいな」
ルナリスの顔が綻んだ。
「ガイアも見てた?」
「見てたよ」
「子どもの時?」
「子供の時も」
「ファルコと?」
「……あいつもいたな」
その名前を聞いて、ルナリスが身を乗り出す。
「ファルコはどこにいるの?」
「東の森」
「森に住んでる?」
「大体あの辺にいる」
「どんな森?」
「木が多くて、花も咲いてる。奥には草原もある」
「この前みたいな?」
「もっと広いよ」
「ファルコ、そこに降りてくる?」
「ああ。気が向けばな」
ルナリスは嬉しそうに頷いた。
「ガイアもそこで遊んでた?」
「ああ」
「何してた?」
「走ったり、海行ったり、木登ったり」
「木登りしてたの?」
「してたよ」
「落ちなかった?」
「落ちた」
「落ちたの?」
「ガキなんだから落ちるだろ」
「痛かった?」
「痛かったよ」
ルナリスがけらけら笑う。
ガイアも僅かに笑った。
「海にもいっぱい行った?」
「ああ」
「泳いだ?」
「泳いだし、潜ったりもした」
「ファルコも?」
「ファルコを海に沈める気か?」
ジジが噴き出した。
ルナリスも笑う。
「違うよ。ファルコも一緒に行ったの?」
「ああ。近くまで飛んできたりはしてたよ」
「ずっと一緒だったんだね」
ガイアが僅かに目を細める。
「……まあな」
ルナリスはまた少し考える。
「ルナくらいの子もいる?」
「ああ。いると思うぞ」
「どこにいるの?」
「島の西側に集落がある。そこで家族で暮らしてる奴らも多い」
「お友達になれるかな」
ガイアがルナリスを見る。
「それはルナ次第じゃねぇの?」
「なれるかな」
「児童所でも友達いるだろ」
「いる」
「じゃあ大丈夫だよ」
ルナリスは嬉しそうに頷いた。
しばらく黙っていたが、その顔は楽しそうだった。
まだ見たことのない島を、頭の中で一つずつ作っているのだろう。
暖かい海。
知らない果物。
東の森。
その上を飛ぶファルコ。
空いっぱいの星。
海へ光を落とす、大きな月。
「ルナ、お星さま見たい」
「ああ」
「ファルコの森も行きたい」
「行けたらな」
「果物も食べたい」
「それは絶対なんだな」
「うん」
即答だった。
ジジが笑う。
ルナリスも笑った。
それから、ふと思い出したようにガイアを見る。
「ガイアのパパとママにも、こんにちはする」
ガイアの目が僅かに動いた。
「…………」
「だめ?」
「いや」
ガイアは小さく首を振った。
「会えたら、してやって」
「うん」
ルナリスが笑う。
ジジはその横で、ガイアを見た。
ルナリスにとっては、果物と森と星のある知らない島。
ジジにとっても、まだ見たことのないガイアの故郷。
けれど。
ガイアだけは違う。
そこにある景色を知っている。
海も。
森も。
星空も。
家も。
そこにいる二人の顔も。
「……ガイア」
ジジが呼ぶ。
「何」
「連れてって」
ガイアはすぐには答えなかった。
ほんの少しだけ目を伏せる。
それから。
「ああ」
顔を上げた。
「行こう」
百二十年ぶりに。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




