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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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二本の道

その日は仕事を終えると、

エレーンは守備隊本部へ向かった。


朝家を出る時来いと言われていたのだ。

ジジは既に来ていた。


ダンテの机の上には、昨日持ち帰った地図と、

大きなノーカルミア周辺の地図が広げられている。


「遅かったな」


「仕事をしていたのよ?」


「知ってる」


「なら黙って待ってなさい」


エレーンはジジの隣へ立つ。


「それで?」


ダンテが地図を指した。


「宿場を出た後、道はここで二つに分かれる」


一方は南へ。

もう一方は南東へ曲がり、川沿いへ続いている。


「当時なら、どっちも荷馬車は通れた」


「先には?」


「南は農村地帯。南東は荷揚げ場へ出る」


エレーンが顔を上げる。


「荷揚げ場?」


「ああ。今はほとんど使われてねぇが、

 当時はそれなりに荷が動いてた」


ダンテが帳簿を開く。


「木材、鉱石、穀物、家畜」


「人は?」


エレーンが尋ねる。


「表向きの記録にはない」


「当然ね」


「ああ」


ジジは地図を見ながら言った。


「川なら国外にも出られる」


「そうだ。だからこっちも怪しい」


「じゃあ南東?」


エレーンが聞く。

ダンテは首を振った。


「まだ決めるな。

 南側にも当時使われてた倉庫がある」


エレーンは二本の道を見る。


「どちらもあり得るのね」


「ああ」


「なら両方調べましょう」


「そのつもりだ。ただ、少し時間がいる」


「どのくらい?」


「当時の土地台帳と、荷揚げ場の記録を出す」


エレーンは少し黙った。


「……待つしかないのね」


「そういうことだ」


ジジも地図を見ている。

エレーンが横を見る。


「あなた、今すぐ見に行こうとか

 考えてないでしょうね」


「ちょっと」


「ちょっと考えたのね」


「場所分かってるし」


「まだ“どっちか”すら分かっていないでしょう」


「見りゃ何かあるかもしれねぇ」


エレーンは静かにため息をついた。

ダンテが笑った。


「でもまあ、昔よりはマシだな」


「何が」


「前のお前ならもう行ってた」


エレーンも少し気になった。


「そうなの?」


「ああ」


ジジは地図から目を離さない。


「昔なら行った」


「今は?」


「行かねぇ」


「どうして?」


少し間がある。


「外したら時間食うだけから」


短い答えだった。


「探し物で一番嫌だ」


エレーンは何も言わなかった。


きっと何度もあったのだ。

手掛かりだと思って追って。

何日も使って。

結局、何もなかったことが。


「じゃあ待ちましょう」


「ああ」


エレーンは二本の道を見つめた。


焦らない。


答えが欲しいからこそ、勝手に答えを作らない。

少しずつ、自分にもそれが分かるようになってきた。

守備隊を出る頃には、すっかり暗くなっていた。


二人で森へ続く道を歩く。


「ねえ」


「ん」


「ずっとこんな感じだったの?」


「何が」


「探している時」


ジジは少し考える。


「まあ」


「手掛かりがあって、追って、違って」


「ああ」


「また探して?」


「そうだな」


エレーンは前を向いた。


「……よくやめなかったわね」


ジジが不思議そうに見る。


「何でやめんの」


「またそれね」


「何が」


「見つかっていないから探す。

 それしか言わないでしょう」


「他に理由いるか?」


「普通は疲れるわ」


「疲れるぞ」


エレーンが横を見る。


「……疲れるの?」


「ああ。普通に」


「意外」


「俺を何だと思ってんだ」


「疲れていても気づかなそうな人」


「気づくわ」


少しだけ笑う。


「嫌になったこともある?」


「ある」


今度はエレーンが黙った。


「でも、嫌になったからって

 いなくなるわけじゃねぇだろ」


「…………」


「だから探す」


淡々とした声だった。

エレーンはしばらくその横顔を見た。


「シエラも……」


「ああ」


「見つかるかしら」


「知らね」


「でしょうね」


少し笑ってしまう。

ジジは前を向いたまま続けた。


「でも、見つかるまで探せばいいだろ」


「…………」


「一人じゃねぇんだから」


エレーンの足が僅かに止まった。

ジジは気づかず、そのまま歩いている。

少し遅れて追いつく。


「ジジ」


「何」


「……何でもないわ」


「そ」


そのまま数歩歩く。

エレーンは隣で小さく息を吐いた。


「あなたには、余韻というものがないのね」


「何の?」


「そういうところよ」


「何が」


「もういいわ」


エレーンは呆れたように笑う。

ジジは最後まで意味が分からない顔をしていた。

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お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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