↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

168/216

好き、ということ

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

翌日、夕方前。

泣き腫らした目元も、もう落ち着いていた。


ヴァレイアへの連絡もすべきだが、今日はいつもの一日にしたかった。

しかし、特に予定はない。


ルナリスは児童所へ行っている。

ジジも鍛錬所だ。


「…………」


ガイアはギルドの依頼掲示板の前に立っていた。

掲示板を眺め、端に貼られた一枚を剥がす。


夜にしか姿を現さない薬草の採取。

指定量を採取し、ギルドへ納品。

推奨ランク――ブロンズ。


受付へ持っていくと、職員が依頼書を見た。

次にガイアを見る。

もう一度、依頼書を見る。


「……ガイアさん」


「何」


「これ、ブロンズ向けですが」


「知ってる」


「報酬も――」


「暇なんだよ」


「…………」


受付印が押された。


「では、お願いします」


「ああ」


ガイアは依頼書を受け取り、ギルドを出た。


——————————————————————


街から少し離れた森へ着いた頃にも、まだ日は残っていた。

目的の薬草が姿を現すのは、完全に日が落ちてからだ。


「……さすがに早いか」


ガイアは近くの木の根元へ腰を下ろした。

風が木々の間を抜けていく。


空を見上げる。

あと少し。

暗くなるまで待てばいい。


幹へ背中を預け、目を閉じた。


「…………」


少しだけ。

そう思っていた。


——————————————————————


夕方過ぎ。

ジジとルナリスが帰ってきた。

扉を開ける。


「ただいま」


「ただいま」


二人同時だった。


「ガイア! ……あれ?」


「いないな」


「まだ帰ってきてないのかな?」


「そのうち帰ってくるだろ」


ジジは着替えを済ませ、夕食の支度を始めた。


「今日何してた?」


「文字書いた」


「ちゃんと書けた?」


「書けたよ」


「そうか」


「あとね――」


ルナリスの話を聞きながら手を動かす。

やがて夕食が出来上がった。


二人で食べる。

ガイアは帰ってこない。


「ガイア、今日帰ってくるよね?」


「帰ってくんだろ」


「そっか」


ルナリスはそのまま食事を続けた。

別に珍しいことではない。

一人で出掛けることも。

帰りが遅くなることもある。


ジジもそれ以上気にせず、食事を続けた。


——————————————————————


夜。

ルナリスを寝かしつけたあと。

ジジは居間へ戻ってきた。


「…………」


まだ帰っていない。


時計を見る。

それほど遅い時間でもない。


「…………」


椅子へ座る。

昨日のことが、ふと頭をよぎった。


ガレイヴィアという名前。

ヴァレイア。

百二十年間、岩場に隠していた正装。

そして。


――じゃあ俺とルナだけガイア?

――……別にいいだろ。


「…………」


玄関を見る。

何もない。


「遅ぇな」


こんな時間まで帰らないことくらい、今までにもあった。

それなのに今日は、妙に落ち着かなかった。

時計を見る。

また玄関を見る。


「…………」


何してるんだ。


背もたれへ身体を預ける。

しばらくして、また時計を見る。


「……帰ってこいよ」


声が落ちた。

ジジは動きを止めた。

誰に言ったのか。

分かりきっていた。


「…………」


ガイアがいない。

それだけで。

自分は、こんなにも脆くなるのか。


「…………」


ジジは俯いた。

理由が分からない。

いや。


何かが、もう少しで分かりそうだった。

けれど、それが何なのか。

言葉にならなかった。


——————————————————————


玄関の扉が開いた。


「ただいま」


ジジが顔を上げた。


「…………」


ガイアが入ってくる。


いつもの服。

いつもの銀髪。


「さみぃな」


扉を閉め、顔を上げる。

ジジと目が合った。


「……何」


「…………」


「ジジ?」


ジジは立ち上がった。


「どこ行ってた」


「依頼」


「何の」


「薬草採取」


「……薬草?」


「ああ」


「何でこんな遅ぇんだよ」


「夜にしか出ないやつだったんだよ」


「…………」


「夕方に着いて、出てくるまで待とうと思ってたら寝た」


「…………」


「起きたら夜だった」


「…………」


「何だよ」


ただ、薬草を採りに行っていただけだった。


「…………」


ジジが歩き出す。


「……?」


ガイアの前まで行き、そのまま腕を回した。


「…………」


ガイアの身体が固まる。


「……おい」


返事をせず、強く抱きしめる。


「ジジ?」


いる。

ちゃんといる。


ガイアの身体は温かかった。

いつもの甘い匂いがする。

それだけで、妙に安心した。


「……苦しい」


「…………」


「何かあったのか?」


「……別に」


「別に、でこれやんの?」


「うるせぇ」


「…………」


ガイアはそれ以上聞かなかった。

しばらく、そのままでいた。


やがてジジが腕を緩める。

少し離れて、ガイアを見る。


「…………」


「何」


金色の目。

見慣れた顔。

銀色の髪。


帰ってきた。

ただそれだけなのに。


触れたい。

そう思った。


昨日とは違う。

泣いているわけでもない。

慰める理由もない。

それでも。


触れたかった。


ジジが顔を寄せる。


「……?」


唇が触れた。


「…………」


「…………」


ほんの一瞬。

離れる。


ガイアは動かなかった。

ジジも動かない。


「…………」


ガイアがゆっくり瞬きをした。


「……おい」


「…………」


「何してんだよ、お前」


ジジは答えない。

ガイアの眉が寄る。


「俺、薬草採ってただけなんだけど」


「……知ってる」


「今知っただろ」


「うるせぇ」


「何なんだよ」


ガイアはジジを見る。


昨日。

泣いている自分を抱きしめた。

涙を拭った。

額に口づけた。

あれは慰めだった。

けれど。


今のは違う。


「…………」


ガイアの表情が変わった。


「ジジ」


「何」


「俺がどう思うか、分かってやってる?」


「…………」


「分かってねぇだろ」


ジジは黙っていた。


ガイアが小さく息を吐く。


「やっぱ――」


「お前がどう思うかは分かんねぇ」


言葉が重なった。

ガイアが止まる。


「…………」


ジジはガイアを見ていた。


「でも」


「…………」


「俺は、お前としかしたくねぇ」


金色の目が僅かに見開かれた。


「…………」


「ガイアじゃなきゃ嫌だ」


ガイアは何も言わなかった。

少しして。


「……なんで?」


「…………」


「何で俺じゃなきゃ嫌なんだよ」


ジジの眉が寄る。


「分かんねぇよ」


「考えろ」


「何で今」


「今だからだよ」


「…………」


ジジは黙った。

目の前のガイアを見る。


金色の目が、自分を真っ直ぐ見ていた。


「…………」


不意に。

いくつもの顔が浮かんだ。


初めて会った頃の、不機嫌そうな顔。

魔物を前にして、煽るように笑う顔。

呆れたように眉を寄せる顔。

怒った顔。

眠そうな顔。

面倒くさそうにこちらを見る顔。

目を覚ました自分を見て、泣きながら笑っていた顔。


ルナリスを抱いて、柔らかく笑う顔。

眠っているルナリスの髪を、そっと撫でる顔。

何でもない話をしながら、隣で笑っている顔。


昨日。

見たことのない姿で立っていた顔。

そして。

自分の腕の中で、涙を流した顔。


「…………」


思い返せば、いくらでも出てくる。


そして、そのどの記憶にも。


ココナッツとプルメリアの香りがあった。

初めて会った、あの日からずっと。


「…………」


胸の奥にあったものが、ようやく一つの形になった。


帰ってきてほしかった。

顔を見たら、安心した。

抱きしめたかった。

触れたかった。

もっと近くにいたかった。


「…………」


ああ。

これが。


「……好き、なのか」


小さく零れた。

ガイアの目が僅かに見開かれる。


「…………」


ジジは自分の言葉を聞いていた。

初めて知った言葉のようだった。

なのに。


不思議なくらい、しっくりきた。


「…………」


もう一度、ガイアを見る。

その顔を見た瞬間。

胸の奥から、どうしようもなく溢れた。


「好きだ」


ガイアの目が柔らかくなる。


「うん」


「……好きだ」


ガイアがジジの首へ腕を回した。

引き寄せられる。

今度は、ガイアから唇が重なった。


「…………」


さっきとは違った。

触れただけではない。

ゆっくりと。

確かめるように。


ジジは目を閉じた。

胸の奥が熱い。

けれど、もう理由を探す必要はなかった。


唇が離れる。

近い距離で、ガイアを見る。


金色の目が、すぐそこにある。


「......ジジ」


「ん?」


「俺も好き」


ガイアが少しだけ笑った。

ガイアの顔を見ていたら、

どうしようもなくなった。


もう一度、腕を回す。

ガイアも抵抗しない。

そのままジジの胸元へ額を預けた。


「…………」


「ガイア」


「ん?」


「側にいて」


「いるよ」


「……ずっと」


「…………」


「いてくれ」


ガイアは笑っていた。


「分かったから。苦しい」


「……好きだ」


「急に覚えた言葉みたいに言うなよ」


「好きなんだからしょうがねぇだろ」


「はいはい」


「はいは一回」


「うるせぇな」


ジジは腕に少しだけ力を込めた。

ガイアの髪に顔を埋める。


ガイアも、離れようとはしなかった。


甘い香りに包まれる。

今まで何度も嗅いできた。

ずっと知っていた香りだった。

けれど今は。


それが少しだけ、違って感じた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。