ガレイヴィア
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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朝。
「今日、俺行かねぇから」
食事をしていたジジが顔を上げた。
「どこに?」
「ルナの訓練」
「なんで?」
「ちょっと用事ある」
ガイアはいつもと変わらない様子でパンを口へ運んだ。
ルナリスが隣から見る。
「どこ行くの?」
「ちょっとな」
「何しに?」
「用事」
「何の?」
「お前ら朝からうるせぇな」
「だって何の用事だよ」
「俺にだってあんだよ」
ジジが眉を寄せる。
「……まあ、いいけど」
「じゃあ聞くなよ」
「聞くだろ普通」
ルナリスも頷く。
「聞く」
「ルナまで乗っかんな」
「帰ってくる?」
「……帰ってくる」
「じゃあいい」
ルナリスはすぐ食事へ戻った。
ジジもそれ以上は聞かなかった。
「夕方には帰れよ」
「……ああ」
それだけだった。
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午前。
バインスの港。
船の出入りする桟橋からさらに離れ、人の姿もなくなった先。
切り立った岩場に波が打ち寄せていた。
ファルコが大きな身体を休めている。
その傍を、ガイアはさらに奥へ進み、洞窟へ入る。
岩壁の隙間へ手を入れる。
しばらく探り、奥に隠されていた包みを引き出した。
厚い布で幾重にも包まれている。
長い間そこに置かれていたものだった。
ガイアは岩の上へ腰を下ろした。
「…………」
紐を解く。
布を開く。
中から装束が現れた。
普段着ているものとはまるで違う。
丁寧に畳まれた布地。
装飾。
そして、いくつかの装身具。
ガイアはしばらく、それを見ていた。
「…………」
指先で布地に触れる。
ふっと、小さく笑った。
「……これに袖通す日が来るとはな」
ファルコが低く鳴く。
「何だよ」
もう一度、鳴く。
「うるせぇな」
ガイアは立ち上がった。
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しばらくして。
海面に映る姿は、いつものガイアとは違っていた。
長い銀髪は丁寧に整えられている。
腰まで伸びる髪には乱れ一つない。
身に纏っているのは、南の島に伝わる正装。
軽やかな布地を幾重にも重ね、海と風を思わせる装飾が施されている。
首元。
腕。
腰。
それぞれに身につけられた装身具も、普段のガイアが選ぶものとは違った。
ガイアは最後に、一つの飾りを手に取った。
「…………」
しばらく見つめる。
それを身につけた。
ファルコが立ち上がる。
大きな翼が開いた。
ガイアはその姿を見る。
「行くぞ」
ファルコが低く鳴いた。
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午後。
ルシーダ家。
「ここ」
アグラディアが紙の一節を指した。
ルナリスが覗き込む。
「……読めない」
「さっきも出てきたよ」
「忘れた」
「では、もう一度だね」
アグラディアが笑う。
机の上には、エルフ語で書かれた文章が置かれていた。
ルナリスは紙と睨み合っている。
その向かいにアグラディア。
少し離れた場所にはレグラスが座り、書類を読んでいた。
ジジはルナリスの後ろにいる。
「ジジ」
「ん」
ルナリスが振り返る。
「これ何?」
「自分で考えろ」
「分かんない」
「さっき教えてもらっただろ」
「忘れた」
「じゃあもう一回聞け」
アグラディアが苦笑する。
「ジジは厳しいね」
「すぐ教えたら覚えねぇだろ」
「それはそうだけれど」
ルナリスが再び紙を見る。
「…………」
指で文字を追う。
「……これ?」
「そう」
「こっちは?」
「それは――」
アグラディアが答えようとした時だった。
窓が鳴った。
「……?」
ジジが顔を上げる。
外で風が吹いている。
最初は、それだけだった。
だが。
次の瞬間。
木々が大きく揺れた。
「何だ?」
ジジが窓を見る。
風が強くなる。
庭の花が大きく傾いた。
枝葉が激しく擦れ合う。
机の上の紙が舞い上がる。
「わっ」
ルナリスが紙を押さえた。
「急にどうしたんだ」
アグラディアも窓へ目を向ける。
レグラスが立ち上がった。
「嵐か?」
ジジも立つ。
「さっきまで晴れてただろ」
再び、強い風。
窓が大きく鳴った。
その時。
ルナリスが顔を上げた。
「…………」
「ルナ?」
ルナリスは窓の外を見ている。
「ファルコ」
ジジが止まった。
「……は?」
ルナリスが立ち上がる。
「ファルコいる」
ジジが窓へ近づいた。
空を見る。
「…………」
巨大な影が、屋敷の上空を横切った。
「何であいつがここにいんだよ」
もう一度、影が横切る。
風が庭を駆け抜けた。
アグラディアも立ち上がる。
「ファルコということは……」
「ガイア?」
ジジが眉を寄せる。
レグラスが窓辺まで来た。
「外へ出よう」
四人は部屋を出た。
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庭へ出る。
風が強い。
上空をファルコが大きく旋回している。
「ファルコ!」
ルナリスが手を振った。
大きな鳴き声が返る。
ファルコが高度を落とし始めた。
翼を広げたまま、ゆっくりと庭へ近づいてくる。
風圧が強くなる。
「ルナ、こっち」
ジジがルナリスを自分の後ろへ寄せる。
ファルコが地面へ降りた。
巨大な翼が閉じる。
風が弱まっていく。
「…………」
ジジが目を細める。
ファルコの傍に、人がいる。
長い銀髪。
褐色の肌。
だが。
見慣れた姿ではなかった。
「…………?」
アグラディアが僅かに眉を寄せた。
レグラスも黙っている。
男がこちらへ歩いてくる。
姿がはっきりする。
整えられた銀髪。
見たことのない衣装。
装身具。
歩き方すら、普段とは違って見えた。
ジジが眉を寄せる。
「……ガイア?」
男が足を止めた。
「…………」
ルナリスがジジの横から顔を出す。
「ガイア?」
ガイアは答えなかった。
その視線はレグラスへ向けられている。
レグラスがガイアを見る。
衣装。
装身具。
そして――その身に示されたもの。
「…………」
レグラスの表情が変わった。
アグラディアがそれに気づく。
「父上?」
返事はない。
レグラスはただ、ガイアを見ていた。
やがて。
姿勢を正す。
「…………まさか」
小さな声だった。
ジジがレグラスを見る。
「何?」
レグラスは答えない。
ガイアが一歩前へ出た。
いつもの気怠げな立ち方ではなかった。
レグラスと正面から向き合う。
「改めて名乗る」
声も違った。
普段の荒い口調はない。
静かで、よく通る声だった。
「ヴァレイア島 ラハシェル族族長、ギルム・ラハシェルが一子――」
一度、言葉を切る。
「ガレイヴィア・イル=ネア・ラハシェル」
「…………」
アグラディアの顔から表情が消えた。
ジジはガイアを見ている。
ルナリスも、何も言わない。
レグラスだけが、すぐに動いた。
姿勢を改める。
深く頭を下げた。
「……御前とは知らず、これまでの非礼をお許しください」
「…………は?」
ジジの声が落ちた。
ガイアはそちらを見なかった。
アグラディアも遅れて姿勢を正し、頭を下げる。
ルナリスが二人を見る。
それからガイアを見る。
「…………?」
ジジも同じだった。
「……何?」
誰も答えない。
ガイアはレグラスを見据えたまま続けた。
「今日は一個人として来たわけではない」
「承知いたしました」
レグラスの声も、それまでとは明らかに違っていた。
ガイアが静かに告げる。
「ラハシェル族として、レグラス・ルシーダに話がある」
レグラスが頭を上げた。
「……謹んで、お受けいたします」
風が止んだ。
庭に静けさが戻る。
ジジはまだ、ガイアを見ていた。
見慣れたはずの男が。
まるで知らない誰かのように、そこに立っていた。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




