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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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163/216

それだけじゃない

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

数日後。

その日はルナリスの訓練もなかった。

朝からルナリスは児童所へ行き、ジジは鍛錬所へ出ている。


特に予定のなかったガイアは、昼を過ぎた頃にギルドへ顔を出した。

依頼掲示板の前に立つ。


上から下まで一通り眺めたあと、そのまま離れた。


「ガイア?」


声に振り返る。

事務所からマーサが出てきた。


「久しぶりね」


「そうだっけ?」


「そうよ。最近全然来ないじゃない」


「用ねぇし」


「冒険者がそれでいいの?」


「困ってねぇからいいんだよ」


マーサが呆れたように笑う。

ガイアは受付台へ寄りかかった。


「ルナリスは?」


「児童所」


「ジジは?」


「鍛錬所じゃねぇの」


「ああ、ここ寄らず直接行ったのね」


マーサは手元の書類へ視線を戻した。

ガイアはしばらくその様子を見ていた。


「なあ」


「何?」


「お前ら、休みの日とか遊ばねぇのな」


マーサの手が止まった。


「……誰と?」


「ジジ」


「…………」


「何だよ」


「いや。急にどうしたの?」


「別に」


ガイアは受付台に肘をつく。


「最近あいつ、ルナのことで忙しいだろ」


「まあ、そうね」


「訓練もあるし。休みの日も大体ルナといるし」


「そうね」


「たまには二人で出かけりゃいいのに」


マーサが顔を上げた。


「…………」


「何」


「何でもない」


再び書類へ視線を落とす。

ガイアも特に気にせず続けた。


「でも、良かったな」


「何が?」


「八年」


また、手が止まる。


「…………」


「ジジん家泊るなら、俺外泊してもいいし」


「…………」


「ルナも俺が見てりゃ――」


「ちょっと待って」


「何」


マーサがゆっくり顔を上げた。


「さっきから何の話してるの?」


「何って」


「…………」


「お前とジジ」


「それは分かってるわよ」


「じゃあ何だよ」


マーサは黙ってガイアを見る。


「……何」


「…………」


「気持ち悪ぃな」


「ガイア」


「ん?」


「あなた、私とジジがいい感じだと思ってる?」


「…………」


ガイアが眉を寄せる。


「……違うの?」


「…………」


マーサの口元が僅かに動いた。


「何だよ」


「別に」


「今笑っただろ」


「笑ってないわよ」


「笑ったじゃん」


「笑ってないって」


マーサは顔を逸らした。

肩が僅かに揺れる。


「おい」


「何よ」


「絶対笑ってんだろ」


「失礼ね」


「じゃあこっち向けよ」


「嫌よ」


「ほら笑ってんじゃん」


マーサは一度咳払いをして、眼鏡を直した。

何事もなかったように書類を揃える。


「ねえ、ガイア」


「何」


「じゃあジジに、次いつ空いてるか聞いといてよ」


「……俺が?」


「うん」


「自分で聞けよ」


「いいじゃない。会うでしょ?」


「まあ……」


「お願い」


「…………」


ガイアは怪訝そうにマーサを見た。


「何だよ」


「何が?」


「いや……」


マーサはにっこり笑う。


「よろしくね」


「……分かったよ」


「ありがとう」


ガイアは受付を離れた。

数歩進んでから、一度振り返る。

マーサはもう書類を見ていた。


「…………」


首を傾げ、そのままギルドを出た。


——————————————————————


夕方。

ジジとルナリスが帰ってきた。


「ただいま」


「ただいまー」


「おかえり」


ルナリスは荷物を置くと、奥へ向かった。

ジジが剣を壁へ立て掛ける。


「今日何してた?」


「暇だったからギルド行った」


「依頼?」


「見ただけ」


「暇ならなんか受けりゃよかったじゃん」


「ろくなのなかった」


「選り好みしすぎなんだよ」


「うるせぇ」


ガイアは椅子に座ったまま、ふと思い出した。


「そういや」


「ん?」


「マーサが、次いつ空いてるかって」


「何で?」


「知らねぇよ」


ジジが振り返る。


「何かあんの?」


「出かけんじゃねぇの?」


「誰と」


「お前と」


「……なんで?」


「なんでって……」


ガイアが眉を寄せる。


「とりあえず次いつ休み?」


「明後日」


「じゃあそう言っとく」


「何すんの?」


「知らねぇって」


「…………」


「ルナなら俺見てるから、ゆっくりしてこいよ」


「……なんで?」


「お前、今日なんでしか言わねぇな」


「だって何で俺がマーサと出かけんだよ」


ガイアがジジを見る。


「いい感じなら出かけんのくらい普通だろ」


「…………は?」


「…………は?」


二人とも黙った。


「誰と誰が?」


「お前とマーサ」


「……俺とマーサそんなんじゃねぇけど」


「…………」


「…………」


「は?」


「なんもねぇよ」


「……でもお前ら、家……」


「家?」


「前、一緒に入ってっただろ」


ジジが眉を寄せる。


「…………?」


「お前が死にかけた後だよ」


「…………?」


本気で覚えていない顔だった。

ガイアが眉を寄せる。


「マーサと二人で、お前ん家入ってっただろ」


「……そうだっけ」


「そうだよ」


「…………」


ジジはしばらく考えていた。


「……分かんねぇ」


「は?」


「覚えてねぇ」


「…………」


「最後にマーサがここ来たのは……」


ジジが少し考える。


「……確か、マーサが俺のこと好きって言った時だぞ」


「…………?」


ガイアが止まった。


「…………」


「何」


「……やっぱ告白されてんじゃん」


「まあ」


「聞いてねぇぞ」


「言ってねぇもん」


「何で言わねぇんだよ」


「何でお前に言うんだよ」


「…………」


「…………」


「……まあ、それはそうだけど」


ガイアが一度、口元を押さえた。


「じゃあやっぱ――」


「何もねぇぞ」


「何で」


「返事いらねぇって言われたから」


「……は?」


「八年好きだったって」


「それは知ってる」


「でも、その八年をなかったことにはしたくないから、

 気持ちだけ伝えたかったって」


「…………」


「だから何もねぇよ」


ガイアは黙った。


ジジは剣帯を外しながら続ける。


「あとなんか言ってたな」


「……何」


「『特別な奴が、いつまでもそばにいると思うな』って」


ガイアの目が止まった。


「…………」


「何?」


「それ、いつ言われた?」


「だから、マーサが最後にうち来た時」


「いつだよ」


「お前が東行くってなる前」


「…………」


数秒。


「……で」


「ん?」


ガイアがゆっくりジジを見る。


「マーサにそれ言われて?」


「港行った」


「…………」


「何?」


あまりにも普通に答えた。

ガイアが額へ手を当てる。


「…………」


「何だよ」


「…………あいつ」


「誰?」


「マーサ」


「何で?」


昼間の顔が浮かぶ。

――あなた、私とジジがいい感じだと思ってる?

笑いを堪えるように逸らされた顔。


そして。

――じゃあジジに、次いつ空いてるか聞いといてよ。


「……わざとかよ」


「何が?」


「お前はもういい」


「何でだよ」


「いいから」


「意味分かんねぇ」


「俺も今分かったんだよ!」


奥からルナリスが顔を出した。


「喧嘩してるの?」


「してねぇよ」


二人の声が重なった。

ルナリスが交互に二人を見る。


「じゃあご飯は?」


「今それ?」


「お腹すいた」


ジジが息を吐く。


「……作るか」


「ルナもやる」


「包丁触んなよ」


「分かってる」


二人が台所へ向かう。

ガイアは椅子に残った。


「…………」


しばらくして、小さく舌打ちする。


「……覚えとけよ、マーサ」


——————————————————————


夜。


ルナリスが眠ったあとも、ジジとガイアは居間に残っていた。


「で、何でマーサがお前に聞かせたんだ?」


「知らねぇよ」


「自分で聞けばいいじゃん」


「だから、わざとだったんだよ」


「何が?」


「…………」


ガイアが細い目でジジを見る。


「お前、ほんっと分かんねぇんだな」


「何がだよ」


「もういい」


「さっきからそればっかじゃねぇか」


ジジは椅子の背にもたれた。


「でも、マーサとは何もねぇぞ」


「それはもう分かったよ」


「八年も好きだったって言われた時は、びっくりしたけど」


「気づいてなかったもんな、お前」


「全然」


「知ってる」


「何でお前が知ってんだよ」


「見てりゃ分かんだろ」


「分かんなかったけど」


「お前はな」


ガイアが呆れたように息を吐く。

少しの沈黙。


「……でも」


ジジが口を開いた。


「ん?」


「あの時マーサが言ってくれたから、港行けたかも」


ガイアがジジを見る。


「わかんねぇけど」


「…………」


「お前、俺には何も言わずバルトには言ってるし」


ジジは何でもないことのように続けた。


「だから行った」


「…………」


「行ってなかったら後悔してた」


「……そ」


ガイアはそれだけ答えた。

ジジにとっては、それで話は終わったらしい。

しばらくして立ち上がる。


「寝る」


「ああ」


「お前は?」


「もうちょいしたら寝る」


「ん」


ジジが寝室へ向かう。

扉が閉まった。

ガイアはしばらくそのまま座っていた。


「…………」


やがて立ち上がり、庭へ出る。

夜風が銀髪を揺らした。


庭には、ルナリスが咲かせた花が残っている。

ガイアはその前で足を止めた。


「…………」


運河の水面に浮かんだ月虹。

それを見て、目を輝かせていたルナリス。

訓練所で、咲きかけた花を前に何度も息を整えていた姿。

そして。


数日前の草原。

空を駆けるファルコ。

白銀の風。

それを追いかけて走るルナリス。

笑い声。


足元いっぱいに咲いた花。

――止めた方がいい?


「…………」


ガイアはしゃがみ込んだ。

指先で花に触れる。

あの時。


誰も止めなかった。

ルナリスは、それから一度も聞かなかった。

ただ笑っていた。


――でも、俺たちに出来ることは、それだけじゃん。

以前この庭で言ったジジの声が蘇る。


「…………」


ガイアは長く息を吐いた。

風に花が揺れる。

しばらく、そのまま見つめていた。


やがて、指先が花から離れる。


「……それだけじゃねぇよ」


小さな声が落ちた。

夜風が、庭の花を揺らした。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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