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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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161/216

月の下で

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

数日後。

アグラディアから、次の訓練は夕方から来てほしいと連絡があった。


いつもより遅い時間だった。

ジジはルナリスを連れ、ガイアと共にルシーダ家へ向かった。


着いた頃には、すでに日は傾き始めていた。

庭にはアグラディアとレグラスが待っている。


「遅いね、今日」


ルナリスが空を見上げた。


「今日は少し、確かめたいことがあるんだ」


アグラディアが答える。


「何?」


「ルナリスの力が、時間によって変わるのかもしれない」


「時間?」


「うん」


ルナリスはよく分からないまま、アグラディアを見る。

ジジが口を開いた。


「何かあったのか?」


「ここ何回かの記録を見直していてね」


アグラディアが手元の紙を開いた。


「遅い時間まで訓練した日は、ルナリスの力が少し強く出ている」


ガイアが庭の椅子へ腰を下ろす。


「夜の方が強いってこと?」


「まだ分からない」


レグラスが答えた。


「偶然という可能性もある」


「だから今日、確かめんの?」


「そういうことだ」


ルナリスがレグラスを見る。


「おじさんも分かんないの?」


「だから調べる」


「ふーん」


ルナリスは納得したのかしていないのか、そのまま庭へ歩いていった。

いつもと同じように訓練が始まった。


日の残っているうちは、特に変わったことはなかった。

花が反応する。

ルナリスが落ち着かせる。

それ以上は開かない。


アグラディアは何度か条件を変えながら記録を取っていた。

やがて日が沈んだ。

空が暗くなっていく。

それでも、大きな変化はない。


「……普通じゃね?」


ジジが言った。


「今のところはね」


アグラディアが空を見る。

東の空には、すでに月が昇り始めていた。

しばらくして。


「ルナリス、もう一度やってみようか」


「うん」


ルナリスが花壇の前にしゃがむ。

先ほどと同じ花。

同じ距離。


アグラディアが少し離れた場所から声をかける。


「今日は終わったら、お菓子にしようか」


「ほんと?」


ルナリスが振り返った。


「うん」


「やった!」


その瞬間。

花壇の蕾が、一斉に開いた。


「…………」


ジジが黙る。

ガイアも庭を見る。

ルナリスが目を丸くした。


「あれ?」


一輪や二輪ではない。


先ほどまで閉じていた蕾が、ほとんど同時に開いている。

少し離れた場所の花まで揺れていた。


「ルナリス」


アグラディアが呼ぶ。


「いつも通りでいいよ」


「……うん」


ルナリスが花へ向き直る。


「お花さん、大丈夫だよ」


一度、息を吐く。

揺れていた花が静かになる。

だが、昼間より時間がかかった。


アグラディアが記録を書き込む。

レグラスは庭を見たあと、空へ目を向けた。

月が出ていた。


「…………」


ガイアも同じ方を見る。


「やっぱ夜?」


「まだ分からない」


アグラディアが答えた。


「もう少し見たい」


——————————————————————


次の訓練も、夕方から行われた。

その日は朝から雲が多かった。


日が沈んでも、空は厚い雲に覆われている。

月は見えなかった。

前回と同じ時間。

同じ場所。


できる限り同じ条件で、ルナリスの様子を見る。


「終わったらお菓子?」


「今日はないよ」


「なんで?」


「毎回あげてたら訓練にならないだろ」


ジジが言う。


「えー」


「家帰ったらなんか食えばいいだろ」


「じゃあプリン」


「ねぇよ」


「買って」


「はいはい」


「はいは一回」


ガイアが横で吹き出した。


「ルナそれ誰に教わったんだよ」


「ドーラ」


「だろうな」


ルナリスが笑う。

花壇の花が揺れた。

数輪が開く。

だが。


前回とは違った。


「……あれ」


アグラディアが記録を見る。

レグラスも庭を見ていた。


夜ではある。

ルナリスも今、明らかに喜んだ。

それでも、前回ほどの反応はない。


「弱いな」


ガイアが言った。


「うん」


アグラディアが空を見る。

雲の向こうに月があるはずだった。


「夜だから、というだけじゃないのかもしれない」


レグラスが言った。


「僕もそう思います」


「じゃあ何?」


ルナリスが聞く。

アグラディアは答えず、空を見た。


——————————————————————


それから、訓練の時間が何度か変わった。

日中。

夕方。

日没直後。

月の出る夜。

雲に覆われた夜。


できる限り同じ条件で、ルナリスの反応を記録した。

結果には、明らかな差があった。


夜であれば必ず強くなるわけではない。

晴れていても、ほとんど変化のない日もあった。


そして新月の日。

日が沈んでから、いつもと同じように訓練を行った。


ルナリスが笑う。

花が反応する。

だが、それだけだった。

昼間と大きく変わらない。


アグラディアは記録を見つめていた。

隣ではレグラスも同じ紙を見ている。


「…………」


「どう?」


ルナリスが聞く。


「もう少し」


「また?」


「もう少しだけね」


「ずっとそれ言ってる」


「調べるってそういうもんだ」


ガイアが言った。


「めんどくさいね」


「めんどくせぇよ」


「ガイアもやったことある?」


「ねぇよ」


「じゃあ分かんないじゃん」


「…………」


ジジが鼻で笑った。


「負けてんじゃん」


「うるせぇよ」


——————————————————————


さらに数日が経った。

その夜は、空がよく晴れていた。

月が高く昇っている。


ルナリスが庭へ出る。


「今日は何するの?」


「いつもと同じだよ」


「また?」


「また」


ルナリスは少し頬を膨らませながら、花壇の前へ行った。


アグラディアはこれまでの記録を手にしている。

レグラスも隣に立っていた。


ジジとガイアは少し離れた場所から見ている。

しばらくして。


アグラディアがルナリスへ声をかけた。


「今日はこれで終わりにしようか」


「ほんと?」


「うん」


「やった!」


ぱっと顔が明るくなる。


同時に。

庭の花が一斉に開いた。

足元から。

花壇。

その向こう。


少し離れた木の枝にまで、小さな花が開く。

ルナリスの白い髪が、月明かりの中で碧色へ変わっていく。


風もないのに、葉が揺れた。

小さな光がいくつも集まってくる。


「…………」


誰も声を出さなかった。

これまでで一番強い。


ルナリスが周囲を見る。


「……いっぱい来た」


アグラディアは答えなかった。

手元の記録を見る。


月が出ていた日。

曇っていた日。

新月。

日中。

夕方。

そして、今夜。


レグラスが空を見上げた。

アグラディアも同じように顔を上げる。

月が庭を照らしている。


「……月」


アグラディアが呟いた。

ガイアが振り返る。


「月?」


「たぶん」


アグラディアはもう一度、記録へ目を落とした。


「夜じゃない」


レグラスが静かに言う。


「ああ」


「月が出ている時に、ルナリスの力が強くなっている」


ジジも月を見上げる。


「なんで?」


「分からない」


アグラディアが答えた。


「レジーナの記録には?」


レグラスが聞く。


「ない」


アグラディアは首を振った。


「少なくとも、僕がこれまで調べた資料には、

 月と力の強さに関する記述はなかった」


「姉からも、そのような話を聞いたことはない」


レグラスが言う。


「じゃあ何なんだよ」


ジジが月を見る。

答える者はいなかった。


「ルナ、月で強くなるの?」


ルナリスが聞く。


「今のところは、そう見えるね」


「なんで?」


「それを今から調べるんだよ」


「また?」


「また」


「大変だね」


アグラディアが少し笑った。


「ルナリスのことだからね」


「ルナも手伝う?」


「もちろん」


「じゃあいいよ」


ルナリスはそう言って、空を見上げた。

月が浮かんでいる。


「……きれい」


その声と同時に。

庭の奥で、また一輪。

白い花が開いた。

ルナリスがそれを見つける。


「あ」


少しだけ迷ってから、アグラディアを見る。

アグラディアは頷いた。


「ここなら大丈夫だよ」


ルナリスの顔が明るくなる。


「うん!」


花へ駆け寄っていく。

その後ろ姿を、四人が見ていた。


月明かりの下で、いくつもの花が揺れている。

レグラスとアグラディアは、再び記録へ目を落とした。


ジジは月を見上げていた。

ガイアは何も言わず、花の中にしゃがみ込んだルナリスを見ていた。


今夜分かったのは、一つだけだった。

ルナリスの力は、月が出ている時に強くなる。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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