↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

160/216

咲いていい場所

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

ルナリスの訓練が始まってから、二か月ほどが過ぎた。

週に三度、ルシーダ家へ通う生活にも、すっかり慣れていた。


最初の頃は、少し嬉しくなるだけでいくつもの花が開いた。

一つを止めようとしている間に別の花が咲き、

そちらへ気を取られれば、また別の場所で蕾が開いた。


それも、少しずつ減っていった。


今では外を歩いている時に花が反応しても、

ほとんど咲かせることなく落ち着かせられる。


精霊が集まってきた時にも、以前ほど力が大きく動くことはなくなった。

エルフ語も少しずつ覚えている。

精霊について学ぶ時間も増えた。


古エルフ語だけは相変わらず難しいらしく、

その勉強がある日は朝から少しだけ口数が減った。

それでも休むとは言わなかった。


アグラディアとレグラスも、訓練は順調だと話している。

ジジも毎回付き添った。

ガイアも変わらず一緒に通っていた。


二か月前とは違う。

ルナリスは、自分の力を少しずつ扱えるようになっていた。


——————————————————————


夜。


家の中は静かだった。

ルナリスはすでに眠っている。


ジジは水を飲もうと寝室を出た。

居間に入る。

灯りは消えていた。


「…………」


ガイアの姿がない。

台所にもいない。

ジジは窓の方を見る。

庭先に人影があった。


長い銀髪が、月明かりを受けて白く浮かんでいる。

ジジは窓を開けた。


夜の冷えた空気が入ってくる。


「何してんの?」


ガイアが振り返った。


「……別に」


「寝ねぇの?」


「あとで寝る」


ジジはそのまま庭へ出た。

ガイアは花壇の前にしゃがんでいた。

その前に、白い花がいくつも咲いている。


ティアレ。

ガイアがこの家へ来てから植えた花だった。


ジジも隣まで歩き、同じようにしゃがむ。


「これ」


「ああ」


「ルナ?」


「多分な」


ジジが花を見る。


ルシーダ家の庭。

そして、この家の庭。


その二か所では、ルナリスは花を好きに咲かせていいことになっている。

力を抑える必要もない。

嬉しい時には、そのまま喜んでいい。


アグラディアが最初に決めたことだった。

ジジは一輪の花へ手を伸ばした。


「これ、お前が植えたやつだよな」


「ああ」


「結構増えたな」


「ルナが咲かせるからな」


「そりゃ増えるわ」


ガイアが少し笑った。


白い花が夜風に揺れる。


「これ、故郷の花?」


ジジが聞いた。


「ああ」


「前言ってたやつ?」


「そう」


ガイアが花弁に触れる。


「向こうじゃ珍しくもねぇよ」


「へぇ」


「そこら中に咲いてる」


「じゃあ、こっちじゃ育てんの大変なんじゃねぇの?」


「まあな」


「育ってんじゃん」


「ルナのおかげだろ」


「そっか」


会話が途切れる。

庭には、ティアレの甘い香りが漂っていた。

ジジはしばらく花を眺めていた。


「ルナ、上手くなったよな」


ガイアが言った。


「ああ」


「最近、外じゃほとんど咲かせなくなった」


「な」


「この前も止めてたし」


「アグラディアも順調だって言ってた」


「…………」


ガイアはティアレを見ていた。


「精霊のことも、結構分かるようになってきたんじゃねぇの?」


「そうだな」


「エルフ語も喋るようになったし」


「まだ変だけどな」


「最初より全然いいだろ」


「まあな」


ジジが笑う。

ガイアも僅かに笑った。


「…………」


また、静かになる。

ジジが横を見る。

ガイアはまだティアレを見ていた。


「何?」


「ん?」


「さっきから」


「何が」


「なんかあんの?」


「…………」


ガイアの指が、白い花弁に触れる。


「いや……」


「…………」


「上手くなったなって」


「それ今言ってたじゃん」


「そうだけど」


ジジは少しの間ガイアを見ていた。


「……何だよ」


「…………」


ガイアは花から手を離した。


「ルナさ」


「ん」


「外にいる時、周り見るようになっただろ」


ジジの目がガイアへ向く。


「周り?」


「花が反応した時」


「ああ」


「前はそのまま喜んでたじゃん」


「…………」


「今は先に周り見てる」


ジジは何も言わなかった。

ガイアが続ける。


「人がいるか見て。それから止めてる」


「……まあ」


「…………」


「それが訓練だろ」


「分かってる」


ガイアはすぐに答えた。


「必要なのも分かってるよ」


「…………」


「力使いすぎて身体に何かあっても困るし」


「ああ」


「外で好きに咲かせて、また変なのに知られんのも嫌だし」


「アグラディアもレグラスも、ルナのためにやってんのは分かってる」


「うん」


「俺だって、自分で止められるようになった方がいいと思ってる」


「…………」


ガイアは一度言葉を切った。

目の前には、白いティアレが咲いている。


「でも」


「ん?」


「好きに咲かせていいの、二つだけなんだなって」


ジジがガイアを見る。


「……こことうち?」


「ここがうちだろ」


「あ」


「寝ぼけてんの?」


「うるせぇな」


ジジが眉を寄せる。

ガイアが小さく笑った。


「ここ。それとレグラスんとこ」


「ああ」


「二つだけ」


「…………」


ジジも花へ視線を戻した。


「少ねぇなって」


「…………」


「それだけ」


夜風が庭を抜ける。

ティアレが揺れた。

ジジはしばらく黙っていた。


「……でも」


「ん?」


「俺たちに出来ることは、それだけじゃん」


ガイアの指が止まった。


「…………」


ジジは花を見ている。


「外でも好きにやらせてやりてぇけど」


「…………」


「それでまたルナのこと知られて、

 連れてこうとする奴が出てきたら意味ねぇし」


「……まあ」


「だったら、ここでは好きにさせてやって」


ジジは一輪のティアレを指先で軽く揺らした。


「外じゃ、自分で止められるようにするしかねぇだろ」


「…………」


「俺には、それくらいしか思いつかねぇ」


ガイアは何も言わなかった。

ジジが横を見る。


「ガイア?」


「…………」


少しして、ガイアが顔を上げた。


「……そうだな」


「ん」


それ以上、会話は続かなかった。

月明かりの下で、白い花が静かに揺れている。

しばらくして、ジジが立ち上がった。


「寒くなってきた」


「うん」


「入ろうぜ」


「……先入ってて」


ジジがガイアを見る。


「まだいんの?」


「もうちょい」


「そ」


ジジはそれ以上聞かなかった。

庭を横切り、家へ戻っていく。

扉が閉まった。


庭にはガイアだけが残った。


「…………」


ガイアは再びティアレを見る。

白い花弁に手を伸ばす。


触れる直前で、指が止まった。


「……俺たち、か」


小さな声が落ちる。

風が吹いた。

銀色の髪が揺れる。


ガイアはしばらく動かなかった。

やがて立ち上がる。


何も言わず、家へ戻った。

庭には白い花だけが残った。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。