ひとつずつ
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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それから、ルナリスの訓練は週に三度行われるようになった。
火曜、木曜、土曜。
場所は主にルシーダ家の庭。
午前中は精霊や力の扱い方を学び、休憩を挟んだ後は室内で勉強をする。
ジジは毎回付き添った。
ガイアも、最初の日にジジから頼まれて以来、一緒に来ている。
「お花さん、大丈夫だよ」
庭の中央。
ルナリスが一つの蕾を見つめていた。
その周囲には、淡い光を纏った精霊たちが浮かんでいる。
「…………」
蕾が小さく揺れた。
少し膨らむ。
ルナリスはそのまま見つめる。
「大丈夫」
花弁が僅かに覗いた。
それでも、開かない。
「…………」
ルナリスが振り返った。
「アグラディア」
「うん」
「できた?」
アグラディアは蕾を見る。
「できたね」
「ほんと?」
「ああ」
ルナリスの顔が明るくなる。
「ジジ!」
「見てた」
少し離れた場所に座っていたジジが答える。
「今日は一個も咲いてねぇじゃん」
「うん!」
「上手くなったな」
「うん!」
ルナリスが笑う。
その瞬間。
反対側にあった花が、ぱっと開いた。
「…………」
ルナリスがそちらを見る。
ジジも見る。
「一個咲いたな」
「……うん」
「まあ、一個だろ」
ルナリスはすぐに花へ向き直った。
「お花さん、大丈夫だよ」
その隣の蕾が揺れる。
今度は開かなかった。
「止まった!」
「ああ」
「ガイア!」
庭の端にいたガイアが顔を上げる。
「見てたよ」
「できた!」
「上手くなったじゃん」
ルナリスは嬉しそうに笑った。
精霊たちが、その周囲をくるくると飛び回る。
数日前までは、そのまま庭中の花が開いていた。
今は違う。
喜びに反応して力が動いても、
少しずつ自分で落ち着かせられるようになっていた。
アグラディアは手元の紙へ記録を残す。
「今日はここまでにしようか」
「もう終わり?」
「朝からずっとやっているからね」
「ルナまだできるよ」
「できても休む」
ジジが言った。
「疲れてからじゃ遅ぇだろ」
「疲れてないよ?」
「今はな」
ルナリスが少し頬を膨らませる。
「もう一回だけ」
「駄目」
「一回」
「駄目」
「…………」
ルナリスはガイアを見る。
ガイアもルナリスを見る。
「俺見ても駄目だよ」
「まだ何も言ってない」
「顔に書いてある」
「…………」
「今日は終わり」
「ガイアもジジと同じこと言う」
「そりゃそうだろ」
ルナリスは不満そうな顔をしたが、それ以上は言わなかった。
「じゃあ、勉強?」
「そうだね」
アグラディアが答える。
「今日は精霊について続きをやろう」
「古エルフ語じゃない?」
「古エルフ語もやるよ」
「…………」
「嫌そうだな」
ガイアが笑う。
「だって難しい」
「ジジも分かんねぇから安心しろ」
「安心しない」
「何でだよ」
ジジが即答した。
ルナリスはアグラディアの後について屋敷へ向かった。
ジジとガイアもその後を歩く。
庭には、一輪だけ新しく咲いた花が残っていた。
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室内の机には、何冊かの本が置かれていた。
ルナリスは椅子に座り、その隣にはジジ。
ガイアは向かい側に座っている。
アグラディアが一冊の本を開いた。
描かれているのは、精霊とエルフだった。
「前にも話したけれど、エルフの多くは精霊と契約を結ぶ」
「うん」
「でも、どの精霊とでも契約できるわけじゃない」
「なんで?」
「相性があるからだよ」
ルナリスが首を傾げる。
「相性?」
「ああ。エルフが精霊を選ぶだけじゃない。精霊も相手を選ぶ」
「精霊さんが嫌だったら?」
「契約できない」
「じゃあ無理やりは?」
「できないよ」
「…………」
ルナリスは少し考える。
「じゃあ、お友達と同じ?」
アグラディアが僅かに笑った。
「そう考えてもいいかもしれないね」
「仲良くなったら一緒にいるの?」
「そう、一緒に居られるよ」
ルナリスは自分の周りを見た。
庭からついてきた精霊が一つ、窓際に浮かんでいる。
「この子は?」
「ルナリスとは契約していないね」
「でもいるよ?」
「いるね」
「なんで?」
アグラディアは少し黙った。
レグラスが窓際の精霊を見る。
「それを、これから調べていく」
ルナリスがレグラスを見る。
「レジーナの周囲にいた精霊たちも、契約によって集まっていたわけではない」
「ママも一緒?」
「だが、同じと決めるのはまだ早い」
「そっか」
ルナリスは再び精霊を見る。
小さな光が、窓辺でゆっくり揺れていた。
「次」
アグラディアが別の本を開く。
ルナリスの顔が僅かに曇った。
「まだある?」
「あるよ」
「いっぱい?」
「今日はまだあるね」
「…………」
ガイアが笑った。
「頑張れ」
「ガイアもやって」
「何で俺が」
「一緒に勉強する」
「俺はもう勉強終わってんだよ」
「ケチ」
「…………」
ジジが横で吹き出した。
「ぶはっ」
「お前笑うなよ」
ルナリスが二人を見る。
「じゃあ二人ともやる?」
「やらねぇ」
「やらない」
声が重なった。
ルナリスが笑う。
アグラディアは本の頁を捲った。
「では、ルナリスだけ続きをやろうか」
「はーい」
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古エルフ語の勉強が終わる頃には、窓から入る光が少し傾いていた。
ルナリスは机に伏せている。
「疲れた……」
「よく頑張ったね」
アグラディアが本を閉じる。
「今日はここまで」
「終わり?」
「ああ」
ルナリスがすぐに身体を起こした。
「帰る!」
「急に元気だな」
ガイアが言う。
ジジも立ち上がった。
「腹減ったんだろ」
「減った」
「何食いたい?」
「お肉」
「また?」
「お肉好き」
「知ってる」
ルナリスは椅子から降りた。
その時。
窓際にいた精霊が、ルナリスの肩の近くまで飛んでくる。
「一緒に帰る?」
ルナリスが尋ねる。
精霊は答えない。
ただ、その周りを一度回った。
ルナリスが笑う。
「帰ろ」
精霊はそのまま後をついていった。
ガイアがその様子を見る。
「……ついてくんの?」
アグラディアも精霊を見る。
「そうみたいだね。
今のところは、ルナリスの感情に惹かれていると考えている」
ガイアが精霊を見る。
「へぇ……」
玄関へ向かうルナリスの後を、小さな光が追っていく。
ジジが振り返る。
「ガイア、帰るぞ」
「ああ」
ガイアも立ち上がった。
——————————————————————
帰り道。
ルナリスはジジとガイアの間を歩いていた。
その少し上を、精霊が一つ飛んでいる。
「今日、一個しか咲かなかった」
「最初の日全部咲いてたんだから上出来だろ」
ジジが言う。
「次は一個も咲かないようにする」
ルナリスが答える。
ガイアがルナリスを見る。
「別に咲いてもいいんだぞ」
「でも練習だから」
「まあ、そうだけど。
アグラディアも、咲いちゃ駄目って言ってないだろ」
「うん。でもルナができるようになりたいの」
「そっか」
ガイアはそれ以上言わなかった。
ルナリスは前を向いて歩いている。
「次はいつ?」
「明後日」
ジジが答える。
「明後日もガイア来る?」
ルナリスが尋ねる。
「ああ」
「ガイアずっと一緒?」
「…一緒」
「やった!」
ルナリスが笑った。
頭上を飛んでいた精霊が、小さく揺れる。
道端に生えていた草の先から、小さな花が開いた。
「あ」
ルナリスが足を止めた。
花を見る。
「…………」
それから、近くにある他の蕾へ視線を移した。
「お花さん、大丈夫だよ」
蕾は開かなかった。
「できた」
「できたな」
ジジが言う。
ルナリスは嬉しそうに頷いた。
「うん」
三人は再び歩き始めた。
ガイアは一度だけ、道端に咲いた花を振り返った。
すぐに前へ向き直る。
その日は、それだけだった。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




