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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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158/216

嬉しいままで

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

朝。


居間には、焼いたパンの匂いが残っていた。

ルナリスは椅子に座り、両手でカップを持っている。


その向かいでは、ガイアが長い銀髪を片側へ寄せながらパンを食べていた。

ジジは食器を片付けながら、ふとガイアを見る。


「なぁ」


「ん」


「今日、暇?」


ガイアが顔を上げる。


「まあ。特に予定ねぇけど」


「じゃあ、ルナの訓練、お前にも来てほしい」


「…………」


ガイアの手が止まった。


「……なんで?」


「んー……」


ジジは皿を重ねる。


「俺、精霊とか分かんねぇから」


「…………」


「レグラスとアグラディアの話聞いても、分かんねぇことあるだろうし」


少し考える。


「お前から見てどうかっていうか……」


また止まる。


「なんていうか……」


ガイアは黙ってジジを見ていた。


「…………」


「まあ、いいや。来てくれ」


「最後雑すぎんだろ」


「じゃあいい」


「行くよ」


ジジが振り返る。


「来んの?」


「来てほしいって言ったのお前だろ」


「そうだけど」


「じゃあ聞くなよ」


ガイアは残っていたパンを口へ入れた。


「一緒に行く」


「そ」


ジジはそれ以上何も言わなかった。

ルナリスがカップから顔を上げる。


「ガイアも来るの?」


「行くよ」


「やった!」


ガイアが笑う。


「何すんのか見ててやる」


「うん!」


ジジは重ねた皿を持ち上げた。


「食ったら準備しろよ」


「はーい」


「お前も」


「分かってるよ」


三人の朝食が終わった。


——————————————————————


午前。


三人はエルフ居住区にあるルシーダ家を訪れた。

庭には朝の日差しが差し込み、植えられた草花が風に揺れている。


ルナリスは庭へ出ると、周囲を見回した。


「ここでやるの?」


「ああ」


アグラディアが答える。


「まずはここから始めようと思っている」


「うん」


ジジとガイアは少し離れた場所に並んで立っていた。

その前にはレグラスもいる。


今日から、ルナリスの訓練が始まる。


「始める前に、ルナリスには自分の力について知ってもらいたい」


「ルナの力?」


「ああ」


ルナリスがアグラディアを見る。


「これまでにも、嬉しい時に不思議なことが起きたことがあったね」


「……お花?」


「そうだね」


アグラディアが頷く。


「花が咲いたり、周りの精霊がいつもと違う動きをしたりした」


ルナリスは少し考えてから頷いた。

レグラスが口を開く。


「通常、エルフは特定の精霊と契約を結ぶ」


ルナリスがレグラスを見る。


「契約?」


「ああ。契約した精霊と共に生き、その力を借りる」


「…………」


「だが、レジーナは違った」


「ママ?」


「ああ」


レグラスは頷く。


「レジーナは、特定の精霊と契約を結んでいなかった」


ジジとガイアも黙って話を聞いている。


「それでも、精霊はレジーナのもとへ集まった。命令されたからではない。

 精霊自身がレジーナを選び、その意思や感情に応えていた」


ルナリスはじっとレグラスを見ている。


「そのようなエルフは極めて稀だ」


レグラスが続ける。


「それ故、レジーナは精霊の守護神と呼ばれていた」


「…………」


ルナリスは自分の胸元へ手を置いた。


「ルナも?」


「その可能性はある」


レグラスが答える。


「だが、まだ分からないことも多い」


アグラディアが頷く。


「だから、これから一つずつ調べていこう」


「うん」


「ルナリスがどんな時に精霊と繋がるのか。

 どのくらいの力を使えるのか。

 そして、その力をどう扱えばいいのか」


「扱う?」


「そう」


アグラディアは庭へ目を向けた。


「まず、何か嬉しかったことを思い出してみようか」


「嬉しかったこと?」


「何でもいいよ」


ルナリスが考える。

しばらくして、顔を上げた。


「昨日ね」


「うん」


「ガイアの髪、いっぱい三つ編みにした」


ガイアがルナリスを見る。

ジジも横を見る。


「やっぱりルナだったのか」


「何が?」


「朝、こいつの髪変なことになってた」


「変って言うなよ」


「途中だったの!」


ルナリスがガイアを見る。


「ガイア寝ちゃったから」


「眠かったんだよ」


「まだいっぱい作りたかった」


「またやればいいじゃん」


「いいの?」


「いいよ」


ルナリスが笑った。


「やった!」


その時。

ルナリスの足元で、まだ閉じていた蕾が一つ開いた。

続いて、その隣。

さらにもう一つ。


「わ……」


ルナリスが足元を見る。

周囲に小さな光が現れた。

庭にいた精霊たちが、ルナリスの近くへ集まってくる。


アグラディアがその様子を見る。


「やはり、喜びの感情への反応が強いようだね」


レグラスも精霊たちへ目を向ける。

ルナリスが笑うと、さらにいくつかの蕾が開いた。


「精霊さんもいる!」


「そうだね」


「お花もいっぱい!」


ルナリスが嬉しそうに辺りを見る。

その間にも花は増えていった。

アグラディアが声をかける。


「ルナリス」


「なに?」


「花が一気に咲くとね、周りの人はとても驚いてしまうんだ」


ルナリスが咲いた花を見る。


「…………」


少しして、アグラディアへ顔を向けた。


「……お花、咲かせちゃいけないの?」


「そんなことはないよ」


アグラディアは首を振った。


「花を咲かせることは悪いことじゃない」


「じゃあ、いいの?」


「うん」


「…………」


「ただね」


アグラディアが庭を見渡す。


「花をいっぱい咲かせていい場所を、決めた方がいいかなと思うんだ」


ルナリスが首を傾げた。


「……どこならいいの?」


「ここの庭」


アグラディアが答える。


「ここなら大丈夫だよ。それから……」


ジジを見る。


「ルナリスのおうちかな」


ルナリスもジジを見る。


「おうちもいい?」


「ああ」


「いっぱい咲かせても?」


「庭なら好きにしろ」


「ほんと?」


「いいって」


ルナリスの顔が明るくなる。


「やった!」


庭の端にあった蕾が一斉に膨らんだ。


「…………」


ルナリスがそちらを見る。


「あ」


アグラディアも視線を向ける。


「今度は、あの花を見てみようか」


「うん」


「咲いちゃ駄目、と思わなくていいよ」


「……?」


「今はまだ大丈夫だよって、伝えてみよう」


ルナリスは蕾を見る。


「お花さんに?」


「そうだよ」


「どうやって?」


「言葉にしてもいいし、心の中でもいい。

 まずはルナリスが落ち着いてみよう」


「…………」


ルナリスは蕾を見つめた。


「お花さん」


少し間が空く。


「……大丈夫だよ」


膨らんでいた蕾が揺れた。


一つが開いた。

続いて、もう一つ。

ルナリスが目を丸くする。


「あ……」


三つ目も開く。

その隣も開いた。

やがて、並んでいた蕾のほとんどが花になった。


「…………」


一つだけ、閉じたまま残っている。


ルナリスがアグラディアを見る。


「……咲いちゃった」


「そうだね」


「できなかった」


「最初だからね」


アグラディアが残った蕾を見る。


「でも、一つ残っている」


ルナリスもそちらを見る。


「…………」


ジジが隣から覗き込む。


「一個できてんじゃん」


ルナリスがジジを見る。


「できた?」


「全部咲いてねぇんだから、できたんだろ」


「一個できた!」


「ああ」


「ジジ、一個できた!」


「聞こえてる」


ルナリスがジジへ抱きつく。


「できた!」


その瞬間。

最後に残っていた蕾が開いた。


「…………」


ルナリスが振り返る。

ジジも花を見る。

ガイアが口元を押さえた。


「……全部咲いたな」


「ガイア!」


「いや、できてたよ。一回は」


「できたの!」


「分かったって」


「ほんとにできたの!」


「ああ。見てた」


ガイアが笑いながらルナリスの頭を撫でる。

アグラディアも小さく笑った。


「今日はそれで十分だよ」


「次はもっとできる?」


「少しずつやっていこう」


「うん」


ルナリスが頷いた。

周囲には、咲いたばかりの花が広がっている。

その間を、小さな精霊たちが飛び回っていた。


しばらくして、レグラスが口を開く。


「ルナリスには、力の扱い方だけでなく、

 これからいくつか学んでもらうことがある」


「お勉強?」


「ああ」


ルナリスがレグラスを見る。

アグラディアが指を折る。


「まず、精霊について」


「うん」


「ハイエルフの歴史も知っておいた方がいい」


「うん」


「それから、エルフ語」


ルナリスがジジを見る。


「ジジが喋れるやつ?」


「そうだな」


「じゃあおうち帰ったらジジも教えて」


「いいよ」


「古エルフ語も少しずつ始めよう」


ルナリスは再びジジを見る。


「それもジジ教えて」


「無理」


「なんで?」


「俺は人間だぞ」


ルナリスが少し考える。


「じゃあ誰に教えてもらうの?」


「古エルフ語は僕が教えるよ」


アグラディアが答えた。

ルナリスが顔を上げる。


「アグラディア分かるの?」


「ああ」


「すごい」


「…………」


ジジがアグラディアを見る。


「なんか腹立つな」


「なんでそうなるの」


アグラディアが笑う。

ルナリスが二人を見て笑った。

近くにあった蕾が揺れる。

ルナリスが気づいた。


「あ」


ジジとガイアもそちらを見る。

ルナリスは蕾へ身体を向けた。


「……お花さん、大丈夫だよ」


蕾がゆっくり膨らむ。

ルナリスはそのまま見つめていた。

少し開きかけて。

止まった。


「…………」


ルナリスが目を見開く。

アグラディアが花を見る。


「止まったね」


「できた?」


「うん、上手だね」


ルナリスがジジを見る。


「ジジ!」


「見てた」


「ガイア!」


「見てたよ」


ルナリスが笑った。

今度は、花はそのままだった。

ガイアはルナリスの隣まで歩き、頭に手を置いた。


「上手じゃん」


「うん!」


ジジも二人の隣へ来る。

アグラディアとレグラスは、その様子を少し離れた場所から見ていた。


庭には、先ほど咲いた花が残っている。

その周囲を精霊たちが飛び回っていた。


今日の訓練は、まだ最初の一歩だった。

次の訓練は、二日後に予定されていた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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