↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

155/216

誇り高き者

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

二日後。

エルフ居住区にある司法施設には、朝から多くの議員が集まっていた。


半円状に並ぶ傍聴席。

その中央には、三人のエルフが座らされている。


ガルド・ヴァルセン。

モルギアナ・セルヴィア。

ジザール・アルヴェリス。


周囲から向けられる視線に、三人とも硬い表情を浮かべていた。

正面の高い席にはレグラス。

その傍らにアグラディア。


少し離れた場所には、記録用の書類を広げたバルトが座っている。

そしてジジ。

その隣にはガイアがいた。


「…………」


「ジジ」


「何」


「まだ何も始まってねぇぞ」


「分かってる」


「顔」


「何だよ」


「怖ぇ」


「うるせぇ」


ガイアが小さく息を吐く。

やがて、室内のざわめきが消えた。


レグラスが口を開く。


<これより、先日冒険者ギルドへ提出された偽造書簡について審理を行う>


室内にエルフ語が響く。

ジジも、その言葉を問題なく聞き取っていた。

レグラスは机上の書簡を手に取る。


<この書簡には私の名が使われている>


紙を置く。


<だが、私が冒険者ギルドへ依頼したのは、児童所周辺の警備のみだ>


傍聴席が僅かにざわめく。


<ルナリスをジジ・ガルシアから引き離すことも、

 身柄を移すことも、私は一度として命じていない>


三人は黙っている。


<調査の結果、この書簡の作成および提出に、

 君たち三名が関与したことを示す証言と記録が確認された>


レグラスが三人を見る。


<ガルド・ヴァルセン、モルギアナ・セルヴィア、ジザール・アルヴェリス>


一人ずつ名を呼ぶ。


<異論はあるか>


最初に口を開いたのはガルドだった。


<私は指示されただけです>


ジジの眉が動く。

続いてジザール。


<私も、書簡そのものを作成したわけではありません>


<では誰が作った>


<それは――>


視線が横へ動く。

モルギアナは黙っている。


<そもそも、最初にルナリスを人間から離すべきだと言い出したのは

 私ではありません>


ガルドが言う。


<私も同じです>


ジザールが続く。


<私は必要な手続きを手伝っただけで――>


「…………」


ジジの指が僅かに動いた。

隣から、ガイアの手が腕を掴む。


「まだ」


小さな声だった。


「分かってる」


審理は続く。

だが、三人の言葉は変わらなかった。


自分が考えたわけではない。

自分が書いたわけではない。

自分は指示に従っただけ。

誰かが始めたことに加わっただけ。


責任の所在だけが、三人の間を行き来する。

やがてジジの表情から、僅かに残っていた平静さが消えた。


「……ふざけんな」


ガイアが横を見る。


「ジジ」


ジジが立ち上がった。


「おい」


ガイアが腕を掴む。

だが、ジジは前へ出ようとはしなかった。

ただ三人を見ている。

室内の視線が一斉に集まった。


レグラスも止めなかった。

ジジが口を開く。

流暢なエルフ語だった。


<俺の知るエルフは、皆、誇り高きエルフだ>


傍聴席が静まり返った。

人間の口から発せられたエルフ語に、何人かの議員が目を見開く。


<精霊と共に生きることを誇りにし、その力に敬意を払ってる>


ジジの脳裏に、これまで出会ってきた者たちが浮かぶ。


マリア。

シャイア。

アグラディア。

レグラス。

そして。

隣で自分の腕を掴んでいるガイア。


<自分の欲のために精霊を利用する奴なんか、一人もいなかった>


ガイアは何も言わない。

ジジは三人から目を逸らさなかった。


<なのにお前らは何だ>


低い声が響く。


<精霊の力が欲しいからって、ルナを俺から引き離そうとした>


三人の表情が強張る。


<議長の名前まで勝手に使って、嘘の書簡まで作って>


ジジの周囲の空気が変わった。

ガイアが眉を寄せる。


「ジジ」


その声は届いている。

だが、ジジは止まらなかった。


<それで、今度は自分がやったんじゃないって?>


ガルドが口を開こうとする。


<違――>


<黙れ>


空気が震えた。

傍聴席から息を呑む音がする。

ガイアの手に力が入る。


「ジジ」


今度は少し強い声だった。

ジジは前へ出ない。

ただ、三人を睨みつけた。


<俺の知ってるエルフと、お前らを一緒にすんな>


静まり返った室内へ、ジジの声だけが落ちる。


<貴様らに、生きる価値はない>


誰も声を発しなかった。

ガイアだけがジジの腕を掴んだまま、三人を見ていた。

長い沈黙のあと。


「…………」


モルギアナが俯いた。

その肩が、僅かに上下する。

やがて。


<……私です>


ガルドとジザールが同時に彼女を見る。

レグラスの目が細くなった。


<何だ>


モルギアナがゆっくり顔を上げる。


<私が――>


一度、息を吸う。


<私が、すべて企てました>


傍聴席が大きくざわめいた。


<モルギアナ!>


ガルドが声を上げる。

だが彼女はそちらを見ない。


<ルナリスを、あの人間のもとから離すべきだと最初に言ったのも私です>


ジジの目が鋭くなる。


<なぜだ>


レグラスの問いに、モルギアナはしばらく黙った。

そして。


<……レジーナ様の娘である可能性があるからです>


空気が変わった。

ジジの隣で、ガイアの表情が消える。

アグラディアも、黙ってモルギアナを見る。

レグラスだけが動かなかった。


<続けろ>


<もし、あの子が本当にレジーナ様の血を継ぐ者なら――>


モルギアナが言葉を選ぶ。


<あの力は、エルフにとって――>


その瞬間。

低い音が響いた。

誰かが息を呑む。

床が震えている。

壁際に置かれていた燭台が、小さく揺れた。


「…………」


ジジがレグラスを見る。

レグラスは座ったままだった。

だが。


その足元から、石床へ細い亀裂が走っていた。

アグラディアが静かに父を見る。


「……父上」


レグラスは答えない。

ただ、モルギアナを見ていた。

その表情からは、何も読み取れなかった。


<……続けろ>


同じ言葉。

だが先ほどとは、まるで違う声だった。

モルギアナの顔から血の気が引く。

室内を満たす大地の震えは、まだ止まっていなかった。


═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。