ただ、そこにいる
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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家へ戻る頃には、陽はだいぶ傾いていた。
門を開けたジジは、庭先に人影を見つけて足を止める。
「あ、ガイア!」
ルナリスが先に庭へ駆けていく。
「ただいま!」
「おかえり」
少し遅れて庭へ入ったジジは、
しゃがみ込んで土を掘っているガイアを見て足を止めた。
傍らには、小さな苗がいくつか並んでいる。
「……何してんの?」
ガイアが顔を上げる。
「ティアレ買ってきたから植えてる」
「ティアレ?」
「そ。向こう空いてんだろ」
「お花?」
ルナリスがガイアの隣にしゃがみ込む。
「そう。咲いたら見せてやるよ」
「ルナもやる!」
「もうほとんど終わったから、今度な」
「うん!」
ガイアは再び土へ視線を落とした。
鉢から苗を抜き、根を崩さないように植えていく。
「で?」
「あ?」
「今日、レグラスの話どうだった?」
ジジの表情が僅かに変わった。
ガイアもそれを見て、手を止める。
「……中入ってから話す」
「分かった」
それ以上は聞かなかった。
ガイアは残った苗を植え、ジジとルナリスは先に家へ入った。
夕食を終えたあと、ジジは今日レグラスの屋敷で聞いた話をガイアに伝えた。
ルナリスが児童所へ出入りしていることは、すでに何人ものエルフに知られていた。
エレノアとアグラディアが見たという、周囲の花が一斉に咲いた光景。
それも児童所職員だけが目撃したわけではないということ。
ルナリスの容姿。
そして、精霊への異常なほどの親和性。
それらが重なり、エルフたちの間で噂が広がっている。
ルナリスは、レジーナ・ルシーダの娘なのではないか。
「……娘ねぇ」
ガイアが椅子の背にもたれた。
「そう思ってる奴が結構いるらしい」
「まあ、条件揃ってるから見りゃそうなるか」
「ああ」
レジーナの持っていた力と似た現象を起こし、外見にも面影がある。
そのルナリスが人間と暮らしている。
それを良しとしない者たちが現れた。
「エルフにとって貴重な存在を、
人間のところに置いとくべきじゃねぇ……って?」
「そんな感じ」
ガイアが眉を寄せる。
「勝手な話だな」
「ああ」
ジジの返事は短かった。
「それで、例の書簡か」
「レグラスがギルドに出した警備依頼を、誰かが作り直したらしい」
ガイアの目が細くなる。
「内容知ってる奴か」
「レグラスもそう見てる。
自分が出した依頼を利用した以上、
その内容を知る立場にいた奴が関わってる可能性が高いって」
「……身内くせぇな」
「調べるって言ってた」
「レグラスが?」
「ああ。自分が責任持って調査するって」
「なら、やるだろ」
ジジも小さく頷いた。
レグラスが軽々しく口にした言葉ではないことくらい、分かっている。
それでも、ジジの表情は晴れなかった。
ガイアはそんな横顔を見ていたが、やがて視線をルナリスへ向けた。
少し離れたところで、ルナリスは床に座って何かを描いている。
「……本人は何も知らねぇのにな」
「ああ」
「勝手に見つけて、勝手に騒いで、勝手に取り上げようとする」
ガイアの声が低くなる。
ジジは黙っていた。
「まあ、レグラスが動いてんなら今は任せるしかねぇだろ」
「分かってる」
「お前が突っ込んでったら余計ややこしくなるしな」
「突っ込まねぇよ」
「どうだかな」
「行かねぇって」
ガイアが鼻で笑った。
ジジは少しだけ眉を寄せたが、それ以上は言わなかった。
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夜。
風呂を終えたジジは、濡れた髪を拭きながら寝室の扉を開けた。
部屋はもう暗い。
小さな灯りだけが残されている。
寝台へ目を向ける。
「…………」
二人とも、もう眠っていた。
いつものように、中央にルナリス。
その手前にガイア。
ルナリスはガイアの腕を枕にして、小さく身体を丸めている。
片手には、ガイアの銀色の三つ編みの先が握られていた。
「……また遊んでたのか」
小さく呟く。
長い銀髪は、ところどころ編み目の大きさが違っている。
ガイアが自分で編んだにしては、随分と不揃いだった。
また髪で遊んでいるうちに眠くなったのだろう。
それを解くこともなく、ガイアもそのまま眠っている。
ジジは小さく息を吐くと、ベッドの奥へ入った。
空いているいつもの場所に横になる。
すぐ隣にはルナリスの寝顔があった。
静かな寝息を立てている。
ジジは手を伸ばし、柔らかな髪をゆっくり撫でた。
今日聞いた話が、ふと頭を過ぎる。
自分の知らないところでルナリスを見ている者がいる。
その力を理由に、ルナリスを自分から引き離そうとした者までいる。
何も知らず眠っている顔を見ていると、胸の奥に重いものが残った。
「…………」
何度か髪を撫でる。
その向こう。
ルナリスの背中越しに、ガイアの寝顔が見えた。
穏やかに目を閉じている。
ルナリスのことで、どうしようもなく怖くなった夜。
自分でも抑えられなくなって、泣いた。
あの時もガイアはいた。
何もできずにいる自分の側に、いてくれた。
今もこうして、ルナリスの隣にいる。
「…………」
さっきまで胸の奥に残っていたものが、いつの間にか薄れている。
ガイアがいる。
それだけで、少し違った。
ジジの視線が下がる。
ルナリスに腕枕をしているガイアの腕が、
その頭の下を通ってこちらまで伸びていた。
ルナリスの髪を撫でていた手を下ろす。
その先に、ガイアの手がある。
「…………」
指先が触れた。
少し迷ってから、その手を軽く握る。
「……ありがと」
小さな声が落ちた。
「……っん……」
ガイアが僅かに身じろぎした。
ジジの身体が固まる。
起こしたかと思ったが、ガイアの目は開かない。
すぐにまた、静かな寝息が聞こえてくる。
「…………」
ジジが息を吐こうとした、その時だった。
ガイアの指が、ジジの手を弱く握り返した。
「……!」
心臓が大きく鳴る。
ガイアは眠ったままだった。
寝ぼけて、たまたま握り返しただけなのだろう。
それでも。
「…………」
嬉しかった。
胸の奥が、じんわりと温かい。
さっきまでそこにあった不安が、もうほとんど残っていない。
ルナリスがいる。
ガイアもいる。
触れた手には、まだガイアの温度がある。
「…………」
ジジはその手を離さなかった。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




