鈍感もほどほどに
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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朝。
ジジが目を覚ますと、隣ではまだガイアが眠っていた。
「…………」
目を開けた瞬間、昨夜のことを思い出した。
閉じた瞼に触れたこと。
頬を指でなぞったこと。
そのまま、唇に触れようとしたこと。
「…………」
ジジは身体を起こした。
隣でガイアが小さく動く。
「……ん」
銀色の髪を掻き上げながら、ゆっくり目を開けた。
「……おはよ」
「ん」
ガイアが欠伸をする。
「よく寝た」
「……そ」
「…………」
ガイアがジジを見る。
「何?」
「何が?」
「いや。なんか変じゃね?」
「別に」
ジジは寝台を降りた。
ガイアはまだ眠そうな顔で三つ編みを梳かしていた。
その横顔に、ジジの視線が止まった。
「…………」
「ジジ」
「ん?」
「やっぱ変だろ、お前」
「変じゃねぇよ」
「そう?」
「…?」
ガイアは首を傾げた。
ジジは少し黙ってから口を開く。
「俺、今日午前からギルド行くわ」
「……は?」
ガイアの手が止まった。
「鍛錬所は午後だろ?」
「そうだけど」
「午前からギルド行って何すんの?」
「なんかあるだろ」
「なんかって何だよ」
「行けば分かる」
「…………」
ガイアが眉を寄せる。
「一昨日まで安静にしてた奴が?」
「もう平気だって」
「…………まあ、いいけど」
ガイアは髪の毛を半分取り縛っていた。
「俺もファルコんとこ行きてぇし」
「ファルコ?」
「昨日少し飛ばしたから。ちょっと様子見てくる」
「ふうん」
ジジはそれ以上聞かなかった。
「じゃ、飯食ったら仕事してこい」
「追い出してねぇ?」
「自分から行くっつったんだろ」
「そうだけど」
「だったら行ってこい」
「……分かったよ」
ガイアはまだ少し不思議そうにジジを見ていた。
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午前中のギルドは、それほど忙しくなかった。
依頼を受けに来る冒険者も疎らで、受付にもほとんど列はできていない。
ジジは受付の奥にある机で、マーサの仕事を手伝っていた。
「それ終わったら、こっちもお願い」
「ああ」
マーサが書類の束を置く。
ジジは依頼の種類ごとに分けていった。
討伐。
採取。
護衛。
調査。
「…………」
手が止まる。
昨夜のガイアの顔が浮かんだ。
睫毛。
瞼。
鼻筋。
口元。
「…………」
触れようとした。
あの唇に。
胸が鳴る。
ジジは眉を寄せた。
「ジジ」
「ん?」
「それ、討伐」
手元を見る。
採取依頼の束に、討伐依頼を置こうとしていた。
「悪ぃ」
入れ直す。
マーサがちらりとジジを見る。
「今日どうしたの?」
「何が?」
「ずっとぼーっとしてるじゃない」
「そう?」
「そう」
「…………」
ジジはまた書類へ目を落とした。
一枚分ける。
もう一枚。
「…………」
少し離れたところで、マーサがお茶を飲む。
「マーサさ」
「なに?」
「誰かの唇に触れたくなることってある?」
「ぶっ――!」
マーサがお茶を吹き出した。
「うわ」
「げほっ……ちょっと……!」
「大丈夫?」
「何よ急に……!」
マーサが口元を拭く。
「いや……なんか」
「なに」
「そういうのあんのかなって」
マーサはしばらくジジを見た。
「あるわよ」
「……なんで?」
「なんでって……」
マーサは持っていた布を置いた。
暫く考えて、何かを理解したような顔になった。
「触りたくなるし、ずっと見てたくなるわよね」
「…………」
ジジの手が止まった。
「……なんで?」
「さぁ、何ででしょ?」
マーサが笑う。
「……分かんねぇから聞いてんの」
「ふふっ」
「何だよ」
「ジジはさ」
「?」
「ルナリスの頭を撫でるでしょ?」
「ああ」
「ルナリスが楽しそうにしてる姿も見ていたい」
「そうだな」
「何で?」
「ルナだから」
「…………」
マーサが黙った。
「何?」
「……なんでもない」
「?」
マーサは一度息を吐いた。
「でも、ルナリスの唇に触れたいとは思わないよね?」
「当たり前だろ」
「ふふっ」
「何笑ってんだよ」
「じゃあ何で、その人?の唇に触れたくなったんだろうね」
「だから聞いてる」
「…………」
マーサが額に手を当てた。
「答えは聞かない! 自分で考える!」
「……分かんねぇから聞いてんのに」
「ほんと……馬鹿だね」
「うるせぇな」
マーサは呆れたように笑った。
「ドキドキしたんでしょ?」
「…………」
ジジは答えなかった。
手元の書類を見る。
「……まあ」
「したんじゃん」
「急に心臓鳴っただけだよ」
「それをドキドキしたって言うの」
「…………」
マーサがジジを見る。
「私は……ジジにそうだったよ」
「え」
ジジが顔を上げた。
「ジジのこと、ずっと見てたかったし」
マーサが笑う。
「手が当たれば、そりゃドキドキしたし」
「…………」
ジジは黙った。
昨夜のことが、また浮かぶ。
眠っていたガイア。
ずっと見ていた。
瞼に触れた。
頬に触れた。
唇にも触れたくなった。
そして。
ドクン、と心臓が鳴った。
「…………」
マーサがその顔を見ている。
口元が少しずつ緩んでいった。
「…………何だよ」
「別に?」
「ニヤニヤしてんじゃん」
「してないわよ」
「してるだろ」
マーサは少し耐えていたが、とうとう吹き出した。
「あっはっはっは!」
「何笑ってんだよ」
「だって……もう……!」
「何だよ」
「そういうこと」
「は?」
マーサは笑いながら手を振った。
「鈍感に教えることはもうありません」
「何だよそれ」
「仕事してください」
「……分かんねぇから聞いてんのに」
「自分で考えなさい」
「…………」
ジジは納得のいかない顔で書類へ視線を戻した。
マーサも自分の仕事へ戻る。
一枚。
二枚。
ジジの手がまた止まった。
「…………」
――私は、ジジにそうだったよ。
「…………」
昨夜のガイアの顔が浮かぶ。
「ジジ」
「……何」
「手」
「…………」
「止まってる」
「分かってるよ」
「ふふっ」
「うるせぇな」
マーサは笑いながら、次の書類を手に取った。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




