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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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125/144

黒霧の向こう

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

翌朝。


洞窟を出た一行は、再び北へ馬を進めた。

雪は残っていたが、風は昨日より弱い。


昼を過ぎた頃から、街道沿いに魔物の姿が増え始めた。

岩陰から現れた四足の魔物をジジが斬り払い、

横から飛びかかった一体をガイアが落とす。


少し離れた場所では、ダンテとマルセルが残りを仕留めていた。

最後の一体が雪の上へ倒れる。


ガイアが刃についた血を払った。


「……増えてきたな」


「ああ」


バルトが街道の先を見る。

先ほどから、遭遇する間隔が明らかに短くなっている。


「そろそろだな」


ダンテが剣を収めた。


「近いか」


「多分な。これ以上何も分からねぇまま進むのはまずい」


バルトが周囲を見渡す。


「一旦止まるぞ」


——————————————————————


街道を外れ、岩壁で風を避けられる場所へ馬を移した。


地面に地図が広げられる。

ガイアは空を見上げた。


「ファルコ」


上空を旋回していた巨大な影が高度を下げる。


「ギルハイム」


ファルコが大きく翼を打った。

舞い上がった雪の向こうへ、その巨体が遠ざかっていく。


ガイアは岩壁へ背を預け、目を閉じた。

誰も話しかけなかった。


やがて、ガイアの眉がわずかに動く。


「……見えた」


バルトが地図へ目を落とした。


「どうだ?」


「黒い霧がかかってる」


ガイアの眉間に皺が寄る。


「思ったより濃いな……見づれぇ」


しばらく沈黙が続いた。

ファルコの視界が黒い霧の中を進んでいく。


「……外壁が見えた」


「入口は?」


「正面にある。けど……結界張ってんな」


「範囲は?」


「待て」


ガイアが黙る。


「……門だけじゃねぇ。外壁に沿って続いてる」


グリムが髭を撫でた。


「かなり大きな結界じゃの」


「ああ」


「起点は分かるか?」


「今探してる」


ファルコが高度を上げる。

霧に覆われた外壁を大きく回り込む。


「…………北東だな」


ガイアの指が地図の一点を示した。


「ここ。結界の流れが集まってる」


バルトが印をつける。


「解除できそうか?」


「近くまで行けば多分な。上からじゃ術式までは見えねぇ」


「十分だ」


バルトが頷いた。


「魔物は?」


「いる。かなり」


ガイアの声が少し低くなった。


「正面に四足が……十七、十八。人型が六。飛んでんのが三」


「奥は?」


「まだいる」


ガイアが目を細める。


「……待て」


バルトの手が止まった。


「どうした?」


「なんか……動きがおかしい」


「おかしい?」


「バラバラに動いてるように見えるけど……」


ファルコが旋回する。

ガイアはしばらく黙った。


「違うな」


ダンテが顔を上げる。


「何がだ?」


「一定の範囲から出ねぇ奴がいる。こっちはずっと同じ道を回ってる」


「見張りか?」


「……そう見える」


ガイアの眉間にさらに皺が寄る。


「魔物がこんな動きするか?」


グリムが地図から顔を上げた。


「群れを作る魔物なら珍しくはない。

 じゃが、種類の違う魔物まで同じように動いとるなら妙じゃな」


「だよな」


ガイアが呟く。


「こいつら、自分で考えて動いてんのか……?」


バルトが少し考えた。


「それか、何かに動かされてるか」


誰も答えなかった。


「ガイア。北西は?」


「ああ」


ファルコが再び高度を上げる。


「塔を探す」


黒い霧の向こうを、崩れた建物が流れていく。


「……見えねぇな」


「無理すんなよ」


ダンテが言った。


「まだ平気」


ファルコが角度を変える。


一度。

二度。


ガイアの呼吸が少し深くなった。

ジジが横を見る。


「ガイア?」


「待て」


さらにしばらくして。


「……あった」


全員の視線が集まる。


「見つけた」


「塔か?」


「ああ。北西」


ガイアの指が地図の上を動く。


「外壁寄り。細長いのが一本ある」


「中は?」


「そこまでは見えねぇ。霧も濃い」


バルトは地図へ印をつけた。


「分かった。もういいぞ」


「……ああ」


ガイアが目を開ける。


直後、顔をしかめて片手で目元を覆った。


「……っ」


ジジが近くへ寄る。


「大丈夫か?」


「ああ。ちょっと待て……」


何度か瞬きをして、また目を閉じる。

マルセルがガイアを見る。


「……かなり消耗するんですか?」


「長く使えばな」


「ファルコの視界を見るだけではないんですか?」


「俺の感覚残したまま、あいつの視界を繋いでんだよ」


ガイアは眉間を押さえた。


「長くやりゃ、目も頭も疲れる」


シーザーが空を見る。


「精霊を使うのと似てるんですか?」


「近いけどファルコの目使う方が消耗が激しい」


バルトがガイアを見る。


「どのくらいで戻る?」


「少し休めば平気」


「なら休憩しとけ」


ガイアが手を下ろした。


「作戦は?」


「回復してからでいい」


「でも――」


「お前が一番見てんだろ」


バルトが地図を指した。


「ちょっと休憩しとけ。回復したらお前の意見聞く」


ガイアは少し黙った。


「……分かった」


地図から離れ、岩壁のそばへ座る。

ジジもその後を追った。


「水飲むか?」


「……飲む」


水袋を受け取り、ガイアが口をつける。

ジジが隣へ腰を下ろした。


「目、まだ痛ぇ?」


「ちょっとな」


「頭は?」


「重い」


ガイアは目を閉じた。

ジジは何も言わず、その隣に座っていた。


——————————————————————


しばらくして、ガイアが目を開けた。

何度か瞬きをする。


「……もう平気」


「ほんとか?」


「ああ」


ガイアが立ち上がる。

地図の前へ戻ると、しゃがみ込んだ。


「で、どうする?」


バルトが地図を指した。


「陽動で行こうと思う。どうだ?」


ガイアの目が地図を追う。


「正面で派手にやる?」


「ああ。魔物を中央へ集める。その間に別働隊を入れる」


「いいと思う」


ガイアが北東を指した。


「なら、先にここだな」


「結界か」


「ああ。起点はここにある。俺が解除する」


「どのくらいかかる?」


「術式見ねぇと分かんねぇ。

 すぐ終わるかもしれねぇし、時間かかるかもしれねぇ」


バルトがマルセルを見る。


「一人でやらせるのはまずいな」


ガイアも顔を上げた。


「マルセル、俺と来い」


「はい」


「俺が結界触ってる間、周り頼む」


「分かりました」


ガイアの指が中央へ移る。


「結界が落ちたら、正面で陽動開始」


「俺とグリム、それからシーザーだ」


バルトが言った。


「できるだけ派手にやって、中央へ集める」


シーザーが頷く。


「はい」


ダンテが地図を覗き込む。


「その間に俺とジジが入るか」


「ああ」


ガイアの指が北東から北西へ動く。


「魔物が中央へ流れたの確認してから入れ。北西の塔まで最短で行く」


ジジが地図を見る。


「結界切ったら、北東から魔物も出てこられるんじゃねぇか?」


「出てくる」


「なら解除した後、そこに残るのはまずいだろ」


ガイアが頷いた。


「だから俺らも動く。マルセルは中央へ合流」


「ガイアは?」


「俺はファルコがいる。少し離れたところで待つ」


バルトが北西の印を見る。


「問題は、心臓を見つけた後だな」


ダンテがジジを見る。


「お前、弓使えたよな」


「ああ」


ガイアが続ける。


「火矢は?」


「使える」


「なら、心臓を確保したら塔から二本上げろ」


「二本だな」


「ああ。一本じゃ戦闘中の火と見分けつかねぇ」


ガイアが空を見た。


「ファルコに見張らせる。合図が上がったら、俺がそのまま塔まで行く」


「そこで心臓を渡せばいいんだな」


「ああ」


「分かった」


「受け取ったら、俺はそのままバインスへ飛ぶ」


バルトが全員を見渡した。


「残った奴らは中央で合流。そのまま撤退だ」


「心臓を取った後は戦う必要ねぇからな」


ダンテが言う。


「ああ」


バルトの視線が地図へ戻る。


「目的は心臓だ。魔物を倒すことじゃねぇ」


少し間を置いた。


「それと――」


全員がバルトを見る。


「さっきガイアが見た動きが気になる」


ガイアも黙って地図を見る。


「種類の違う魔物まで、あれだけ統率されてる」


バルトの指がギルハイムの中央を叩いた。


「何かいると思っとけ」


グリムが頷く。


「群れを纏めとる存在がいてもおかしくはないの」


「姿が見えなかったからって、いねぇとは限らねぇ」


ガイアが言った。


「霧で見えてねぇ場所もかなりある」


バルトは全員の顔を順に見た。


「何が出てきても深追いすんな。心臓を取ったら終わりだ」


誰も口を挟まなかった。

バルトが地図を畳む。


「今日はここまで進む。明日、ギルハイムへ入る」


北の空を見上げる。

遠く。

雪雲の下に、黒い霧が滲んでいた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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