↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/144

遠くの鼓動

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

診療所へ着く頃には、ルナリスの髪はほとんど元の白へ戻っていた。

胸の痛みも、先ほどよりは治まっている。

それでもジジは、ルナリスを腕から下ろさなかった。


扉を開けたガイアが先に中へ入り、奥へ声を飛ばす。


「シャイア!」


足音が近づき、シャイアが姿を現した。

ジジに抱かれたルナリスを見るなり、表情が変わる。


「どうしたの?」


「胸痛がった。脈も速かった」


「いつ?」


「さっき。ギルドで」


「こっちへ」


診察台まで運び、ジジがルナリスを座らせる。

腕を離そうとすると、小さな手が服を掴んだ。


「ジジ、ここ」


「ああ。いる」


ジジはそのまま隣に立った。

シャイアがルナリスの胸へ手を当てる。


「今も痛い?」


「ちょっと」


「苦しい?」


「もう苦しくない」


「ドキドキは?」


ルナリスは胸に手を重ねた。


「さっきよりしない」


脈を取り、呼吸を確かめる。

しばらく診察を続けたシャイアが、ようやく手を離した。


「今は落ち着いてるわ」


ジジの肩から、僅かに力が抜ける。


「でも、いつもと違った」


「何が?」


「髪」


ジジがルナリスの白い髪へ触れた。


「また碧色になった」


シャイアの目が細くなる。


「何か力を使ったの?」


「いや」


「使ってねぇ」


ガイアが答えた。


「こいつ、寝てたんだよ。

 起きて胸が痛ぇって言い出した時にはもう変わり始めてた」


「ルナリス」


シャイアが顔を向ける。


「何か見ようとした?」


「してない」


「何か見えた?」


「ううん」


「声は?」


ルナリスは首を振った。


シャイアが考え込む。


「それだけじゃねぇ」


ガイアが続けた。


「あの時、精霊が騒いだ」


「精霊が?」


「ああ。窓は閉まってた。それでも部屋の空気が動いた」


シャイアの視線がルナリスへ戻る。


「……分かった」


立ち上がる。


「アグラディアとレグラスを呼ぶわ」


ジジが頷いた。


「ああ」


ここ数日、二人がルナリスの核について調べ続けていることは知っている。

レジーナの心臓と、ルナリスの精霊の核。

その手順を詰めている最中だった。


「ルナ」


「なに?」


「横になる?」


「ジジいる?」


「いる」


「じゃあ寝る」


ジジが診察台へ横たえ、毛布を掛ける。

ルナリスの手だけは離れなかった。


「ジジ」


「ん?」


「帰らない?」


「帰んねぇよ」


それを聞くと、ルナリスは目を閉じた。

ガイアが壁に背を預ける。


「お前も座れよ」


「平気」


「ずっと抱いて走ってきただろ」


「別に疲れてねぇ」


「……もういい」


ガイアが息を吐いたところで、診療所の扉が開いた。

先に入ってきたのはアグラディアだった。

その後ろからレグラスが続く。


「ルナリスは?」


「今は落ち着いてるわ」


シャイアが答える。

レグラスはそのまま診察台へ向かった。


「ルナリス」


声を聞いたルナリスが顔を向ける。


「レグラス?」


「私だ」


「アグラディアもいる?」


「いるよ」


アグラディアが近づく。


「胸が痛くなったんだって?」


「うん」


「今は?」


「ちょっとだけ」


「そうか」


アグラディアはシャイアから診察結果を聞いた。


胸痛。

動悸。

そして、千里眼を使っていないにもかかわらず起きた髪色の変化。

ガイアが感じ取った精霊の反応。

最後まで聞いたアグラディアは、すぐには口を開かなかった。


「……その前に何かなかった?」


「前?」


ジジが聞き返す。


「何でもいい。今日、ルナリスの核が反応しそうなこと」


ジジが少し考える。


「千里眼は使った」


アグラディアが顔を上げた。


「いつ?」


「ギルドで作戦の話してた時」


レグラスもジジを見る。


「何を見た?」


「ギルハイム」


一瞬、室内が静かになった。


「地図見せたら、ルナが北西の方指した。塔があるとこ」


「何が見えた」


「赤い光」


レグラスの眉が動いた。


「赤い光?」


「ああ」


ジジは続ける。


「あと……泣いてるって」


レグラスの表情が変わった。

アグラディアも黙る。


「俺らは、レジーナの心臓じゃねぇかって見てる」


ガイアが言った。

レグラスはしばらく何も答えなかった。


「……その可能性は高いだろう」


やがて低く言う。


「姉の心臓に核が残っているのなら、

 ルナリスがそれを精霊の光として捉えたとしても不思議ではない」


「それ見たあと、ルナは寝た」


ジジが言う。


「で、起きたらこれ」


アグラディアの視線がルナリスへ移った。


「どれくらい空いた?」


「そんな経ってねぇ」


ガイアが答える。


「一度寝ただけだ」


「……そう」


アグラディアは診察台へ近づいた。

眠りかけているルナリスの髪へ、そっと触れる。


「どうした?」


ジジが聞く。

返事はすぐにはなかった。

やがてアグラディアが小さく息を吐く。


「たぶん、もう始まってる」


「何が?」


「レジーナとルナリスの核の共鳴」


ジジの眉が寄った。


「もう?」


「そう」


「でも心臓、ギルハイムだろ」


「だから驚いてるんだよ」


アグラディアがレグラスを見る。


「父上」


「ああ」


それだけで、レグラスにも伝わったらしい。


「これほど離れた場所からでも届くか」


「僕も想定してなかった」


アグラディアはルナリスから手を離した。


「僕たちはここ数日、心臓を取り戻した後のことを調べてた。

 どういう手順で共鳴させるか。ルナリスの核にどこまで干渉させるか。

 何が必要になるか」


ジジは黙って聞いている。


「でも、その前に二つの核が互いへ反応した」


「ルナが見たから?」


「それがきっかけになった可能性はある。ただ、そこはまだ分からない」


アグラディアは言い切らなかった。


「でも、これが共鳴による反応なら――」


一度、言葉を切る。


「僕たちが考えていた方法は、間違ってないと思う」


ジジの顔が上がった。


「じゃあ、心臓持って帰れば」


「ああ」


今度はレグラスが答えた。


「ルナリスの核を制御できる可能性は高い」


ジジはしばらく黙っていた。

診察台を見る。

ルナリスはジジの指を握ったまま、うとうとしている。


「……そうか」


短い声だった。

だが、それまで強張っていた表情が僅かに緩んだ。

方法はある。


まだ手の届かない場所にあるだけだ。


「ただし」


シャイアが口を挟む。


「今起きている反応が、ルナリスの身体に負担をかけていることは間違いないわ」


ジジの表情が戻る。


「やっぱそうなのか?」


「胸痛も動悸も出てる。いい状態とは言えない」


「共鳴してんのに?」


「距離がありすぎるんだと思う」


アグラディアが答えた。


「今はまだ、何の制御もしてない。心臓が近くにあるわけでもない。

 互いの核が遠くから反応してるだけなら、

 ルナリスの身体にどういう負荷がかかるか分からない」


「じゃあ早く持ってくるしかねぇな」


ジジが言った。

迷いはなかった。


「そうなる」


アグラディアも頷く。


「心臓が手元に来れば、こちらで制御できる。

 少なくとも今みたいに、何が起きるか分からない状態よりずっといい」


「出発は三日後だ」


「分かった」


アグラディアが答える。


「それまでに手順を詰める」


レグラスも頷いた。


「ここ数日で、必要な資料はかなり絞れている」


「間に合う?」


「間に合わせる」


即答だった。


レグラスの視線がルナリスへ向く。


「お前たちは姉の心臓を持ち帰れ」


「ああ」


「その後はこちらで引き受ける」


ジジがレグラスを見る。


「頼む」


「言われるまでもない」


アグラディアは近くの机へ向かい、置かれていた紙へ何かを書き始めた。


「今日の症状も記録しておく。

 遠く離れた状態ですでに反応したなら、

 心臓を近づけた時はもっと強く出る可能性がある」


「強く?」


ガイアが聞く。


「共鳴そのものが」


アグラディアは手を止めない。


「だから、心臓が届いてから考えるんじゃ遅い。

 どういう順番で近づけるか、どこで止めるか、シャイアには何をしてもらうか。

 全部先に決めておく」


シャイアが頷いた。


「身体の状態は私が見るわ」


「レグラスは?」


ジジが聞いた。


「私も立ち会う」


レグラスは当然のように答えた。


「姉の核を扱うのだ。必要であれば私の精霊も使う」


ジジが頷く。


「分かった」


それぞれの役割が、少しずつ形になっていく。

ジジたちはギルハイムへ向かう。

レグラスたちは、心臓が戻った瞬間に動けるよう準備を整える。


どちらが遅れても意味がない。


「ジジ」


小さな声がした。

振り向くと、ルナリスがまだ起きていた。


「寝てなかったのか?」


「ちょっと寝てた」


「どっちだよ」


「ちょっと」


ジジが小さく息を漏らす。


「もう痛くないか?」


ルナリスは胸に手を当てた。


「うん」


「ドキドキは?」


「しない」


「そうか」


ジジは白い髪を撫でた。


「今日はここにいなさい」


シャイアが言う。


「また同じことが起きないか、しばらく見ておきたいわ」


「ああ」


「ジジも帰らないんでしょ」


「もちろん」


「でしょうね」


シャイアはそれ以上言わなかった。

ガイアが隣からジジを見る。


「俺、一回戻るぞ」


「どこ?」


「宿舎。明日からの準備してくる」


「ああ」


「お前の分も見とく」


ジジが顔を上げた。


「なんで?」


「お前、三日後だぞ」


「分かってる」


「分かってる奴はルナの横から一歩も動かねぇ顔しねぇんだよ」


ジジは黙った。

ガイアが鼻で息を吐く。


「足りねぇもんあったら勝手に入れとく」


「……ありがと」


「気持ち悪ぃな。素直に言うな」


「じゃあ言わねぇ」


「もう聞いたわ」


ガイアはそれだけ言うと、診療所を出ていった。

ジジはその背中を見送り、再びルナリスの横へ椅子を寄せた。


「ジジ」


「ん?」


「手」


差し出された小さな手を握る。


「これでいい?」


「うん」


ルナリスは安心したように目を閉じた。

やがて呼吸がゆっくりと整っていく。

ジジはその手を握ったまま、眠る顔を見ていた。


三日後。


ギルハイムへ向かう。

今度は、ただ可能性を信じて行くわけではない。

遥か遠く離れていても、二つの核はすでに互いへ反応している。

レジーナの心臓は、ルナリスを救える。


その可能性は、これまでより確かなものになった。


あとは――


持ち帰るだけだった。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。