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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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帰るための作戦

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

ルナリスが眠りについてからも、

バルトの執務室に集まった者たちは席を立たなかった。

ジジの膝に頭を預けたまま、ルナリスは静かな寝息を立てている。

先ほどまで碧色に染まっていた髪は、すでに元の白へ戻っていた。


机の上には、広げられたギルハイムの地図。


その北西部。ルナリスが「赤い光がある」と指した場所には、

バルトが新しく印をつけていた。


古い塔だった。


「……ここで間違いねぇんだな?」


ダンテが地図を覗き込む。


「間違いねぇ、とはまだ言えねぇ」


バルトが答えた。


「地図自体が古い。今もこの塔が残ってる保証すらねぇからな」


「でもルナはここ指した」


ジジが言った。


「分かってる。だから最有力だ」


「なら、まずそこ見りゃいいだろ」


「お前は話を最後まで聞け」


横からガイアが口を挟む。


「聞いてるだろ」


「聞いてる奴は途中で結論出さねぇんだよ」


「同じじゃねぇか」


「違ぇよ」


「何が?」


「全部だよ」


グリムが低く笑った。


「相変わらずじゃのう」


「何が?」


ジジがそちらを見る。


「そういうとこじゃ」


ジジには分からなかったらしい。

バルトが小さく息を吐き、地図へ視線を戻した。


「まずギルハイムまでの移動だ。国境を越えるまでは街道を使う。

 途中で二度、補給できる街がある」


指が北へ滑っていく。


「問題はここからだ」


六国の生活圏を抜けた先。

地図から町や村の名が急激に減っていく。


「北へ行くほど補給できる場所はなくなる。

 最後の町を出た後は、全部自分たちで持つしかねぇ」


「馬は?」


グリムが聞いた。


「使えるところまでは使う。ただ、ギルハイムまで連れていくつもりはねぇ」


「それがいい。魔物の巣へ連れていけば、守るもんが増えるだけじゃ」


「国境付近で預けられる場所を探してある。そこから先は徒歩だ」


ジジが地図を見る。


「何日かかる?」


「天候次第だ。片道だけでもかなりかかると思っとけ」


「遠いな」


「だから準備がいるっつってんだろ」


ガイアが言う。


「分かってる」


「ならお前もちゃんと準備しろ」


「するって」


「お前、長剣持って終わりだろ」


「駄目?」


ガイアが額を押さえた。


「こいつ……」


「剣さえ忘れなきゃ、お前はそれでいい」


ダンテが言った。


「ほら」


ガイアとバルトが同時にジジを見る。


「……何」


「何でもねぇ」


ダンテが笑った。


「昔のお前知ってる奴しかいねぇからだろ」


マルセルとシーザーは顔を見合わせた。


ここにいる四人は、六国唯一のオリハルコンに対する態度とは思えない。

だが当の本人は気にした様子もなく、また地図へ目を戻していた。


「現地に近づいたら、ファルコを飛ばす」


ガイアが北西部を指した。


「上から塔を探す。

 残ってるかどうかも分かるし、魔物がどこに固まってるかも見える」


「中までは?」


ダンテが聞く。


「無理だ。建物の中は見えねぇ」


「十分だ」


バルトが頷いた。


「侵入経路は、その情報を見てから決める」


「今ここで決めても意味ねぇからな」


ガイアの指が地図を辿る。


「道が残ってる保証もねぇ。城壁がどうなってるかも分からねぇ。

 何十年も魔物に占拠されてんだ。地図通りだと思わねぇ方がいい」


「現地で偵察してから組み直す、ということですね」


マルセルが確認する。


「ああ」


ガイアが答えた。


「欲しいもんだけ取って帰る」


金色の目が、北西の印へ落ちる。

レジーナの心臓。

それさえ奪還できればいい。


「それなんだけど…」


ジジが口を開いた。

ガイアが顔を上げる。


「何?」


「心臓取った後」


少し考えてから、ジジはガイアを見た。


「ガイア先にバインス戻って欲しい」


「……俺が?」


「ああ」


「なんでだよ」


「ファルコ」


ガイアの目が僅かに動いた。


「片道で三日かかるんだよな。

 でもお前がファルコと一緒に風使ってバインス戻れば早ぇ」


ジジは腕の中で眠るルナリスを見る。

誰も口を挟まなかった。


「一刻も早い方がいい」


グリムがゆっくり頷く。


「それが一番早いじゃろうな」


「ああ」


バルトも異論はなかった。


「俺たちは陸路で戻ればいい。心臓を持ったまま全員で移動する必要もなくなる」


「ガイアなら空から戦線も抜けられる」


ダンテが続ける。

ガイアはしばらくジジを見ていた。


普段なら目の前の敵をどう倒すかばかり考える男が、今回はその先を考えている。


視線が、眠るルナリスへ移った。

理由は考えるまでもなかった。


「……分かった」


ジジが顔を上げる。


「預かったら…俺が先に戻る」


「ああ」


それで決まった。


「出発は三日後だ」


バルトが地図を畳み始める。


「短ぇか?」


「いや。大丈夫」


「俺とダンテはそれぞれ留守の間の手配をする。マルセル、シーザー」


「はい」


「はい」


「装備についてはダンテの指示に従え」


「分かりました」


「グリム、お前は?」


「三日もいらん。明日にでも出られるわい」


「相変わらずだな」


「お前らが遅いんじゃ」


「ガイア」


「俺も問題ねぇ」


最後にバルトがジジを見る。


「お前はルナリスのことを決めろ」


ジジの表情が止まった。


「……ああ」


返事が僅かに遅れる。


ギルハイムへ行く間、自分はバインスにいない。

当然、ルナリスを連れていくこともできない。


分かっていたことだった。

しかし、小さな身体を見ると簡単には割り切れなかった。


「レグラスたちにも相談しろ」


「ああ」


「あそこなら結界もある。アグラディアもいる」


「分かってる」


「一人で何とかしようとすんな」


「しねぇって」


その後は、必要な物資の確認へ移った。


防寒具、保存食、薬、野営道具。

北へ進むほど気候も変わる。


バルトとダンテが必要なものを挙げ、

ガイアが荷を減らし、グリムが足りないものを追加していく。


ジジはほとんど口を挟まなかった。


聞かれれば答える。

分からないことは任せる。

昔も、こうだった。

自分より経験のある者たちが考え、道を決める。


そして戦場に出れば、自分が先へ行く。


やがて話が終わり、一人、また一人と部屋を出ていった。

ガイアも扉へ向かったが、途中で振り返る。


「ジジ」


「ん」


「帰らねぇの?」


「ルナ寝てる」


「そのまま帰れよ」


「起きるだろ」


ガイアが呆れたように息を吐いた。


「……好きにしろ」


扉にかけていた手を離す。

ジジがそちらを見る。


「帰んねぇの?」


「お前が帰らねぇんだろ」


「ああ」


「じゃあ待つ」


ガイアは再び椅子へ腰を下ろした。

ジジはそれ以上何も言わなかった。


ガイアが残ることに、疑問を持つ様子もない。

しばらくして、腕の中のルナリスが僅かに身じろぎした。


「……ん……」


ジジがすぐに顔を覗き込む。


「ルナ?」


白い眉が寄った。

眠ったまま、小さな手が胸元へ伸びる。


「……いたい……」


ジジの顔色が変わった。


「ルナ、起きれるか」


「どこ痛い?」


「……ここ……」


胸だった。

ジジが首筋へ指を当てる。


「脈、速ぇな……」


ガイアが立ち上がる。


「またか?」


「ああ」


ルナリスの呼吸が少しずつ浅くなる。


「ゆっくり息しろ。そう、ゆっくり」


「……ドキドキ、する……」


「分かった」


ジジが抱き寄せた、その時だった。

白い髪の根元に、碧色が滲んだ。


「……ジジ」


ガイアの声が低くなる。

碧色はゆっくりと広がっていく。

先ほどとは違う。


ルナリスは何かを見ようとしていない。


「ルナ。何か見えてる?」


「……見て、ない……」


胸を押さえたまま、首を振る。

それでも髪色は戻らなかった。

ふいに、部屋の空気が揺れた。


閉ざされた窓。

風が入るはずのない室内で、紙の端が小さく震える。

ガイアが周囲へ目を向けた。


「……精霊が騒いでる」


「なんで?」


「分かんねぇ」


ジジは迷わずルナリスを抱き上げた。


「シャイアんとこ行くぞ」


「……うん……」


「ガイア」


「ああ」


二人はすぐに部屋を出た。


机には、畳みきられていないギルハイムの地図が残されている。

北西の塔につけられた、小さな印。


遥か遠く離れたその場所を示した直後から、

ルナリスの核は明らかにそれまでとは違う反応を見せ始めていた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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