奪還
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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翌日。
ルナリスをアグラディアに預け、ジジとガイアはバルトのもとへ向かった。
ギルドの扉を開けると、昼前の広間にはいつもの喧騒があった。
依頼書を眺める冒険者。
報酬を受け取る者。
酒を飲みながらくだらない話をしている者。
その中をジジとガイアが進む。
「ジジ?」
カウンターから声がした。
マーサだった。
「ガイアも一緒なの? 珍しいわね」
「よ」
「バルトいる?」
ジジが聞く。
「いるけど……どうしたの?」
「ちょっと話ある」
「そう」
マーサがジジの顔を見る。
「……ジジ、ちゃんと寝てる?」
「寝てるよ」
「なんか疲れてない?」
「大丈夫」
「ほんとに?」
「ほんと」
マーサはまだ少し疑うように見ていた。
「ならいいけど」
その様子を、ガイアは横から見ていた。
「……」
いつもなら、またやってる、とでも言っていた。
八年も変わらないマーサの態度を、散々冷やかしてきた。
なのに今日は、なぜか何も出てこなかった。
「ガイア」
「ん?」
「早く来いよ」
「ああ」
ガイアはジジの後を追った。
自分が何を見ていたのか、深く考えることもなかった。
ギルドマスター室へ入ると、バルトは書類の山に埋もれていた。
「なんだ、お前ら二人揃って」
「話ある」
「嫌な予感しかしねぇな」
バルトがペンを置く。
「座れ」
ジジとガイアが向かいの椅子へ座った。
ジジが話した。
レジーナのこと。
ルナがその娘だったこと。
最近、精霊の反応や千里眼が制御できなくなっていること。
そして。
レジーナの心臓が、今もギルハイムにあること。
話が終わる頃には、バルトの表情から軽さが消えていた。
「……ギルハイムか」
「ああ」
ガイアが答える。
「お前も知ってるだろ」
「当然だ」
バルトは椅子の背に身体を預けた。
「六国の冒険者ギルドじゃ共通で危険地域に指定されてる」
「俺らも昔聞いた」
ジジが言う。
「魔物に堕とされた国だろ」
「そうだ」
バルトが立ち上がり、奥の棚へ向かった。
古びた筒を一本抜き取る。
机へ戻り、中から大きな地図を広げた。
六国。
そこから遥か北東。
地図の端に近い場所を、バルトが指で叩く。
「ギルハイム。正確には、元ギルハイム王国と呼んだ方がいいかもしれん」
ジジが地図を覗き込む。
「遠いな」
「だいぶ遠い。
だから六国のギルドが直接ギルハイム絡みの依頼を受けることもほぼない」
「魔物がこっちまで来ることは?」
「ないな。討伐依頼が出るほどじゃない」
ガイアが地図を見る。
「じゃあ、情報は?」
「ある」
バルトが答える。
「ただし――少ない」
ガイアが顔を上げた。
「どれくらい古い」
「ものによる。数年前のものもあれば、十年以上前の記録もある」
「……使えねぇな」
「だから困ってんだよ」
バルトが別の紙束を取り出した。
「六ヶ国のギルドで共有してる情報はここにある。
国土のおおよその形。過去に確認された魔物。周辺の地形。
かつて存在した街道。
それから、ギルハイム周辺まで行った冒険者や商人の報告」
「中に入った奴は?」
ガイアが聞く。
バルトの手が止まった。
「いる」
「帰ってきたのは」
「少ない」
部屋が静かになった。
ジジが紙束を見る。
「何がいる?」
「分からん」
「分からない?」
「魔物がいることは分かってる。種類もいくつか記録がある。
だが、国全体でどれだけいるのか、どういう統率がされてるのか、
今どこに何がいるのか――そこまで分かる奴はいない」
「国なのに?」
「ああ」
ガイアが紙を一枚取った。
「最後に内部から情報持って帰ってきたのは?」
「待て」
バルトが記録を探す。
「……七年前だな」
「七年」
ガイアの眉が寄る。
「古すぎる」
「分かってる」
「この街道は今も使える保証ねぇな」
「ない」
「国境は?」
「それも正確には分からん。そもそも国境として機能してるかどうかすら怪しい」
ジジが二人を交互に見る。
「心臓の場所だけ分かれば行けるんじゃねぇのか?」
ガイアがゆっくりジジを見る。
「お前」
「何」
「心臓抱えて、ギルハイムからバインスまで走って帰ってくる気か?」
「必要なら」
「できるかどうか聞いてねぇんだよ」
バルトが小さく息を吐いた。
「相変わらずだな、お前ら」
「何が」
「昔からそうだったろ」
バルトがジジを見る。
「お前が前しか見ねぇから、ガイアが周りを見る」
「そうだっけ」
「そうだよ」
ガイアが呆れた声を出す。
「お前、自分が今まで何回俺に止められたと思ってんだ」
「覚えてない」
「だろうな」
バルトが笑った。
だが、それも一瞬だった。
「で」
バルトが二人を見る。
「お前ら、何をしにギルハイムへ行くつもりだ」
「心臓取りに」
ジジが即答した。
「それだけか?」
「それだけ」
バルトがガイアを見る。
ガイアは頷いた。
「俺たちはギルハイムをどうにかしに行くわけじゃねぇ」
ガイアの指が地図をなぞる。
「魔物を何体倒したって意味ねぇ。
レジーナの心臓を見つける。奪う。持って帰る」
「……」
「戦わなくて済むなら、その方がいい」
ジジがガイアを見る。
「倒した方が早かったら?」
「その時は倒す」
「じゃあ一緒じゃねぇか」
「全然違ぇよ」
「どこが」
「お前は一回黙ってろ」
「……」
バルトが額を押さえた。
「ガイアがいて助かった」
「おい」
「いや、本気で」
バルトは椅子へ戻った。
「討伐じゃない、だよな。」
地図上のギルハイムへ視線を落とす。
「奪還作戦だな」
「ああ」
「なら余計に情報が要る」
ガイアが頷いた。
「そう思ってここに来た」
「レジーナの心臓がどこにあるかは?」
「レグラスが知ってる範囲では聞く。
ただ、正確な位置まで分かってるかは怪しい」
「そうか」
バルトが腕を組む。
「こっちでも記録を洗い直す。六ヶ国の他ギルドにも確認を回す」
「頼む」
「最近ギルハイム周辺まで行った奴がいれば、その話も拾う」
ガイアが地図を見る。
古い。
情報が少ない。
それでも、何もないよりはいい。
「急いでくれ」
ジジが言った。
「お前な」
「ルナ、昨日も二回起きた」
バルトが黙った。
「動悸も増えてる。だからあんまり時間かけたくない」
「……分かった」
バルトの声が変わった。
「できるだけ急ぐ」
「うん」
ジジが立ち上がる。
「じゃあ――」
「待て」
バルトとガイアの声が重なった。
「何」
ガイアが目を細める。
「今どこ行こうとした」
「レグラスんとこ。心臓の場所もうちょい聞こうかなって」
「それはいい」
「じゃあ何」
「そのままギルハイム行くなよ」
「行かないって」
バルトがガイアを見る。
「ガイア」
「何だよ」
「見張っとけ」
「なんで俺が」
「お前以外、こいつ止められねぇだろ」
ガイアがジジを見る。
ジジもガイアを見る。
「……まあ」
「納得すんなよ」
「でもガイアが駄目って言うなら行かない」
「……」
ガイアが一瞬、言葉を止めた。
「なら最初から大人しくしてろ」
「してんじゃねぇか」
「どこがだよ」
バルトは二人を見ながら、もう一度地図へ目を落とした。
六ヶ国から遠く離れた北方。
魔物によって堕ちた国。
分かっていることより、分からないことの方が多い。
そこに、レジーナ・ルシーダの心臓がある。
これは討伐ではない。
国を救う戦いでもない。
たった一つ。
十八年前に奪われた心臓を取り戻す。
そのための奪還作戦が、静かに動き始めた。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




