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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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108/154

すべては繋がった

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

「ルナのため?」


ジジが聞いた。


「ああ」


レグラスは答える。


「何してたんだよ」


「調査だ」


「何の?」


「ルナリスについて、どこまで情報が広がっているのかを調べていた」


ジジの表情が変わった。


「……何で?」


「姉の娘である可能性を考えたからだ」


レグラスは静かに続ける。


「私はマリアから姉へ送られていた手紙を読み直した」


「俺のこと書いてあったやつ?」


「ああ」


何度も。


古い手紙を読み返した。

マリアの暮らしていた場所。

近くにある孤児院。

そこへ出入りしていた少年。

レジーナとの最後のやり取り。


時期。

場所。

十八年前に起きたことを、一つずつ辿った。


「それだけではない」


レグラスが言う。


「姉が追われていたことを考えれば、

 もし子供が生きていると知られた場合、

 同じ者たちがその子を狙う可能性がある」


ジジの手に力が入る。


黒蛇。

あの医師の証言が、頭を過った。

目を潰した。

痛みを与えた。

飢えさせた。


千里眼がどこまで使えるのか。

ただ、それを確かめるために。


「……もう狙われた」


ジジが低く言った。


「そうだな」


レグラスも知っている。

だからこそ。

動いた。


「千里眼を持つ子供がいるという情報」


「……」


「異常な再生能力を持つ混血児がいるという情報」


「……」


「そして、レジーナ・ルシーダを思わせる特徴を持つ子供がいるという情報」


レグラスはジジを見る。


「そのいずれかが、どこまで広がっているのかを確認していた」


ジジは少し考える。

そして。


「あ」


何かを思い出した。


「結界」


レグラスの目が動く。


「結界強くしてから、いなくなったんだよな?」


「ああ」


「アグラディアからルナリスが児童所に通う可能性があると聞いた」


隣でアグラディアが頷く。


「父上はすぐに結界を強くしましたね」


ジジはレグラスを見る。


「何で先に結界強くしたんだよ、あの時はまだ児童所通うか悩んでた」


「私が居住区を離れる間に通われてはかなわんからな」


「……」


「その間に何か起きてしまっては意味がない」


ジジが黙る。

ガイアの言葉を思い出した。


――とんでもねぇ結界張られてたぞ。


あれだけの結界。

何かを閉じ込めるためだと思えば。

確かに不気味だった。


でも。

違った。


「……守るため?」


「ああ」


「ルナを?」


「ああ」


あまりにも普通に答える。

ジジはしばらくレグラスを見ていた。


「何でそこまでしたんだよ」


その質問に。

レグラスは初めて、少し長く黙った。


「……一度」


声が低くなる。


「守れなかったからだ」


ジジは何も言わない。


「姉を」


レグラスの視線が、眠っているルナリスへ向く。


「姉が何をしているのか。何を考えているのか。私は知っていたつもりだった」


それでも。

レジーナは死んだ。

自分の手の届かない場所で。


「姉は、その力ゆえに多くの者から特別視された」


精霊の守護神。

千里眼。

精霊との親和性。

美しい呼び名の裏側には。


その力を欲しがる者がいた。

利用しようとする者がいた。


「私は、同じことを繰り返すつもりはない」


レグラスが言った。


「……」


「レジーナの娘に」


一度。

言葉が止まる。


「私の姪に、姉と同じことが起きてほしくなかった」


ジジの目が僅かに動いた。


アグラディアも。

何も言わなかった。


今まで。

どこか不自然だった。

ルナのことを知りたがる。

アグラディアへ調査を命じる。


結界を強化する。

本人は姿を消す。


戻ってきても、何を調べていたのか話さない。


全部。

繋がった。


「……会わなかったのは?」


ジジが聞く。


「何だ?」


「ルナに」


レグラスは少し黙る。


「ああ」


「何で?」


「会うことより、先にやるべきことがあった」


「……」


「もし姉の子なら、私が会いたいという理由だけで動くべきではない」


安全を確認する。

情報が漏れていないか確かめる。

守れる場所を作る。


その後だった。


「……変なの」


ジジが言った。


「何がだ」


「いや」


ジジはそれ以上言わなかった。


ただ。

さっきまでとは少し違う目で、レグラスを見ていた。


——————————————————————


「父上」


アグラディアが口を開く。


「では……」


少し言いにくそうに、眠るルナリスを見る。


「ルナリスは、本当に?」


「ああ」


レグラスの返事には迷いがなかった。


「可能性ではない」


ジジが顔を上げる。


「……断言できんの?」


「ああ」


「ルナリスは」


レグラスの視線が、白い髪の少女へ向く。


「レジーナの娘だ」


静かな言葉だった。


それなのに。

ジジには妙に大きく聞こえた。


「……」


ルナリス。


十五年ではない。

十八年間。

ずっと。

何者なのか分からなかった。


白い髪。

それだけしか分からなかった。


探して。

探して。

何も見つからなかった。


そしてようやく。

母親の名前を知った。


「……レジーナ」


ジジが呟く。


「ああ」


「ルナのお母さん」


「ああ」


ジジは眠るルナリスを見る。


「そうか」


それしか出てこなかった。


嬉しいのか。

怖いのか。

自分でも分からない。


ルナがどこから来たのか。

誰の子なのか。


それが分かった。


なのに。


分かった途端。

今度は知らないものが増えた。



レジーナが持っていた力。

そして。

その力のためにレジーナが狙われたという事実。


「……ルナも」


ジジが聞く。


「何だ」


「レジーナと同じ力持ってんの?」


レグラスはすぐには答えなかった。


「分からない」


「分かんない?」


「ああ」


「でも今日、同じこと起きたじゃねぇか」


「一部は受け継いでいるだろう」


「一部?」


「ルナリスはまだ幼い」


レグラスが言う。


「姉とまったく同じ力を持つのか。

 それとも異なる形で現れるのか。どこまで強くなるのか」


一つずつ。

ジジが聞きたくなかった言葉が並ぶ。


「今の段階では、誰にも分からない」


「……」


足は戻った。


あとは目だけだと思っていた。

千里眼が分かった時も。

これがルナの目の代わりになるなら。

少しずつ使えるようになればいいと思った。


でも。

違った。


まだある。


自分の知らない何かが。


ルナの中に。


「危ないのか?」


「それも分からない」


「今日、倒れた」


「ああ」


「脈も速くなった」


「ああ」


「じゃあ危ねぇじゃん」


「だから、今後は慎重に見る必要がある」


ジジの眉が寄る。


「見るって何すんの?」


「無理に力を使わせることはしない」


アグラディアが言った。

ジジがそちらを見る。


「僕も、今日みたいなことが起きた時は必ず記録する。

 でも、ルナリスに何かをさせて調べるつもりはないよ」


父親以外へ向ける、いつもの柔らかな口調だった。


「この居住区にいる限り、今まで以上にできるだけ僕が近くにいる」


「……」


「何かあればすぐシャイアにも診てもらう」


ジジは少し黙ってから頷いた。


「ああ」


アグラディアも頷く。


「父上」


「何だ」


「結界は、今のままで?」


「ああ。弱めるつもりはない」


「分かりました」


そこで。


長椅子から小さな声がした。


「……ジジ?」


全員の視線が向く。

ジジがすぐに身体を寄せる。


「起きた?」


「……うん」


ルナリスが薄く目を開く。


見えてはいない。

それでもいつものように、声のする方へ顔を向けた。


「いっぱい人いる?」


「いるよ」


「誰?」


「シャイアと、アグラディアと……」


ジジが少し止まる。

レグラスを見る。


「レグラス」


「れぐらす?」


「アグラディアのお父さん」


「あ」


ルナリスが少しだけ笑った。


「アグラディアのお父さん!」


レグラスの表情が止まった。


「うん」


アグラディアが笑う。


「そうだよ」


ルナリスが声のした方へ顔を向ける。


「こんにちは」


レグラスはしばらく答えなかった。

ジジが少し眉を寄せる。


だが。


「……こんにちは、ルナリス」


ようやく返ってきた声は。

先ほどまでより、柔らかかった。


ルナリスはそんなことには気づかない。


「ルナね、今日お花見えたよ」


「ああ」


「月下美人!」


「聞いた」


「すっごくきれいだった」


「……そうか」


「うん!」


嬉しそうに笑う。

レグラスは何も言わなかった。


ただ。


その顔を見ていた。


十八年前。

守ることのできなかった姉。

その姉が残した子供が。


今。


目の前にいる。


「ルナ」


ジジが呼ぶ。


「何?」


「まだ寝てて」


「もう元気」


「ダメ」


「何で?」


「今日倒れたから」


「もう大丈夫だよ」


「俺が大丈夫じゃない」


「ジジが?」


「そう」


「ジジどっか痛い?」


「そうじゃなくて」


ルナリスが不思議そうな顔をする。

シャイアが小さく笑った。


「今日はジジの言うこと聞いてあげて」


「はーい」


ルナリスがまた毛布へ潜る。

ジジはその髪を整えた。


レグラスは、その様子を黙って見ていた。


「ジジ・ガルシア」


「何?」


「十五年」


ジジが振り返る。


「ルナリスを探し続けたと聞いている」


「……そうだな」


「なぜだ」


ジジは少し考えた。


「家族だから」


それだけだった。


血が繋がっているからでも。

エルフだからでも。

何か特別な力を持っているからでもない。


家族だから。

探した。


レグラスはしばらくジジを見ていた。


かつて姉が願った。

人間とエルフが共に生きる世界。

その言葉を。


目の前の男は知らない。

知らないまま。



「……そうか」


レグラスが言った。


「ありがとう」


ジジが少し眉を寄せる。


「何が?」


「姉の子を見つけてくれたことだ」


「……俺が勝手に拾っただけだよ」


「それでもだ」


「別に」


ジジはルナリスを見る。


「ルナだったから」


レグラスはそれ以上何も言わなかった。


長椅子の上で。

ルナリスはもう一度、眠り始めていた。


その白い髪へ窓から差し込んだ光が落ちる。


十八年前。


一輪の月下美人と共に残された赤ん坊。

それを見つけた孤児の少年。

連絡の途絶えた友を探して家を空けていたマリア。

そのマリアを頼りながら。

戻ることのできなかったレジーナ。


ばらばらだったものが。


十八年を経て。

ようやく。


一つに繋がった。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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