↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/144

十八年前

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

十八年前。

その言葉が、ジジの中に残っていた。


「……十八年前?」


「ああ」


レグラスが答える。

ジジはルナリスを見る。


「ルナが生まれた頃じゃねぇか」


誰も答えなかった。

その沈黙に。

ジジはゆっくり顔を上げる。


「……何?」


レグラスが続けた。


「姉が逃亡した時期と、ルナリスが生まれた時期は一致する」


「待て」


ジジが遮った。

レグラスが言葉を止める。


「十八年前って……」


記憶を探す。


遠い。

十歳の頃。

まだ今よりずっと小さかった。

孤児院。

森。

マリアの小屋。


「……マリア」


「何だ」


「あの時、いなかった」


アグラディアがジジを見る。


「いつ?」


「ルナ見つけた時」


ジジは目を伏せた。


記憶が少しずつ戻ってくる。

あの日だけじゃない。

その数日前から。

マリアの小屋へ行っても、いなかった。


扉は閉まっていた。


庭には植物だけが残っていた。

十歳のジジは、深く考えなかった。


マリアが家を空けること自体はあったからだ。


どこかへ薬草を探しに行ったのだろう。

誰かを診に行ったのかもしれない。

その程度にしか思っていなかった。


「何日か、いなかったんだよ」


「……」


「それで、あの日も小屋行ったけどいなくて」


帰った。

いつもの道を。

孤児院へ向かって。


そして。


「……いた」


ジジが呟く。


「ルナが」


孤児院の裏手。


籠。

布。

小さな赤ん坊。

白い髪。


「俺、小屋から帰る途中だった」


レグラスは黙って聞いている。


「泣き声して……見に行ったら、籠があって」


ジジの手に少し力が入る。


「ルナがいた」


あの時の小ささを。

今でも覚えている。

触るのが怖いほど小さかった。


「月下美人も?」


「……ああ」


「一輪」


「そう」


「他に、身元を示すものは」


「なかった」


名前も。

手紙も。

家族を示すものも。

何もなかった。


だからジジは。

その子がどこから来たのかを知らなかった。


「そのあとも、マリア帰ってこなかった」


「どの程度だ」


「ちゃんとは覚えてない。でも、すぐじゃねぇ」


数日。


それ以上だったかもしれない。

十歳の記憶は曖昧だった。


ただ。


ルナリスを見つけたあとも、

マリアの小屋がしばらく空いていたことだけは覚えている。


「……あの時」


ジジがレグラスを見る。


「マリア、何してたんだ?」


レグラスは少し黙った。


「姉を探していた」


「……」


「レジーナからの連絡が途絶えていた」


ジジの目が動く。


「マリアは以前から、それを気にしていたようだ」


手紙が減った。

そして。

途絶えた。


マリアは待った。

だが、返事は来なかった。


「姉の身に何かあったと考え、探しに出たんだろう」


「……じゃあ」


ジジの声が小さくなる。


「レジーナは、マリアのとこに来ようとしたってことか?」


「その可能性が高い」


「でもマリアはいなかった」


「ああ」


「レジーナを探しに行ってたから?」


「恐らく」


ジジが黙る。


胸の中で。

十八年前の出来事が。

一つずつ形を変えていく。


ただ留守だったと思っていた。

ただ帰ってこないと思っていた。

違った。


マリアはレジーナを探していた。

そしてレジーナは。

マリアを頼っていた。


「……すれ違ったってことか」


「おそらく」


レグラスの答えは短かった。


その一言が。

妙に重かった。


「マリア……知ってたのか?」


「何をだ」


「レジーナに子供がいたこと」


「そこまでは知らなかったと思う」


「じゃあ、帰ってきた時……」


ジジは眠っているルナリスを見る。


「俺が拾った赤ん坊が、レジーナの子供だって気付いていない?」


「それはない」


「何で?」


「籠の中に入っている月下美人だ」


「レジーナの紋章…か」


「マリアは月下美人の意味を知っていたはず」


「……」


「いずれマリアが戻る。

 そして何かしらの形で孤児院にいる白髪の子を見る」


レグラスが言う。


「その時、籠に月下美人があったと知れば」


「レジーナだって分かる……」


「ああ」


ジジは目を伏せる。


「マリア、知ってたけど言わなかったんだな」


レグラスは答えなかった。

それが答えだった。


「でも」


ジジが顔を上げる。


「だったら何で、ルナが孤児院にいた?」


誰もすぐには答えない。


「レジーナはマリア探してたんだろ?」


「ああ」


「だったら小屋で待てばよかったじゃねぇか」


「できなかったのだろう」


「何で?」


「追われていた」


ジジが黙る。

レグラスの声は静かだった。


「身籠った状態で逃亡していた可能性が高い。出産した直後だった可能性もある」


「……」


「姉自身が、いつ追手に見つかるか分からない状況だった」


その状態で。

赤ん坊を抱え続けることは。

その子まで危険に晒すことになる。


「でもマリアはいなかった」


「そういう事だ」


ジジの中で。


一つ。

思い出した言葉がある。

――姉は、お前の存在を知っていた。


「……俺?」


レグラスがジジを見る。


「何だ」


「レジーナ、俺のこと知ってたって言ったよな」


「ああ」


「マリアの手紙で」


「ああ」


ジジの視線がルナリスへ落ちる。


「じゃあ……」


言葉が止まった。


何を言おうとしているのか。

自分でも分かっている。


でも。


口にすると。

十八年前の出来事が全部変わってしまう気がした。


「……ルナをあそこに置いたの」


レグラスは黙っている。


「俺がいたから?」


アグラディアも。

シャイアも。

何も言わなかった。


レグラスがゆっくり答える。


「私は、そう考えている」


「……」


「姉がマリアを頼ってあの地へ向かったのなら、マリアの小屋を知っていた」


「ああ」


「そして、マリアから届いた手紙によって、

 近くの孤児院にお前がいることも知っていた」


「……」


「マリアが不在だった」


レグラスは続ける。


「姉には、時間がなかった」


ジジは何も言わない。


「だから、マリアが何年も気に掛けていた少年のいる場所へ、子供を託した」


「……」


「少なくとも、その可能性が最も高い」


ジジはルナリスの手を見る。


十八年前。


自分は。

たまたまそこを通っただけだと思っていた。

たまたま泣き声を聞いた。

たまたま籠を見つけた。

たまたま赤ん坊を拾った。


ずっと。


そう思っていた。


「……俺」


声が掠れる。


「選ばれてたってこと?」


レグラスは少し考えた。


「姉がお前自身へ直接託したと断言することはできない」


「……」


「だが」


レグラスが続ける。


「姉がお前の存在を知った上で、その孤児院を選んだ可能性は高い」


ジジは黙った。


眠っているルナリスの指が、少しだけ動いた。

握り返したわけではない。

ただ眠っているだけ。


それでも。


ジジはその手を離さなかった。



——————————————————————


「父上」


長い沈黙のあと。

アグラディアが口を開いた。


「一つ、聞いてもいいですか?」


「ああ」


「父上は、いつからルナリスがレジーナの娘かもしれないと思っていたんですか?」


ジジもレグラスを見る。

レグラスはすぐには答えなかった。


「シャイアから報告を受けた頃だ」


シャイアが僅かに顔を上げる。


「白い髪を持つ、異常な再生能力のある混血の子供」


レグラスがルナリスを見る。


「そして千里眼」


「それで?」


「疑っただけだ」


「だから僕に調査を?」


「ああ」


アグラディアの顔に、ようやく理解が浮かぶ。


「……そういうことだったんですね」


「確証はなかった」


「だから僕にもレジーナのことを言わなかったんですか?」


「ああ」


「僕、何も知らずに伯母の千里眼の記録を調べてたんですね……」


「そうなるな」


アグラディアは額へ手を当てた。


「父上、それくらいは教えてくださってもよかったんじゃないですか」


「先入観を持たせたくなかった」


「……そうですか」


納得しているような。

していないような顔だった。


ジジが二人を見る。


「でも、今日までは分かんなかったってこと?」


レグラスがジジを見る。


「そういう訳ではない」


レグラスは庭へ目を向けた。


「千里眼。月下美人。そして精霊との親和による髪色の変化」


一つずつ。

積み重なっていく。


「姉と同じ特徴が、これほど偶然に重なるとは考えにくい」


ジジはルナリスを見る。


「……」


レグラスが言った。


「まだ、話していないことがある」


「何?」


「私が、ここしばらく何をしていたのかだ」


ジジが顔を上げた。


「……どっか行ってたやつ?」


「ああ」


アグラディアも父を見る。


「父上?」


レグラスは眠るルナリスへ視線を戻した。


「それも、この子のためだ」

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。